52.外と内
「負けた......のか。」
俺とウガルの決着がついてから30分ほどした頃。
もはや位闘が始まる前に威勢を張っていたとは思えない、傷だらけのウガルは仰向けになったまま少し目を開きポソリと呟いた。
「なんだ、もう目が覚めたのか?苦しいだろうしもっと寝てていいんだぞ?」
そもそもこれだけの傷を負ってよくもまぁ、こんなに早く目が覚めたものだ。
並の奴ならもし生きていられたとしても数日は眠りっぱなしだろう。
「ふん、この程度。それで?位闘はまだ終わらんのか?」
「いや、ついさっきテイリが降参して終わったとこだ。そろそろ管理人が来るんじゃないか?」
チラッと横目でテイリを見てみると先日のアイリスと同様、顔を真っ赤に火照らせて悶えている。
と、そこに相変わらず何の気配もなく唐突にアグリスが現れた。
「御三方、お疲れ様でした。第48回、位闘勝者はツァキナ様の代理ハルト様となります。異議はございますか?」
「ない。」
「同じく。」
「......わ...っ、わひゃっ......んんっ...!」
「ではこれにて位闘は終了とさせて頂きます。次の位闘も私が担当しますのでまた10年後に。それでは失礼します。」
言葉になっていないテイリの返事にも気を止めずに淡々と言うことだけ言うとアグリスはフッと姿を消した。
「さて、と。とりあえず戻るか。」
傷だらけで全く動けないウガルと、媚薬効果で悶え苦しんでいるテイリを置いて俺はイザナ達の所へと移動し合流した。
「お疲れ様。案外手こずってたね。」
「あぁ。まさかアレを使わされるとは思わなかったよ。ウガルはともかくテイリはここ220年で相当強くなってるな。」
「はるとぉー!かっこよかったよ!」
「おぉ。ありがとな。」
抱きつきながら褒めてくれるリンジュの頭を撫でるとその後から着いてきたアリス達に恐る恐る視線を向けた。
ウガルを倒してすぐに人の姿へと再び化けてはいるが、あんな姿を見せてしまったのだ。
怖がられないはずが.........。
「パパ、凄い!かっこよかった!」
「はい!おにいさんすっごく強くてかっこよかったですっ!!」
「ご主人様、お疲れ様でした。魔王様に勝ってしまうなんて......。」
俺は3人の反応に言葉を失った。
どうしてだ?あんな禍々しい姿だぞ?何で......、
何で怖がらないんだ......。
「ハルトは心配しすぎ。」
「.........?」
俺の様子に考えている事を察したのだろうイザナが隣で言った。
「私達はもう皆知ってるもん。ハルトが優しくて私達の事を大切に思ってくれてるって。今更ハルトの本当の姿を見たくらいで怖いなんて思わないよ。それにハルトが嫌ってるあの姿もそんなに怖くないもん。」
「イザナ......。」
「そうだよ、はるとぉ!あたしはあの姿のはるとも大好きだよ!」
「リンジュも......ありがとな。」
正直、そう言われたところであの姿への嫌悪感が無くなるわけではない。
何百年も嫌ってきた姿だ。そんなに簡単に切り替えるのなんて不可能だ。
でも......それでも。
前より少し、ほんの少しだけ、本当の自分が好きになれたような気がした。