51.決着...........え?
ウガルは心底楽しそうに声をあげると再び拳を振り上げた。
もう身体は立っている事すら辛いはずだが、魔力の量は相変わらず化け物だ。
強化を緩める事なく大きな拳は再び俺の体へと振り下ろされ、俺の足は足首程まで地面へと埋まる。
重力負荷が減っていないという事は振り下ろす力は格段に上がっている。
この姿になってこれだけの衝撃ならもし人化した状態でまともにくらえば俺の身体はペシャンコになっていた事だろう。
なんて考えつつ、俺は息をついた。
「さて、と。行くぞ。」
若干睨むようにウガルへ殺気を飛ばすとウガルはニィッ!と頬を釣り上げた。
「ガハハッ!来ッ...グフォッ!!」
「言われなくても。」
言いかけたウガルの腹、まだ鱗が残っている部分に拳を叩き込むと一撃で鱗は砕け散り、ウガルの口からは血が溢れた。
だが、ウガルの頬は未だつり上がったまま。
そして次の瞬間、ウガルの巨体で遮られていた俺の死角からウガルの尻尾が現れ、俺を地面へと叩きつけようと後頭部を狙って振り抜かれた。
「フッ!」
だが、さっきまでとは格段に遅い。
ジャンプするモーションすら必要ない俺には到底当たる攻撃ではない。
片翼を軽く振るってウガルの頭上まで回避するとがら空きになっているウガルの後頭部へと蹴りを叩き込んだ。
ガゴンッ!
急所なだけあって腹よりも硬いが、分厚い鱗は砕けてウガルの身体はグラリと揺らいだ。
手応え十分。
ま、これだけの傷を負っていたのだ、再び俺に立ち向かっただけで流石と言えるだろう。
「さて、次はテイ...ガッ?!」
俺は後頭部に受けた衝撃にグラリと視界が歪み吹き飛ばされそうな所を翼を羽ばたかせて何とか数m離れた位置で留まった。
ほんの少しの油断。
決着は着いたと勝手に思い込み、ウガルのタフさを見誤った俺のミス。
「痛っ......。」
俺が居たのはウガルの背後、今のウガルの姿じゃ手足の絶対に届かない位置にいた。
尻尾もあのタイミングで俺を打つには確実に間に合わない。
なら一体何に打たれた?
そう考えながらウガルへ視線戻すと今までそこに無かった物がまた新しく生えていた。
「...尻尾......二本目?」
.........まだ隠し玉があったって訳か。
もう勝ち目の限りなく薄いこの状況での更なる技の披露。
やはりさっきまでのウガルとは違う。
「はは、ダメだな。...楽しくなってきた。」
位闘という大事な舞台。
それぞれが自らの国の民の為に全力を尽くして闘う。
本来楽しむような場でないのは分かっているが、そんな意とは裏腹に俺の気分は高まっていた。
闘いを楽しいなんて感じるのはイザナ以来だな。
「............ん?」
と、今すぐにでもこの高まった気持ちをぶつけてやろうと翼を広げた時、ズドォーン!と大きな音と土煙を上げてウガルは地面へと倒れた。
そしてすぐに大きかったその巨体はみるみると縮んでいき、あっという間に元のサイズへと戻ってしまった。
「.........は?......嘘だろ?」
このタイミングで強化を解く理由なんて無く、考えられるのは一つ。気を失ったという事だった。
「ふざけるなよ、これからだろっ!」
あまりに呆気のない幕引きに、文句を言ってみるものの、勿論返事はない。
「不完全燃焼もいいとこだぞ。.........はぁ。」
スイッチが入った所で突然終わるとかどんな嫌がらせだと深くため息を着いてからスッと視線を移すとテイリはビクゥッ!と肩を跳ねさせた。
「さて。」
アリス達の前で血を飲ませでもすれば俺がどういう種族なのかを知られてしまうが、幸いここはアリス達とはかなり距離のある位置だ。
つまり何が言いたいかと言うと、好きなだけやり放題という訳だ。