48.裏切り
「ほう、だいぶ抉ったと思ったが、さすがの治癒スピードだな。」
「オロボアにもこれだけは負ける気がしなかったからな。まぁ、オロボアに傷一つ付けられなかったんじゃ比較のしようもないだろうが。」
「ふん、治癒力が多少優れている程度でワシを挑発か?自信を粉々に砕くなどと戯言を言っていたがそれだけの口を叩く自信は何処から湧いているのだ?」
「はっ、デカくて硬くて早くて怪力な程度じゃねぇか。」
言っている自分でも程度という意味が分からないが、そろそろ準備も出来たし時間稼ぎは十分だ。
「空圧破。」
ぽそりと呟くと両手に一つづつ、そして右足を軽く上げて足裏に一つ空気玉を生成した。
そして間を置かずに足裏の空気玉を破裂させ、ウガルとの距離を一気に詰め、反応しきれなかったウガルの懐へと入り込む。
重力負荷を軽減して貰ってるとはいえ、反応速度が早まる訳では無い。
ウガルが動作を切り出すよりも早く攻撃してしまえばそれはもう転移などの魔法を使えないウガルでは躱すのはほぼ不可能だ。
俺の突然の飛び込みに呆気に取られたウガルの腹へと右手の空気玉を破裂させた勢いを乗せて全力で肘を叩き込む。
ガゴンッ!!
やはり硬い鱗。
腹の方なら少しは柔らかいかとも思ったが大して変わらない。
だがそれも想定内。
「オルァッ!!!」
腹に叩き込んだ衝撃で少し揺らいだウガルの体を再び同じ場所へと全力で足を振り抜き、ウガルの巨体を空中へと蹴り上げた。
重力負荷が軽減しているウガルの体は見た目ほどの重量はなかったお陰で数mほど浮き上がる。
「なっ...にぃっ?!」
翼がある種族や、飛行魔法が使える輩ならともかく、空を飛べない奴にとっては空中は最も不利な状況となる。
重力負荷の事を考えていなかったのか、空中へと蹴りあげられたウガルは驚きと焦りを含ませた声をあげ、俺は更に上へと蹴り上げるべく再び空気玉を生成して回避不可能なウガルの腹、さっきと同じ場所へと拳を叩き込んだ。
1発、2発、3発。
ウガルの足掻くように振るってくる尻尾や手足を空圧破で躱しながら同じ場所へとひたすら攻撃を続け、やがて腹の鱗は砕け、鱗の下の固い肌へと直に俺の拳は届いた。
「グルッフゥァァァァ!!」
流石に守っていた鱗が無くなるとかなりダメージが通るようで初めて苦痛に顔を歪めながら声を荒げるウガルにあと少しだと頬を緩めた時、遥か後方で何やら叫ぶ声が聴こえた。
「雷帝神威・極堕っ!」
途端に真上にいるウガルの向こうにかなり大きな魔法陣がグウォン!と広がる。
当然この魔法を使ったのはこの場にいるもう一人の位闘参加者であるテイリだ。
ウガルが想定外の強さだったせいで完全に忘れていた俺のミスだが、開始直後から今までの長い時間掛けて発動したこの魔法。
戦争中に他の奴らから魔力を借りて使っている所を1度だけ見たことがある。
その時は確か数千の敵をたったの一撃で......消し飛ばしていた.........。
......あ、やばい、これ下手したら死ぬ。
魔法陣にバリバリと音を立てて電気が走り、瞬く間に魔法陣の中心へとそれらは集まる。
「クソが!やはり裏切るかぁ、ゴミ種族がぁぁぁあああ!!!」
ウガルは上空に浮かぶ魔法陣を見て叫んだ。
その瞬間、集まった雷はカァッ!と光を放ち、まっすぐ俺とウガルの方目掛けてバリバリっ!とけたたましい音を立てながら落ちてきた。
くそっ!使うつもりなかったのに......。
俺はあまり気乗りのしない思いで奥歯を噛み締め、そして唱えた。
「魔制解除。」