46.本気
さて、どうしたものか。
俺だけ重力不可を増やされて動きを制限されていたんじゃウガル相手に体術での真っ向勝負はどう考えてもきつい。
となると1度結界を張って様子を伺うのが無難なとこか。
「魔孔結...グファッ?!」
まだウガルとの距離は十分、魔孔結界を展開しようとした時、一瞬で目の前へと移動してきたウガルの拳が下腹部を強打し、すぐ後ろにある外壁へと背を叩きつけられた。
「うぐっ......、」
やたらめったら硬い外壁。
これだけの衝撃でヒビすら入らない外壁のお陰でその全ての衝撃が俺を襲う。
「休んでる暇はないぞ。」
そうウガルの声が聞こえた時には俺はウガルの連打を浴びていた。
「うっぐ......いっ......、」
言葉を発する余裕もない。ましてや結界を張る間など与えてくれずウガルの拳は俺の全身をひたすら殴打し続けた。
それにしてもおかしい。
さっきのウガルとの間合いは確かに結界を展開するのには十分な距離があった。
だとするとウガルは初撃をあえて遅くしたというのか......いや、有り得ないわけではないがウガルはそこまで頭を使う奴じゃない。
だとするならば。
俺はウガルの連打を浴びながらその遥か後方でひたすら魔法陣を構成しているテイリに視線をやる。
俺には重力不可を増やし、ウガルには重力不可を軽減させる。
テイリなら出来かねない。
しかもその上で別魔法の魔法陣を並行して構成している。
ったく、敵にしたらどこまでも厄介なやつだな。
それにウガル、お前もそろそろ、
「うぜぇぇぇえっ!」
右足に割増で魔力を集中させて全力で振り抜く。
その足はウガルの胸の辺りを捉え、ウガルは地面スレスレを水平に吹き飛んだ。
「ったく、調子にのっていつまでも殴りやがって......。」
「ふっ、やはりこの程度では殆どダメージは通らんか。」
「あぁ、そうだよ。だからさ、」
俺は一つ間を置くと、あまり表に出す事のない殺気をウガルへ真っ直ぐ放つ。
「温存なんか考えずに全力で来い!」
どうせ次にテイリを倒す事を考えているんだろうが、それは俺を倒せたらの話だ。
「ガハハ、面白い!今回はアレを使うつもりだったからな。その言葉、後になって後悔しても知らんぞぉぉぉぉおおおおおっ!!」
ウガルはそう叫ぶと、魔力を振り絞るかのように力を込めたていく。
そして魔力が高まれば高まるたび、一回り、二回りと身体が大きく巨大化していき、数秒後にはさっきの倍はあろうかという所まで大きくなり、それと共に肌には黒い鱗のようなものがビッシリと生え、身体のあらゆる場所に鋭く尖った角が生えてきた。
「なんだこれ......。」
今までオロボアが出る位闘に全て立ち会った訳では無いが、こんな姿になってれば俺に後日話したはずだ。
ということは今までオロボアとの闘いでは負けてもなお温存してたって事だろう。
「言わいる最終形態というやつだ。偉そうに全力で来いと言ったのだ、すぐに終わってワシを拍子抜けさせてくれるなよ。」
前々から魔力だけは多いと思ってたが今感じる魔力は今までのとは訳が違う。
ウガルは頬をニィっと釣り上がらせるとスッと腰を落とした。
来る!
そう感じた時にはウガルは残像をその場に残してその重量からは想像も出来ないスピードで俺の視界の隅まで飛び込んできていた。
もはやどう対処するかなんて考える暇はない。
今までの経験を元に反射的に右拳に魔力を込めるとウガルを視界に捉えた方へ向けてなにも考えずに拳を振り抜く。
ガゴンッ!
拳同士がぶつかったとは到底思えない音を立てながらも俺の拳はきっちりウガルの拳を捉えた.........が。
拳から手首、そして肘から肩へと衝撃が走り、打ち抜いた俺の右腕のあらゆる場所からミシィッ!と明らかに鳴ってはいけない音が聞こえた。
そして次の瞬間。
俺の足は地面を離れ、遥か後方、サタキリ達がいる観戦場のある外壁まで弾き飛ばされた。
相変わらず硬い壁に背中を打ち付けられ地味に痛いが何よりも右腕が痛い。
肩から肘にかけては骨にヒビが入った程度で済んだが拳に至っては骨がバキバキに砕けて見るも無残な事になってしまっている。
「くっ......イザナのパンチを思い出してしまうとはよっぽどだな。」
なんてぽそりと呟いていると、ウガルは再び腰を落とした。
「はぁ、とにかく正面から受けるのは避けねぇとな。」