45.元魔王とエルフと淫魔。
30分が経とうとした頃、再び現れた管理人のアグリスに全員が集められた。
「お時間となりましたので、ルール確認を終えしだい位闘を行わせて頂きます。まず勝敗の条件ですが、自身の負けを認める、この会場の外へと出る、もしくは戦闘不能となった時点で敗北となり、2人が敗北した時点で残っている1人が勝者となります。位闘中、死者が出ても勿論中段はせず、罪にも問われまん。
続いて反則行為ですが、敗北が決まった者を故意に追い討ちをかけた場合、そして位闘に出ていない者に対し故意に攻撃をした場合は即時失格となります。失格は敗北と同じ扱いになり、更に失格者には位闘が終わった後に我々の方で処分させて頂きますのでくれぐれもお気を付け下さい。」
反則行為として身内へと攻撃は規制されているのか。
もとよりそんな事させるつもりはないが、ルールで縛ってくれてるならそれに越した事はない。
にしても、失格者は我々の方で処分...か。
我々っていうのも気にはなるが、本当に得体のしれない奴だ。
「何かご不明な要素、あるいは明確にしておきたい事などありますか?」
10年毎にやってきた事だ。位闘メンバー及び、その他のメンバーの誰も聞くことはない事を確認するとアグリスは両の手を胸元へと挙げた。
「ないようですね。それでは今より位闘を初めます。」
パンッ!とアグリスが手を叩くと次の瞬間。俺の目に映る景色は後方100m程移動した所へと移り変わっていた。
後ろを振り返ってみるとイザナ達がいる隣でツァキナとフェルも俺の方を見ている。
始めるにあたって参加者以外を観戦場へと移し、尚且つ開始時、他の参加者との距離を作ったのだろう。
「にしても、あそこにいた全員をそれぞれの場所に1度に転移させたのか......。」
っと、もう位闘は始まってるんだった。無駄事考えてよそ見してる場合じゃない。
と、視線をウガルとテイリの方へと戻した時、突如爆発するかのように1人の魔力が膨れ上がった。
この魔力はウガルのものだ。
グルゥォォォオオオオッ!!!
と雄叫びを上げながら更に魔力を高めていくと、ただでさえ3m程ある巨漢が更に2倍、3倍と増していき、10mを超えた所で両の拳をゴンッ!と突き合わせて準備完了と言わんばかりに、紅い眼でギロリと俺をロックオンするかのように睨みつけた。
ウガルは並外れた魔力と身体能力で力任せな戦いをするのが特徴だ。
俺と同じ、いやそれ以上に細かい魔法が苦手で闘う時はいつも魔力で上げれるだけ身体を強化して後は力勝負一択だ。
見たところまだ全力の強化ではなさそうだしまずは小手調べといった所だろうか。
まぁ、手強い相手だが、問題があるとすればもう1人の方だ。
位闘が始まりウガルが身体強化しているのを完全に無視してひたすら魔法陣を構成している。
魔法陣は基本的にどの魔法を使うにも必要な術式の事だが、強い魔法になればなるほど難解な魔法陣になり、当然構成時間も多く必要になる。
エルフは魔法陣を組むのが得意な種族で、その族長のテイリなら魔法陣構成時間も大分短縮されている事だろう。
と、呑気に2人の様子を観察していると、身体強化を終えたウガルが地面を抉る重量と脚力で300mはある距離を物凄い勢い詰めるように駆けた。
ダン!ダン!ダン!とけたたましい足音が会場全体に響く。
「まずはお前から叩き殺してやろう!」
ウガルはそう言うと一層強く地面を蹴り一気に間合いへ入るとその巨体の持つ、大きな拳を俺めがけて振り下ろした。
「ふん、そんなもんがあた......グェッ?!」
ひらりと既の所で交わし、その懐へと軽くお見舞いしてやろうと、回避の動作へ移ろうとした時、突如襲った身体の異変にウガルの拳を何の受け身もなく顔面にくらってしまった。
ゴンッ!と1度地面に叩きつけられると俺の体は跳ねて外壁すぐの所まで吹き飛んだ。
「痛ってぇ.........。テイリの仕業か...。」
さっき身体に感じた異変、いや、今も尚感じているこれは紛れもなくテイリが得意とする重力魔法だ。
本来、使いたい空間を指定して使う魔法だが、テイリの場合は指定した相手の周辺に発動するという、とんでも器用な神業を使ってくる。1度かかってしまえば魔法を維持出来ないように本人を叩くしかない、本当に厄介な魔法だ。
俺は少し切れた口内の血をぺっと吐き出し再び駆けてくるウガルに備えて体制を落とす。
「テイリのやつ、俺にだけ重力魔法かけやがったな...。」
ウガルのあの動き、重力不可を上げられているようには到底見えない。
それにウガルもテイリには目もくれずに俺を攻撃対象として捉えている。
テイリを後回しにしても問題ないと捉えているようにも考えられるが、恐らく2人が手を組んでいるのは間違いないだろう。
「ったく、こりゃ終わったらイザナにたくさん癒して貰わないとなっ!」