44.従者
30分の自由時間を与えられ、三大魔王それぞれが少し離れた場所を陣取り仲間内で時間を潰し始めた。
「とりあえずお主らは観戦場へと先に移動しておれ。」
ツァキナは外壁中段あたりに造られた観戦場を指さしてフェルを除く配下へと指示を出す。
「まぁ、これから30分は何もないだろうしイザナ達も先に観戦場に移ってていいぞ。」
「ん。分かったわ。」
「パパ、頑張ってね。」
「お兄さん、頑張って下さい。」
「ご主人様、頑張って下さいね。」
「はるとぉ、ご褒美、ほんとにほんとだよね?」
それぞれの応援に、フィオルとアリスの頭を撫でる。
リンジュはともかく、サヤナは頭を撫でるのはやめてとイザナに言われ渋々了解したのだ。
元からサヤナの頭を撫でる事は少なかったが、これでまたサヤナに触れる機会が減ったのは確かだ。
「あぁ、頑張るよ。絶対に負けないから安心して見ててくれ。イザナ、一応気をつけるがもしもそっちに何かあったらアリス達を頼んだぞ。」
「分かってるわ。じゃ頑張ってね。ほらじゃあ皆いくよ。......鳥も!」
イザナは俺にしがみつき離れようとしないリンジュを力技で剥ぎ取り引きずるように観戦場の方へとツァキナの配下と一緒に歩いて行く。
「ハルトよ、お主はどうするのじゃ?テイリはお主の従者なのじゃろ?位闘前に話す事はないのか?」
「んー、そうだな。少し顔合わせるくらいはしとくか。」
そう言って魔王サタキリ達のいる方へ目を向けると、ちょうどテイリも俺の方を見ていて目が合った。
クイクイと人差し指で出てくるよう合図を送ると、サタキリに許可を取ろうとしたのだろうか、少し話すと俺たちの方へ向かって歩いてきた。
俺もそれに合わせてツァキナ陣から出ていき、ちょうどサタキリ陣とツァキナ陣の中間地点にあたる所で俺から220年ぶりに声をかける。
「久しぶりだな。テイリ。」
「お久しぶりですわ、ハルト様。220年ぶりですわね。」
「だな。久々の再会がまさか位闘で、そのうえ敵だとはな。」
「相手を知らせてもらっていなかったのでリンジュ様が見えた時は驚きましたわ。またあの国へ戻られたんですの?」
「いや、家にメイドが仕事の依頼に来てな。これが終わったらまた家に帰るつもりだ。それよりお前こそなんでサタキリの代理なんかやってるんだ?聞いた時は驚いたぞ。」
話の流れでずっと不思議に思っていた事をそのままぶつけるとテイリは少し表情を暗く曇らせた。
「そ、それは色々と事情というものがありますの。ですから今回は相手がハルト様でも本気でやらせていただきますわ。」
「あぁ、もちろんだ。俺も本気でやらせてもらうから覚悟しとけよ。」
「.......分かりましたわ。」
「じゃあ、そろそろ戻るな。」
そう言って、ツァキナ達の元へ戻ろうとした俺だったが、どうも表情の暗いテイリが気になってすぐに足を止めた。
「テイリ。」
「はい、なんですの?」
「俺は220年前に国を出てお前達の誰とも会ってなかったが、今でもお前達は俺の大切な仲間だ。だからもし困ってる事があって、俺に助けて欲しい時は遠慮なく俺を頼れ。.......ま、無ければ無いでいいんだけどな。それじゃまた後でな。」
サタキリに脅迫でもされているのか、はたまた交換条件でも出されたのか。
何にしろ無償で代理を受けるなんてまず考えられない。
「.......はいですわ。」
テイリはぽそりと小さく返事を返すのだった。