43.集結
「随分と待たされたぞ。」
会場へと舞い降りると既に他の魔王は到着していてウガルが苛立った様子で声を上げた。
待たされた、と言っても別に俺達が遅れた訳では無い。ギリギリであったがきちんと時間内、ただ他の連中が早いだけだ。
俺はアリスとフィオルを抱き上げるとヒョイとリンジュの背中から飛び降り、それにツァキナ達も続く。
「10年ぶりじゃの。ウガル。」
「かっ!小娘がわしを呼び捨てにするな。」
「小娘だろうと何であろうと妾は魔王、そしてお主は元魔王じゃ。お主こそ立場をわきまえるべきじゃと思うがの?」
ニヤリと笑みを浮かべるツァキナ。
「随分とデカイ口をたたくじゃないか。代理を立てなければ勝負にすらならなかった分際で。」
「代理を立てたのはお主の国もであろう。」
ウガルは相変わらずの巨漢で魔王の雰囲気をビリビリと感じ、それに張り合うツァキナは容姿はまだ子供で今にもひねり潰されそうだが、口の方は既に1人前のようで真っ向から言い合う。
アリスとフィオルはそんな2人に怯えてイザナの後ろに隠れているがサヤナは堂々としたもので、イザナの隣で全く動じずそのやり取りを見ている。これも毎日のようにイザナと食料調達に行っている賜物だろうか。
と、その間も言い争いをやめない2人にフェルが仲裁に入る。
「ツァキナ様、それくらいにして下さい。ウガル様も。位闘で全て決まるのですから今言い合うのは無駄というものですよ。」
「うむ、そうじゃな。ではさっさと始めるとするかの。」
「捻り潰してくれる。」
2人の言い争いが終わると、そのタイミングを待っていたかのように、皆の目の前に一瞬で中年の男が姿を表した。
「ツァキナ様、お待ちしておりました。私はアイザンドの5代目管理人のアグリスです。今回の位闘では情報の中継役から審判まで位闘全ての仕事を担当させて頂いております。それでは、予定通りこれから30分の準備時間を待ちまして第48回の位闘を行います。どうぞご自由にお時間をお過ごしください。」
アグリスは頭を下げるとすぐに姿を消した。
アイザンドとはここの会場の名だ。
そしてここの管理人は代々1人、どの魔王派閥にも属さない者が務め、位闘を問題なく終える為に動くのが仕事だ。
魔王同士の争いを管理する、危険でないはずがない。故にアイザンドの管理人は相当の実力が必要とされる。
今消えたのもただの潜伏魔法や透明化の魔法なんかじゃない、姿だけでなく魔力までもが一瞬にして消え失せた。それも魔法発動の素振りもなしに。
前の管理人にも会った事はあるが、やはり謎の多い事に違いは無かった。
使っているのが魔法なのか、そうでないのか。そもそも種族は何なのか。
その一切が位闘が始まってからの管理人、1人として明らかにはなっていない。
だからこそ、今まで位闘で魔王が何か問題を起こした事など1度もないのだ。
正体不明のアイザンド管理人を敵に回さない為に。