42.この日が来た。
数日が経ち、ついに位闘開催当日となった。
アリス達との街で店巡りや、魔族同士で闘う闘技場の観戦などなかなかに充実した時を過ごしてきたが、これからついに位闘の開催地へ向けて出発する。
転移魔法を使える奴はオロボアの死後、皆この国を出たそうで開催地までは自力で行かなくてはならない。
「まさか転移魔法使える奴が1人もいないとはな......。」
「だから昨日出発しようと言ったのじゃが。」
「間に合わなかったじゃ洒落にならないが、まぁ、問題ねぇよ。」
そう言って俺は腕にひたすら絡みついてるリンジュの頭にポンと手を置いた。
「一応聞くぞ?何人運べる?」
「............狐以外ならここにいる全員運べるよ。」
ほほう。
人数を言わない辺り少しは学習能力があったようだ。
「そっかぁ。ここの全員を運べる程の優秀な従者にならご褒美に1度何でも言う事を聞いてやろうと思ってたんだけどなぁ。でも聞き間違いだったらいけないな。もう一度聞くぞ?......何人運べる?」
「え、えっ、ぜ、ぜんいん!全員運べるよ!ねぇ、あたし全員運べる優秀な従者だよっ!」
「そっか、そっか。じゃあ、さっそく頼むわ。」
ほんとうにチョロいなぁ。
「ねぇ、はるとぉ、さっきの本当だよね?ご褒美ってほんとにあるんだよね?」
「あぁ、俺は嘘はつかねぇよ。この一件が片付いたらものにはよるが基本的に何でもきいてやるよ。」
前に角と鉤爪を貰ったお詫びも兼ねてちょうどいい機会だ。
まぁ、性的な事となればお互い無事じゃ済まなくなるからものにはよるが。
「はい、乗ってぇ!」
ズドーンッと音を立ててドラグーンの姿へと変わったリンジュが乗りやすいように屈む。
鉤爪はもうすっかり生え揃っているが、まだ角は全く生えていない。角が生えるのに時間がかかるのはドラグーンの特徴の1つだ。
「こ、これほど立派なドラグーンだったとは.........。」
普段の頭の弱いリンジュしか見ていなかったツァキナはそうこぼし、共に同行するツァキナの部下5人もその巨体に目をみはった。
「ほら、さっさと行かないと遅刻するぞ。あ、サヤナは俺が........。」
いくら屈んでも背中までは結構な高さがある。
サヤナを背中へと運ぶという口実でこの機にサヤナに触れようと振り返るとサヤナはイザナにおぶられてヒョイとリンジュの背中へと飛び乗った。
「.........アリス、フィオル。」
俺もアリスとフィオルを両手に抱いて飛び乗る。
いいさ、別にいいんだ。
サヤナほど豊かじゃなくたって柔らかい美少女に変わりない。
そうだ。......いつものことじゃないか。
「みんな乗ったぁ?じゃあしゅっぱつぅー!」
リンジュはそう声を上げると翼をバンッ!と広げると一振りして宙を舞い、もう一度力強くはばたき一気に空高く舞い上がった。
乗ってすぐにフェルが魔法壁を張ってくれたお陰でグングン物凄いスピードで飛んでいるというのに風を全く感じない。
俺が張っても良かったのだが、位闘には万全の状態で挑んでほしいとの事らしい。
トップスピードを出していないリンジュの背中はそれ程の揺れもなくなかなか良い乗り心地だ。
そしてほのかに揺れるリンジュの背中に揺られて1時間が過ぎた頃。
位闘の会場が微かに見えてきた。
「そうだ、イザナ達はこれ身につけてくれるか?」
俺はそう言ってイザナ、アリス、サヤナ、フィオルの4人にそれぞれのサイズのフード付きのマントを手渡す。
「顔を知られればそれだけで危険が増すからな。これでくれぐれも顔を見られないようにしてくれ。イザナは顔バレは戦争中にしてるだろうが位闘に獣人がいるって時点でややこしい事になるから隠しててくれ。」
「ん、分かった。でも何かあった時は手出すからね?」
「あぁ、位闘中は戦闘に集中したいからアリス達の事は一切任せる。頼んだぞ。さて、そろそろみたいだな。」
広い背中の端から前方を覗くと高さ20m程の塀で囲まれた半径300m程広く平らな会場が見えてきた。
「ハルトよ、それではよろしく頼むの。妾の為に、そしてなにより国の為に。」
「あぁ、任せろ。あんな素敵な店がある国だ。絶対に俺が勝って守ってやるよ。」
素敵な店?と首を傾げるツァキナに対してイザナとサヤナの冷たい視線を受けながら俺達は会場へと空から舞い降りた。