41.その相手は、
城へと戻り、イザナたちを部屋に残し一人でトイレへ向かっていると、ちょうど仕事を終えたのか、んーっ!と体を伸ばして歩いてくるツァキナにばったり会った。
「おつかれ。」
「帰っとったのか。どうじゃ?街は楽しめたかの?」
「あぁ。色々あってアリス達には全然案内出来なかったが平和でいい街だったぞ。これならまたアリス達を連れて行くのも悪くないな。」
イザナと回って面白い店や美味しい料理を出す店を幾つか発見したからな。次はもっと時間を有意義に使えるはずだ。
「そ、そうか!それは何よりじゃ。」
ニコッと笑みをこぼすとツァキナはすれ違い、そして思い出したようにさらに言葉を続けた。
「あぁ、そうじゃ。位闘へ他に誰が出るのかもう決まっておるから後でフェルから聞いてくれの。」
.............。
そうか、俺達が最後だったのか。さて誰がくるか。
そしてトイレから帰るとアリスとフィオルはサヤナと一緒に部屋の隅にあるソファに腰をかけて果物を楽しそうに食べていて、フェルとアイリスも来ていた。
「あ、フェル。」
ちょうど良かった。
「皆さんが戻られたと聞いたので位闘の出場者をお伝えに。」
「俺もこれから聞きに行こうと思ってたところだ。で、アイリスは?」
「ん、私も一緒に聞こうと思ってな。ついでに今朝の苦しみを少しは愚痴ろうかと。」
「.................まぁ、真剣勝負だしな。」
後遺症が残るようなもんでもないし、多少卑怯ではあったかもしれないが責められる言われはない。
と思っているとまさかの所からアイリスに加勢が入った。
「ハルト、あれは謝るべきだと思うよ?あれ辛いんだよ?そういえば私もまだ謝ってもらってないんだけど?」
「イザナに関しては戦争中だったし、それを言うなら俺だってお前に手足を何回もがれた事か。」
「.........あの最低な効果を皆にバラすよ?」
.........................。
「二人ともすいませんでした.....。」
「ん、許す。」
脅しに屈して深く深く下げた俺の頭をイザナが撫でてくれる。
「あのー、そろそろ出場者を発表してもよろしいですか?私はまだこれから仕事があるのですが。」
「あ、あぁ、頼む。」
「まず現魔王アイザン様が統べる《グランド》からは代理として先代魔王のウガル様が出場なされます。」
.........ん?
「待て、ウガルは魔王辞めてるのか?」
「はい。45年ほど前に息子のアイザン様へと王位を継承されてます。それと同時に位闘にはアイザン様が参加なされていたのですが、実力は今もなおウガル様の方が上だと言われていますので今回は本気だと思わざる得ませんね。」
「そうか。まぁ、確かにオロボアが出る以上はウガルに勝ちは万に一つもない。どうせ負けるなら誰が出ても同じ事か。」
そしてやはり他の魔王はこの機を逃さんとしてるって事か。
「で?もう一人の魔王は誰を代理に出してきたんだ?」
サタシヤは俺がオロボアに支えてる時には死にかけの老魔だったし、あいつの息子が王位を継いでいても本人が出るなんて考えられないからな。
「現魔王サタキリが統べる《ストレチリア》からは代理としてエルフの族長テイリ様が出場なされます。」
「は、テイリが?」
「お知り合いなのですか?」
「まぁな。」
「テイリは戦争中、はるとが率いる班にいたんだよ。あたしの後に従者になったからあたしの部下みたいなものなんだぁ!」
...........いや、それはどう考えてもおかしいだろ。
実力じゃお前の方が上かもしれないが、おそらくあいつはお前の部下だなんて一度も思った事ないと思うぞ。
「ねぇ、ハルト。テイリって私とハルトが闘ってる時に重力魔法使ってたあのエルフ?」
「あぁ。エルフがこの国と同盟組んでたわけでもないからストレチリアに付くのは構わないがあいつが魔族に協力なんて珍しいな。」
「そもそもなんで戦争中に魔族側に付いてたの?エルフって極端に他種族との交流を拒んでるのに。」
私達も一度声かけたのに......、とイザナは首を傾げる。
そんなイザナにリンジュが真面目な顔で口を開いた。
「狐、それは違うよ。」
「どういうこと?」
「テイリは魔族側にはついてないよ。テイリは、はるとの従者。はるとの下で戦ってたけど、オロボアの命令なんて一度も受けてないもん。あたしとおんなじ。」
「昔、人間の召喚した勇者共が俺達魔族と戦うためにエルフを仲間に引き入れようとしてな。もちろんエルフは断ってたんだが人間達はエルフの子供達を攫って従わざる得ない状況を作ろうとした事があったんだ。で、その情報を聞いた俺がエルフの子供達を取り返す為に人間の国に攻め入ってひと暴れしたって訳だ。テイリはその攫われたエルフのうちの1人なんだよ。」
もしエルフが人間に加担すれば魔族側には多大な被害が出るのは目に見えてたってのもあるが、子供を攫って従わせるなんて卑怯な手を使う人間が許せなかったのだ。
「まぁ、そんな訳で俺の役に立ちたいだとかでくっ付いてたんだが、それも200年以上も前の事だ。どういう理由で向こうに付いてるのかは知らないが別に知り合いだからって手を抜くつもりもないし、負けるつもりなんて毛頭ない。」