39.心の中
魔族が行き交い賑わう大通りをイザナの隣をついて歩く。
「こうやって2人で歩くの久々だな。」
「そうね。」
アリス達が家に来てからは二人っきりの時間といえば夜の就寝時と風呂くらいだからな。
そして暫く無言のまま歩き、やがて俺から口を開いた。
「.........怒ってるか?」
「...そう思う?」
「まぁ、そうだな。」
どこからどうみても。
「そう...。」
「............っ?!」
イザナの手がふいに俺の手を取った。
突然繋がれた手にドキッとしながらも何も言わずにその手を握りかえす。
「...私ね。アリスちゃんとサヤナちゃんを買わなきゃ良かった、フィオルちゃんを受け取ればなんて言わなきゃ良かったって時々思うの。」
「えっ?!」
あまりに想定外の告白につい声を出して驚いてしまう。
毎日あんなにみんな仲が良くて、そんな事を思ってるなんて微塵も感じなかったからだ。
「どうしてだ?」
「...私ね、自分がこんなに嫉妬しちゃう女だなんて思いもしなかった。ハルトがサヤナちゃんはもちろん、フィオルちゃんやアリスちゃんと話している度に胸が苦しいの。」
っ?!
......俺は胸を抑えて心苦しそうに打ち明けられたイザナの言葉に心臓が締め付けられるような錯覚を起こした...。
少し考えてみればわかる事だ。
俺だってイザナが他の男と話してたら嫌だし、イザナが男と風呂になんて入った時には......。
子供を買う時に男の子を嫌だと思っていた俺がフィオルと風呂に入っていた。
あの時イザナはすぐに許してくれたが、俺はイザナにどれだけ辛い思いをさせてたんだろうか。
イザナへの途方もなく申し訳ない気持ちが俺の胸を一杯にする中、俺にはまた別の感情が湧き上がっていた。
「ごめん...。でも、嬉しいよ。」
「え?」
「イザナがそれだけ俺の事が好きって事だろ?だから凄い嬉しい。俺だってイザナが他の男と話してたら嫉妬くらいするし、その男を殺したくなるかもしれない。220年も一緒にいたのにこんな簡単な事にも気付けなかったなんてな。」
「ハルト......。」
自分の気持ちが俺に届いた事で少しは楽になったのだろうか、イザナの表情は少しだけ和らいだ。
よし、このタイミングならいけるか!
俺はチャンスを逃さず言葉を続ける。
「でも、それならいい解決策がある。」
「なに?」
「お互いの愛を確かめ合う。つまりエッ「やだ。」......チ............。」
「なに?結局それ?」
..................これでもダメか。
「ま、まさか。冗談だよ。」
まだ諦めてなかったの?という冷たい視線に目をそらす。
「ふーん...。」
「ま、まぁ、とにかくさ、今日は楽しもうぜ。せっかく子供たちを預けての二人っきりデートなんだから。」
「そうね。久しぶり。」
「だな。思い返すと最近は全然してなかったもんな。」
ずっと二人っきりだったし、たまに狩りに同行する事もあったからデートに近いものは何度もしてきたが、こうして街でのちゃんとしたデートはなかなかする機会がなかったのだ。
「じゃあ、たっぷりこの街を案内するよ!......といっても220年ぶりで何処も変わってるけど。」
それから俺達は2人で探り探りのデートを堪能するのだった。