35.参加者
「お兄さん凄かったです。」
「パパ凄い!」
「そうだろ、そうだろ。」
トイレからフェルの部下のこれまたメイド服を着た可愛い魔族に連れられて戻ってくるとフィオルとアリスは楽しそうに駆け寄ってきた。
元々の目的である、俺の良いところを見せる。は無事に達成出来たみたいだな、と俺の頬が緩む。
イザナなら俺が勝っても『勝てて当然でしょ?』としか思ってないからこんな2人のような反応はしてくれないだろう。
信頼してくれてるのが嬉しいのやら、残念なのやら...。
「お疲れ様でした。」
子供2人と違って落ち着いているサヤナが遅れて近づいてきた。
「おう、ありがとな。」
「ご主人様、最後はどうやって勝ったのですか?見ていたのですがイマイチ分からなくて.....。私は何か見落としていたのでしょうか?」
「え、あ、そ、そうだな。目で見えない速さで攻撃したからな。」
「そうだったんですか、残念です...。」
そんなに気を落とすなよ。時には知らない方が良い事だってあるんだぜ?
「ん?そういえばフェルは?」
一緒にトイレに行ったって言っていたのに戻ったのはアリス、サヤナ、フィオルの3人だけだ。
「あぁ、それなら位闘に誰が出場するのかを知らせに行ったんじゃと思うぞ。3人の出場者が決まらん限りお互いの出場者は明かされないようになっとるからの。」
「って事は二人の魔王は誰を出すかまだ分からないって事か。」
「そういう事じゃ。.........母上につかえとったのに知らないのか?」
「俺の仕事は戦争と偵察がメインだったし、位闘に関しては心配する必要も無かったからな。」
当時、位闘の舞台に立たない俺達にとっては位闘に勝つのは当たり前で、その後の祭りを楽しみにしてたくらいだ。
「さて、じゃあ、そろそろ街に行くか!」
「街ですか?」
「あぁ、魔族の暮らす街っていっても良いところが一杯あるんだぞ。それをいろいろと紹介したくてな。あ、アリスとサヤナにも帽子だ。耳倒したらかぶれるよな?」
「はい。ありがとうございます。」
「パパありがとう。」
二人はペタリと耳をたたんでその上につばの広い帽子を被った。
「リンジュも行くか?」
珍しく静かに俺の腕にしがみついてるリンジュに聞いてみる。
まぁ、どうせ聞かなくてもついてくるだろうが。
「いく!ついてくよ!どこまでもついてくよ!だって私は、」
「元従者でしょ?」
「狐うるさい!今も従者だっ!」
.......はぁ、ほんとにこの二人は.....。
「さて、じゃ行くか。」
◆
魔界のツァキナが王を務めるハウサラスの隣国、ウガルが魔王として統べる国、アルフェルスト。
「ウガル様、位闘での両国の代表が決まりました。」
駆け足で来たのだろう、少し息の上がった魔族が扉を開いた。
「ほう、ようやくか。国の代表の戦いなのだから魔王が来るのが当然だろうが、こうも時間をかけたという事はどちらかは代理人を立てたか?」
位闘に相当な自身があるのだろう、余裕の笑みを浮かべて机に置いてある大きなステーキを一口でたいらげる。
「いえ、代理人を立てたのは両国共です!」
「.........ガハ、ガハハハハ!まったく何と情のない輩ぞ。で?その代理人は誰だ?まぁ、誰が来たとしてもワシの勝利に揺らぎはないがな。」
「もちろんにございます。代理人は魔王サタキリの代わりにハイエルフのテイリ。」
「テイリ?あぁ、あの小娘か。」
ふん、とその名を鼻で笑うウガル。
「そして魔王ツァキナの代わりに.........初めて聞く名ですが、ハルト、という者が出るそうです。」
「..................もう一度言ってみろ。」
普段大抵の事では動じないウガルの妙な反応に配下の男は少し不安を感じる。
「代理人はハルトという者です!」
「..................クソがっ!」
ハルトという名を改めて聞いてウガルは机に並べられた数々の書類や食べ物を横へと薙ぎ払った。
「ウガル様っ?!」
「すぐにサタキリへ使いを出す!今空いてる者をここへ連れてこい!......グズグズするな!」
「は、はい!」
◆
「先代魔王ウガル殿とツァキナ姫の代理人がハルト............ですか.....。」
ウガル殿は未だ衰える事なく、現魔王をも凌駕すると聞いていますから想定内でしたが、ハルト......ですか。想定外も想定外、当の前に可能性を除外していた人物が来ましたね......。
サタキリは少し眉を潜めながら部下を前に椅子へと腰を下ろした。
「サタキリさま、ハルトという者を知っておられるのですか?」
「えぇ、会った事はありませんがね。父上から何度か聞いた事があります。なんでも、「あれは常識を逸脱している」と。」
知識を少しでも多く私に伝えようと様々な事を話してくれた父上でも、そのような言い方をするのはほんの数人。忘れるはずがない。
「サタシヤ様がそのような事をっ?!」
「それだけの者だという事でしょう。まったく、まだそんな隠し玉を持っていたとは…。」
そうなるとこちらも他に手を打たねばなりませんね.......。