34.最低だけど勝ちは勝ち。
「ふぅ、なんとかなったな。最後は呆気なかったが。」
「お疲れ様。まさかアレを使うなんて。」
呆れた様子のイザナが労いの言葉をかけてくれる。
まぁ、呆れるのも当然といえば当然か。
「あれ?アリス達は?」
「決着がついてすぐにトイレ行ったよ。フェルさんが付いてる」
「そうか、ならいいけど。」
「の、のぉ!アイリスは問題ないのかっ?!」
「あぁ、少しの間は苦しいかも知れないが、別にどうって事はないよ。あの量だし少しすれば元に戻ってるだろ…。」
タンカーに乗せられて運ばれていくアイリスを遠目に心配そうなツァキナの頭を撫でる。
「やめい!……して、何をやったのじゃ?妾にはハルトの攻撃は完全に防がれたように見えたのじゃが、何か見えない攻撃でもしたのか?」
「いや、別に大した事はしてねぇよ。俺がしたのは、」
「血を飲ませただけ。でしょ?」
「はは、さすがイザナ。」
すぐに理解してるとは、昔に同じ事をされただけの事はあるな。
もっともあの時はすました顔して俺の前では平然を装っていたが。
「血を?アイリスは吸血族じゃが、今まであんな事は一度もなかったぞ?!」
「そりゃそうだ。あれは俺の血だからだよ。」
「どういうことじゃ?」
「俺の種族はインキュバス。そんな俺の体液、特に血には特殊な効果があるんだよ。媚薬効果が。」
「………………は?」
俺の話を聞いていたツァキナはマヌケに声を上げた。
「あ、つ、つまり、アイリスが苦しそうにしておったのは......。」
「媚薬効果だよ。」
今頃身体中の感覚が敏感になって疼いているころだろうよ。
「じゃ、じゃがアイリスがお主の血を舐めると何故分かった!口に直接入れられた訳ではなかろう?」
「それこそアイリスの種族を思い出せよ。吸血族の頬に血が付いたらそれを舐めてしまうもんなんだよ。無意識のうちにでも。」
ポカンと口を開けているツァキナ。
「まぁ、とりあえず勝てて良かったよ。ここで負けたらかっこ悪いにも程があるからな。」
「安心して。もしハルトがアイリスさんに負けたら、今度は私が決闘を申し込んで代わりに代理を務めてあげるから。」
おいおい、仮にも魔王軍と敵対してた獣人族なんだからそれは流石にお互いに問題があるぞ。
まぁ、魔力を使わない以上、アイリスとの決闘に負ける事は万に1つもないだろうが。
イザナならパンチ一つで槍を真っ二つにしそうだな.......。
「それでこれからどうするのじゃ?部屋に戻るか?それとも街にでも出かけてみるか?」
「そう.......だな。アリス達が戻ったら久しぶりに街にでも出かけてみるか。イザナ、」
「ん?」
俺は収納袋から一つの大きな麦わら帽子を取り出してイザナのヒクヒクと動いている耳の上から被せた。
「魔界じゃ獣人はいい顔されないからな。蒸れるだろうが我慢してくれ。あ、尻尾も隠しとけよ。」
「ん、わかった。」
そう言うとスルスルと服の下に尻尾を引っ込める。
魔界の街中に突然獣人が現れれば騒ぎは免れないからな。出来る限りバレないようにしておかないと。
「そうか、街に行くのなら気をつけての。」
「ツァキナも行くか?」
何となく行きたそうな顔をしているツァキナも誘ってみる。
「ぅう、妾も行きたいところじゃが、まだ仕事が沢山残ってての.....。もし行けばフェルに怒られるのじゃよ.......。」
「魔王の仕事も大変なもんだな。」
特に位闘のあるこの時期はそれなりに仕事がたまるのだろう。
まぁ、俺たちだけでも楽しむとするか。