33.決着。
グバァンッ!
アイリスが振り下ろす槍のブレード部分を魔法で強化した拳で横から殴ってギリギリの所で躱す。
「やっぱりか。」
自分の手を見るが何も変わったようには感じない。だが槍に触れた瞬間に強化魔法が一瞬で消滅したのは確か。
恐らくあの槍の効果は魔法、あるいは魔力にのみ作用するってところだろう。
それなら勝つ方法はいくらでもある。
「んじゃ、そろそろ終わらせてもらうぞっ!」
とりあえず厄介なあの魔剣。
あれさえ折ってしまえば、
「おらぁっ!」
ズバァァァァアン!
拳と槍の衝突する騒々しい音と軽い衝撃波が俺の張った結界を響かせる。
「なんつう硬さだよ。ビクともしない上にこっちの骨がどうにかなりそうだ。」
「この槍には強度を上げる魔法式も組み込んでくれたらしいからな、いくらハルト様といえど身体強化もなしに折るのは簡単ではないぞ。」
くそ厄介な武器だな、ほんと。
「なら、作戦変更だ。闇常弾舞!」
総弾300もの魔法弾が空中を舞ってターゲットを狩るこの魔法。
いくら切れば脆くなって消滅するといってもこれだけの数を全て切るのは無理だろうよ!
「凌げるものなら凌いでみやがれ!」
俺の放った魔法弾がアイリスを狙って舞った瞬間、アイリスはその槍を横へと一振した。
「風陣李円!」
.....................は?
俺は今起こった、いやアイリスが起こした事実に言葉を失う。
俺の弾は一つの狂いもなく全弾アイリスを狙って四方八方から襲いかかった。これで決着はつかないにしろ、大きなダメージを与える予定だった。
だが、どうだろう。俺は改めてアイリスを見る。
その身体には一切の傷がなく、俺の300もの弾は全て防がれていたのだった。
風陣李円。
これは魔界で作られた魔法で、それ自体は周囲に風を巻き起こす程度のものだ。
射程は広いが、これでは俺の闇常弾舞を一つだって防ぐ事は出来ない。
それが出来る可能性があるとすれば、
「.......その槍の魔法式を併合させて魔法をつかったのか?」
「あぁ、これもフェルが仕込んでくれてな。」
...........フェル、あんたほんと何者だよ.......。
どうせドヤ顔されるのだろうとあえて視線は向けない。
さて、どうしたものか。
別段苦戦するつもりもなく、ただアリス達に俺のカッコいい所を見せるつもりがまさかここまで苦戦する事になるとは.....。
アレを使えばアイリスを倒せるが、イザナはともかくアリス達に見せられたものでもない。
「仕方ない、イザナには呆れられるかもしれないがあの手でいくか。」
俺は爪でスパッと右手首を深く切りつける。
「さて、次は強力なの行くぞ。頑張って防げよ。」
俺は一歩でアイリスとの距離を詰める。
「っんらぁ!」
そしてさっきまでの攻撃と変わらない、魔法での強化など一切ない、ただの本気のパンチをアイリスへ向けて放つ。
正面からの堂々の攻撃に焦る事なく槍を構えて俺の拳を防ぐアイリス。
手首から流れ出る紅い血が衝撃と共に宙を舞う。
「...............強力?」
こんな弱いパンチが?とでも言ってるかのように聞こえるが、俺だってこの程度の攻撃で倒せるなんて思っちゃいない。
アイリスは頬へ付いた俺の血を手で拭いそれを舌で舐めとると再び集中力を高めて槍を構えた。
「さて、俺のパンチは後から効いてくるんだがどうだ?そろそろ感じるか?」
「???」
俺の問いに軽く首を傾げて返すアイリス。
だが、俺の言った意味が理解出来ぬ内にアイリスの頬は赤く染まりプルプルと身体を震わせ始めた。
「なっ、こ、これは...........んくっ!」
悶え、両手で自信の身体を強く抱きしめると、遂には腰をストンと地面へと落としてしまった。
戦闘中だとは到底思えないアイリスの有様に結界の外のギャラリーがざわつく。
「どうした?かかってこないのか?」
「ハル.....さま、こっ、は.........くふぅ.....て、ん...。」
もはや言葉になっていない。
「どうする?降参するか?」
「んっ.......こ、こう.......しゃ.........んっ。」
「だそうだ。」
アイリスの苦しそうな降参の言葉を聞いて外にいるフェルに視線を向けると、呆気にとられていたのだろう、棒立ちになっていたフェルが慌てて結界に近づいて右手を挙げた。
「し、勝者はハルト様です!よって位闘にはツァキナ様の代理としてハルト様が出場する事とします!」