30.知られてはならぬ過去.........まぁ、あっさりバレるけど。
朝、日が登ってから暫く経った頃、ある一室に大きな声が響いていた。
「何故ですか!位闘には私が出ると言ったではありませんか!」
「これは決まった事じゃ。」
ツァキナの前にある机を金髪の女性がバンッと叩く。
「姫様やこの国の未来を決める大切な戦いなのですよ!それをよそ者にやらせるなんて!もし他の魔王と通じていてわざと負けられたりしたらどうするのですか!」
「じゃ、じゃが、」
その女の気迫に圧倒されるツァキナ。
まだ幼いなさの残る顔つきに、今着ているのはフリフリに派手に装飾されたピンクのドレス。それに加えて魔王らしさがなくなればもうただの女の子にしか見えない。
「ではこうしましょう!私はこれからその代理人の所へ言って決闘を申し込んできます。その戦いに私が勝てば位闘への私の参加をお許しください。」
「じゃがこちらから頼んでおいてそれは……。それに相手は、」
「姫様っ!」
再度女性はバンと机を叩いた。
「......す、すきにせい。」
★
「お兄さん、......何か私にやってもらいたい事とかないですか?」
下から俺の顔をのぞき込むようにしてフィオルがそんな事を口にした。
「ん?急にどうしたんだ?」
「......私、お兄さんの召使いなのに何をすればいいのか全然思いつかなくて.......。」
「なるほど。」
.........って言ってもな、してもらいたい事なんて特にないし、あったとしても大抵サヤナがこなしてくれてるからな.....。
家では数日イザナのやり方を見て学んでからは、上手い具合に家事を分担してやってくれてたし、サヤナはメイドとしては既に一人前だ。
フィオルがやる事がないと感じるのは恐らくサヤナのせい。かといってサヤナに仕事をさぼれなんて言うのは何か違うし、
よし。
「肩揉んでくれるか?」
「...はい!」
フィオルは元気にそう言うと俺の後ろに回り込んで
んっしょ、んっしょ
と肩を揉み始めた。
まだ子供のフィオル。はっきりいってフィオルがいくら力を入れたところで全く効かないのだが、そんな事はどうでもいい。
フィオルが俺の役に立ちたいと思い、今俺の為に頑張って俺の肩を揉んでくれている。
それを思うだけで俺の役に立っていると言ってもいいだろう。
っと、そうして安らかに時間が過ぎているとやけに騒がしい足音が近づいてきて、バンッと扉が開かれた。
「失礼する!私はアイリス、位闘代理人の座を掛けて私と決闘しろ!.........誰が代理人なのだ?」
「あぁ、代理人なら俺だ。」
「お前か..................ん?何処かで会ったか?」
おい、そりゃ流石に傷つくぞ。
「俺だよ、ハルトだよ。220年前に戦い方やらその他もろもろ教えてやっただろ。」
「ハルト?..................ハルト様?!」
「ようやく思い出したか。久しぶりだな。」
「うむ、そ、そのせつは色々と教えて貰って、感謝...してる。」
分かりやすく戸惑いを見せて顔を紅くするアイリス。
.........え、なにその反応...。
「ねぇ、ハルト?」
「ん?」
「私、アイリスさんとは会ったこと無くってハルトとどういう関係なのかよく知らないんだけど。.........まさか私が初めての相手だっていうのが嘘だった。なんて事はないよね?」
「と、とりあえずその殺気抑えてくれ。さっきも言っただろ、アイリスは俺が戦い方を教えた弟子みたいなもんだ、全然そういう関係じゃない!」
断じてない。
「ねぇ、鳥。ハルトの言ってる事はほんと?」
「ひぃっ!!し、知りゃないよ!」
ぶんぶんぶんぶん!とリンジュは顔を勢いよく横にふる。
「何か知ってるみたいだね。正直に答えないとすっごく痛い事するよ。嫌なら話して。」
「え、えっと、槍術を教えるとか言って体を密着させてめちゃくちゃな槍術教えてた.......よ?」
おいリンジュ!なに俺の事売ってんだよ!
「ふーん。ねぇハルト、言い訳ある?」
「......でも、あれだ、その時アイリスはまだ12で全然子供だったんだ!」
「それをいい事にセクハラしてたんだ.......ふーん。」
「あのー、イザナ...?」
「ん、もういいよ。この話はまた夜にね。で、決闘はどうするの?」
「.....覚悟しとくよ.....。っとそういや決闘申し込まれたんだけか。」
「あ、いや、代理人がハルト様ならもう決闘は.........。」
「おいおい、そっちから申し込んどいて逃げられると思ってんのか?もちろん受けてやるよ。位闘前にそこそこ腕のたつ奴と戦っておきたかったし、アイリスがどれだけ強くなってるのか気になるしな。」