28.魔王らしさ
「では改めて。妾が現魔王のツァキナじゃ。この度は位闘の代理人を引き受けてくれた事、本当に感謝しておる。」
こほんと咳払いをすると頑張って表情を隠しつつ自己紹介をするツァキナ。
「オロボアの娘の頼みとあっちゃ断れねぇよ。ハルトだ。よろしくな。」
まだうすらと頬を紅くしているツァキナは戦闘服ではなく、ドレスを身につけていた。
にしても.........なんで俺の趣味を見抜いているかのようなドストライクな服着てるんだよ。
お礼をしてくれるって言ってたしツァキナのドレスを何着か貰うのもアリかもしれないな。
イザナとサイズ合いそうだし、あまり服装にこだわりのないイザナにはたまにはこういうドレスを着てもらいたい。
「お主の妻達は先に到着して挨拶もさきほど済ませておる。疲れておるじゃろうしハルトも合流して共に休むとよい。」
「そうさせてもらうよ。走りっぱなしで結構キツイんだ。」
イザナと一緒ならまだ余裕があるのだろうが、何せ1人での移動だ、さすがの俺も精神的に参ってしまう。
「あぁ、それと疲れておるところ悪いんじゃが、お主が解いたここの結界。あれをまた張ってはくれまいか?あれほど強力な結界を張り続けられる者はここにはいなくての。」
「ん、そういえば解いたっきりだったな、分かった。後でまた張っておくよ。」
確かに短時間ならともかくずっと張っておくとなるとそこそこ魔力のある奴じゃないとキツイだろうからな。
「頼み事ばかりで申し訳ないの。ではフェルに案内......おっと、そういえばフェルよ。ここへ来たということは何か報告があったのではないか?」
「申し訳ありません、私としたことがすっかり忘れておりました。先程シシリーが戻りアイリス様も明日にはこちらへ着くとの報告がありました。」
ん?アイリス?
「ほう、予定より早いの。うむ、分かった。ではハルトを案内してやっておくれ。」
「失礼します。」
部屋を出て暫くすると俺を探し回っていた城の連中に見つかりガヤガヤと詰め寄られたが、フェルの説明で騒ぎはあっという間に収まった。
フェルはメイドの姿をしてはいるが、恐らく相当の実力があるに違いない。
そして騒ぎが収まり再びイザナ達のいる部屋へ足を進めているとフェルが口を開いた。
「先程はお見苦しい所を見せてしまい申し訳ありませんでした。ツァキナ様はあれで必死なのです。喋り方や仕草をオロボア様に似せて。」
お見苦しい?むしろ良いものを見せてもったが。
「必死......か。まぁ親があのオロボアじゃあ仕方ないかもしれないな。」
歴代魔王の中でも頭一つ飛び抜けた実力を持ち、容姿は優れ、頭まで良いときたら娘であるツァキナにはもちろん大きな期待がかかる事になる。
おそらく世界で今最も比べられる存在だ。
「ツァキナ様はまだ自信を持っておられないのです。私達がお傍にいるのも全てはオロボア様の娘だから、と。」
それでオロボアの真似......か。
「お前はどっちなんだ?オロボアの娘だから傍にいるのか?それともツァキナ個人を王として認めてるのか?」
「勿論後者ですよ。」
ほぅ、即答か。
「あんなに可愛い生き物そうはいませんからね。」
.........それは王として認めてるのか?
「まぁ、確かにそれには同意だ。」
っと、そういえば、
「なぁ、さっきお前とツァキナが話してたアイリスの事なんだけどさ、もしかして吸血族か?」
「っ!?まさかとは思っておりましたがお知り合いなのですか?」
「あぁ、俺がオロボアに支えていた頃にな。」
会うのは220年ぶりになるか。
アイリスは吸血族の中でも特に優れた血族らしく代々定期的に吸血しとけば不老不死に近いって言ってたからな、どれほど強くなってるのか楽しみだ。
「昔に俺が戦い方教えてた頃はまだまだだったが220年も経てば少しはマシになってるか。」
◆
「騒ぎ......収まりましたね。」
フィオルちゃんの言う通り、ついさっきまでハルトの侵入に大騒ぎだった城内が今ではやけに静かになった。
「ハルトが捕まるか誤解が解けるかしたんだね。」
ここまで来て捕まるなんて事はないだろうから、たぶんツァキナちゃんかフェルさんに会って誤解を解いたのだろうけど。
「賊ってご主人様だったんですか?!で、でもご主人様は仲間なのでは?」
サヤナちゃんがピコンとうさみみを立てて驚く。
そういえば賊がハルトだって事は話してなかったっけ。
「メイド、何言ってるんだ?はるとは220年も前にこの城を出たんだ。長寿な奴じゃないとはるとの事を知ってすらいないよ。」
「うん、鳥の言う通り。だから侵入者として追われたんだね。本来なら門の前でフェルさんかツァキナちゃんを待つんだろうけど。」
どうせハルトの事だから私に早く会いたいとかそんな理由なんだろうな。