26.魔王の娘。
「よし、とりあえずは撒いたな。」
結界を解き中に入ってから俺を追い回していた城の連中から身を隠してようやく一息ついた。
さてこれからどうするか...。
別に捕まったとしてもすぐに誤解は解けてなんとかなるんだろうが、それじゃつまらないよな。なにより早くイザナに会いたいし。
「久しぶりに隠密行動といくか。」
この城にはよく分からないがオロボアの趣味で作られた隠し通路や隠し扉が幾つも組み込まれている。
俺がいまいる場所も城の一階と二階の僅かな隙間に作られた狭く細い隠し通路だ。
この城を出てから200年以上たっているが未だに残っていて助かった。
「オロボアの暇つぶしに何度もかくれんぼに付き合わされた俺の実力見せてやるよ。」
そう誰に言うでもなく呟くと匍匐前進で狭い隙間を這って前へと進む。
.....にしてもどうしたものか...、もうかれこれ220年だからな。
隠し通路はそのままでも応接間や客間の場所は変わってる可能性があるし、そもそもイザナ達が到着しているかすら分からない。リンジュの奴が魔力を放出してくれればだいたいの位置が把握出来るんだが、そう上手くいくはずもない......。
...............ん?いや、まてよ?あるじゃないか。イザナ達にすぐに会えるよう取り計らってもらえて、220年前から変わる事のない部屋が。
魔王の自室が!
以前オロボアが使ってた部屋を今では現魔王のツァキナが使っているはずだ。
俺を呼んだ魔王本人なら話も分かるし何より魔王の自室に通じる隠し通路が存在する。とりあえずはそこからあたるか。
俺はクネクネと入り組んだ余りにも狭い空間を進んで二階、三階へとのぼった。
「おい、どうだ!」
「ダメだ、こっちにはいない!姫様の手を煩わせる訳にはいかない、なんとしても早急に賊を捕まえないと...。」
「あぁ、なんとしても!」
バタバタと騒がしい足音と共にそんな話し声が壁越しに聞こえてくる。
さっきから至るところで走り回ってる音が聞こえるが一向に隠し通路を調べにくる気配がないな.........まさか侵入者がそんな通路知らないだろうと思ってなのか、そもそもこの通路の事をもう誰も知らないのか......。
そもそもこの通路を作った当初も知ってるのはオロボアと俺以外は数人だったからな。知らなくてもおかしくはないか...。
まぁ、どちらにしても好都合だな。
そして狭く入り組んだ通路を進む事3分。
「よし、到着と。たしかここがオロボアの部屋の真上だったよな。」
俺はようやく辿りついた目的地に一息ついた。
さて、と。このレバーを引けば床......いや、天井が抜けるんだったな。
隣に設置されているレバーに手をかける。
「オロボアの娘、さぁ、ご対面といこうか!」
ガチャン!
力強くレバーを引くと、まるで落とし穴のように床...天井がパカンと割れて俺は魔王の自室へと舞い降りた。
第一印象というものは大切だ。
その後にいくら本心を知られようが、第一印象によっては後の関係が大幅に変わってくることになる。
.........と思い格好をつけるようにバサァッ!と勢いよく登場した訳だが、着地した俺は最初に頭に浮かべていたかっこいい登場台詞が完全に頭からとんでいた。
で、でも、これはあれだ。そう、仕方ないというやつだ!
だって城に侵入者が入って城中大騒ぎのこの中、まさか魔王が着替えてるなんて誰が思うんだよ。
オロボアが戦争をする時に必ず身につけていたやたらに露出度の高い戦闘服の色違いを手にこれから身につけようとしている幼い魔王の姿がそこにはあった。
つまりは裸だった...。
「う、う、う.........うにゃぁぁぁああああ!!!!!」
顔を真っ赤にして魔王の威厳なんて何処かへ置いてきたかのようなその悲鳴は城中へと響くのだった。