25.懐かしの魔王城。
イザナ達と別れてから丸1日が経過した。
売られた喧嘩も売られていない喧嘩も勝手に買ってそこらの魔物やら盗賊やらを相手にしつつ俺は不眠不休で魔界まで全力で駆けていた。
魔界は三大魔王がその土地を大きく3つに分けて国を作っている。
今も魔王を続けているのかは知らないが、俺がオロボアに仕えていた頃の魔王、サタシヤが支配していた国、ストレチリア。
ウガルが支配していた国、アルズステラ。
そしてここはその中でも最大の面積を誇るオロボア、いや今はツァキナが王を務める国、ハウサラスだ。
「ふぅ、ようやく昔懐かしい城が見えてきたな。」
昔懐かしい城。そう、これこそが現在ツァキナが住んでいる魔王城だ。
「さて、イザナ達が到着してるのか分からんが、取り敢えず正面から行ってみるか。」
フェルがいれば一番手っ取り早いのだが、まぁ、俺も元はこの城で働いていたんだ。すんなり通してくれる.....はず。
俺はこそこそする事なく堂々と正面の厚い扉へと向かった。
門の前には門番が2人。体格は良いが感じる魔力からしてそんなに大した奴じゃない。この正面扉はアグナイト鉱石という極めて強固な鉱石で作られているために実質門番は中への取次ぎ役なのだ。
「どうも。位闘の件で呼ばれて来たんだが、入れてくれるよな?」
「何の事だ?貴様何者だ!」
「だからさ、お前らの王がまだ未熟だから俺が代わりに位闘に出てやるって言ってんだよ。さっさと中に入れろ。」
あー、だめだ。
イザナに触れてないストレスのせいで言葉にどうしても棘が出来てしまう。
「なっ?!姫様を侮辱するな!我らの姫はいずれ世界最強の魔王になられるお方であるぞ!」
いずれって自分で言ってしまってるじゃねぇか.......。
ったく、俺はさっさとイザナに触れないと死にそうなんだぞ。イザナだって俺に触れて欲しくてウズウズしてる頃だ。こんなとこで時間を無駄にしてらんねぇんだよ!
「ま、いいや。門番が通してくれないんなら勝手に通らせてもらうぞ。」
「おい待て!何をする気だ!」
「何をする気ってそりゃあ、」
俺を止めようと肩を掴もうとする門番をかわして俺は跳んだ。
門の高さは20mそこそこ。門を通してくれないのなら飛び越えるまでだ。
「かっ、馬鹿め!門を飛び越えれば中に入れるとでも思ったか!この王城には先代魔王オロボア様が張られた強力な結界が今なお消えずに城を守っている!お前ごときが中に入れると思うなよ!」
「馬鹿はお前だよ。」
門番に聞こえない程度にぽそりと零す。
「結界ってのはな、発動者が随時魔力を送って維持してるもんなんだよ。発動者が死んで結界が残るなんて事、ありえる訳ねぇだろうが。」
そもそも、オロボアが結界?はっ、笑わせんな。あいつが使えたのは攻撃魔法だけだ。
つまり、この結界を張ったのは誰か。
「ま、俺以外にいないよな。」
俺がスッと右手を振るうと今まで王城を覆っていた結界が風船が割れるかのように炸裂し、きれいさっぱり消え失せた。
その様子を下で見上げていた門番は目を疑うかのように口をパクパクさせ、そして叫んだ。
「侵入者だぁぁぁぁあああ!!!」
◆
side:イザナ
「んもう、はるとはいつくるーのぉー!」
突然声を張り上げた鳥にアリスちゃんとサヤナちゃんが飛び上がり、すぐにペタリとうさ耳を伏せた。
「鳥うるさい!だいたいなんでまだここにいるの?もう帰っていいよ。」
ハルトが頼んでたのはあくまで城までの足。まだここにいてもらう理由なんてもうなに一つない。
「黙れ狐!おまえに指図される筋合いはないっ!」
ムカ。
「あ、あの......喧嘩はダメです。」
「はぁ?!だいたいおまえダレだ?そっちの2人も!はるとの何なんだ!?」
「......召使いです。」
「メイドをしております。」
「娘だよ?」
「............娘っ?!だって魔族と獣とじゃあ......、えっ?!」
奴隷の首輪をしている事に疑問を持たないあたり、鳥は本当にバカなのだろう。
ここまでバカなら、
「ハルトと私が力を合わせれば娘くらい簡単に作れるわ。」
「.........そんな、うそ.........こんな女狐とはるとが...............。」
世の中の常識を覆す私の物凄く分かりやすい嘘にさえまんまと騙されて鳥が頭をかかえていると扉が開かれた。
「失礼致します。」
「あ、フェルさん。」
「お待たせ致しました。本来なら正式な謁見の場をご用意させて頂くのですが、あいにくハルト様は未だ到着なされず、時間もないとの事ですので、この場を使って先に顔合わせさせて頂きますね。」
そう言ったフェルさんが隣へ数歩下がると開かれっぱなしの扉からまた1人、女の子が部屋へと入って来た。
赤を基調とするドレスに白の花の装飾やフリルで飾り付けられたハルトが見れば興奮しそうな服装に、床まで届こうかというエメラルド色のロングヘアの上に乗せられた光り輝く王冠。
それに何処と無くあのオロボアの面影がある。まだ胸や魔力はオロボアには及ばないけど、まちがいないこの娘が現魔王のツァキナちゃんだ。
「妾がこの国の王ツァキナじゃ。このたびは妾が未熟なばかりにお呼び立てして申し訳ないの。お詫びという訳ではないが、精一杯のおもてなしを出来るように準備はしておる。位闘までの間はゆっくりとくつろいでくれの。」
「初めまして。ハルトの妻のイザナです。私達の方こそこんなに大勢でおしかけちゃってすいません。」
「お主がイザナか。母上から何度か話を聞いた事があるが、相当に強いらしいのう。」
ツァキナちゃんは持っていた扇子を広げて口元を覆った。
お母さんの真似かな?220年前にも見た事がある気がする。
「いえいえ、もう昔の話ですよ。」
「ほう、昔......のう。」
ツァキナちゃんは意味深に小さく笑みを浮かべた。
と、その時、ドタドタドタと慌ただしい足音が近づいてきて、ドタンと1人の魔族が部屋に入って来た。
「姫様!大変ですっ!」
「なんじゃ、騒々しい!客人の前じゃぞ!」
「も、申し訳ございません。ですが、緊急を要する事態です!この王城を守っている結界が消滅、そして賊がこの城へ侵入しました!」
賊?
「なんじゃとっ?!賊は何人じゃ!」
「そ、それが賊は1人との報告が......今は城の全兵力を尽くして搜索及び捕獲に徹しております!」
「.....く、そうか、承知した。妾もすぐに着替えて搜索に参加する。すまんの、聞いての通りじゃ。フェルはここの護衛に置いておくから、お主らは気にせずここで休んでいてくれの。」
「はい、賊の確保頑張ってくださいね。」
まぁ、この人達に出来るはずないけどね。
ハルトを捕まえることなんて。