23.魔界へ向けて。
フェルをフィオルと同じ部屋で寝るように言って俺とイザナは再びベッドに横になった。
他に部屋は空いてはいるが掃除は全くしていない。そんな部屋よりはまだ綺麗に掃除されているフィオルと一緒に寝たほうがマシだと思ったのだ。
フィオルも1人で寝るのは怖いと言っていたし一石二鳥というものだろう。
さて、
「なぁ、イザナ。」
俺は尻尾と耳を優しく撫でながらイザナに声をかける。
「なに?」
「俺、凄い大変な事を忘れてた。」
「大変なこと?」
閉じていたイザナの瞼が半分開かれ、そこからイザナの瞳が俺を見つめる。
「俺が位闘に参加するために明日ここを出るだろ?」
「うん。」
「イザナはアリス達のお守りでここに残るだろ?」
「うん?」
「つまり俺は向こうでイザナに触れられない.......どうしよ。」
これは俺にとって生きる意味を一時的にでも奪われるようなものだ。
位闘までの日にちも合わせればかなりの期間会えない事になってしまう.....。
「うん、なんで私に触れられないのが大変な事なのかはともかくそれは全く問題ないよ?」
「というと?」
「私も行くもん。」
.................................。
「は?」
「だから私も行くの。」
いやいやいやいやいや、
「え、じゃあアリス達はどうすんだよ。」
「一緒に連れてくよ?」
「.........もし何かあったらどうするんだよ。」
「ハルトが守ってくれるでしょ?私だってついてるし大丈夫よ。」
ま、まぁ確かに向こうに着けば俺が代理人になる以上、アリス達の事は守ってくれるだろうし俺だって全力で守るが.........。
これはどう考えても無駄な危険を生むことになる。
それはイザナだって分かっているだろうに、それでも俺に付いていくという。
嬉しくてたまらん!!!!
「一緒に行こう!何があっても全力で皆を守ってみせるぞ。」
「うん、頼りにしてる。」
◆
「よーし、んじゃ、そろそろ行くか。」
朝を迎えてから旅の準備をはじめ、全ての準備が整った頃には昼を過ぎていた。
「ねぇ、ハルト、どういうルートで行くの?」
奴隷を買った日と同じくサヤナをおんぶしたイザナ。
まぁ、俺も両手に花で凄く幸せだけどさ。
「そうだなぁ、まぁ、とりあえずはこっちだろ。」
俺は家の正面のある方向を指さす。
200年以上昔といっても魔王に仕えていた身だ。魔界がどこにあるかなんて当然覚えているし、この世界ではそれくらい常識だ。
と、俺がその方向へ歩き始めようとすると、後ろからフェルが呼び止めた。
「あの、お待ちください。その方角に進んでも海で回り道をする事になります。それならこちらから行ったほうが少しでも時間を短縮できるかと思いますが。」
フェルは俺とは別の方角を指さす。
確かにその方向に進めば早く森を抜けられるし、少し荒れてはいるがまだ少しは時間が短縮されるだろう。
海を避けるのであれば。
「そもそも海を避けるのが時間ロスだろうが。」
何言ってんだ?と思って言い返すと逆に何言ってんだ?という表情で返された。
「え?.........ま、まさか船というものを使うなんて言いませんよね?あんな人間の作った怪しげな乗り物!」
「船が怪しげな乗り物かは置いといて、別に船を使うつもりはない。」
キョトンとするフェルを放っておいて俺は自分が決めた方向に向かって走りだした。