18.戦争は終わっていた........え、マジで?
「こりゃ凄ぇ......。ドラグーンの角ん中でもここまで立派なのは初めて見たぜ。」
「そりゃどうも。」
鑑定士のガンジさんは俺の持ち帰った角と鉤爪を丁重に持ち上げると感心した様子で鑑定を始めた。
ここはギルドの二階。ギルドに帰ると二階で鑑定してもらえとヤマさんに言われて今に至った訳だが、話も通して貰ってるようで二階へ行くとすぐに鑑定してもらえた。さすがヤマさんだ。
「だがよ、ヤマちゃんからは親父さんから貰ったのを持ってくるって聞いたんだが………こりゃどう見てもつい先刻まで生きてたように見えるが?」
.......ちょ、ヤマさん、余計な事まで話してる........。
まぁ、別にヤマさんのとこで依頼を受ける為についた嘘だったし鑑定士になにか言われても問題はないが。
「当然バレるか.........。取ったすぐだと価値が低かったりするか?」
「まさか、むしろその逆、これだけ上質で強固な素材だ。ただでさえ加工が難しい素材だが、これなら伝説級の武具が出来そうだな。依頼主もさぞ喜ぶ事だろうよ。これを受付に持ってけ。そしたら報酬が受け取れるからよ。」
そう言うとガンジさんは一枚の何やらゴタゴタと書かれている紙にサインをして俺に渡してくれた。
それを受け取ってから一階へ降り、行列の最後尾へと並んで待つこと3分。
ようやく俺の番になりヤマさんへさっき貰った紙を渡す。
「これ、お願いします。」
「少々お待ちください。」
始めてあった時と同じように静かに仕事をこなすヤマさん。
だけど、なんだろう?少し機嫌が悪いような、怒ってますよオーラ?みたいなのが出てる気がする。
いや、たしかに俺のせいで周りに痴態を晒してしまったのだから機嫌が悪くなるのは分かる。だが、ギルドに帰って来た時よりさらに機嫌が悪いような......。
「どうぞ、白金貨10枚と金貨が20枚です。ご確認ください。」
「ん、確かに。.......ん?」
お金を数えてから手に取ろうとするとその手をヤマさんが掴んだ。
顔を上げて見てみればそこにはクールなヤマさんでも、耳に息を吹きかけられた時のヤマさんでもない、怒りを顔に出したニッコリ笑顔のヤマさんがいた。
「ガンジさんから聞きました。あれは父親から譲り受けたものではなかったと。どういう事ですか?」
「えーっと、それは.......。」
昔の従者にドラグーンがいたからそいつから貰ってきました。なんて言えるわけがない。
かといって適当な答えを信じてもらえるようには思えず俺は言葉につまる。
「答えたくはない、と。」
「あ、いや、そういうわけじゃ...。」
「ハルト様はもしかしたら相当お強いのかもしれません、何か考えがあったのかもしれません。ですが、この私の受付を使う以上、ハルト様の命の重さを私も背負っているつもりです。ですから、もう二度と私に嘘をつくなんて事はしないでください。いいですね?」
「.......すいませんでした。」
「あぁ、それと、これは今日辱めを受けた慰謝料と私へ嘘をついた罰として受け取っておきます。文句はありませんよね?」
ヤマさんは報酬の硬貨の中から金貨を1枚取り上げた。
美人のにっこり笑顔はどうしてこんなにも怖いのだろうか。
「.......はい、どうぞお納め下さい。」
金貨の一枚くらいで許されるのなら安いもんだと思うのだった。
◆
「あぁ、疲れたぁ。」
なんといっても往復する道のりがとんでもなく疲れた。
らしくもなく転移魔法を勉強してやろうかと思うほどに。
俺は家に帰るとソファに座っていたサヤナとアリスの隣に腰をおろした。
「おかえりなさいです。」
「おかえり、パパ。」
二人の声に心が和む。
やっぱり美少女はいい、ほんといい。
いるだけで、見てるだけで癒される。
「おかえり。どう?少しは稼げた?」
「俺が本気出せばこんなもんよ!」
台所から出てきたイザナにポケットから稼いできた1億と190万を机へとぶちまける。
サヤナは突然の大金に驚いているようだったが、イザナは全く驚いている様子はない。
そして一言。
「.......ねぇ、まさか捕まるような事してないよね?」
「素直に褒めてくれても良くないか?」
これでも結構ガチで頑張ったんだぞ?演技を。
「じゃあ、どうやってこんなに稼いだの?」
「ギルドだよギルド。冒険者になって稼いできたんだよ。」
「ふーん、冒険者かぁ。それなら納得。でも奴隷にされないように気をつけてよ?」
「わかってるよ。.........ん?」
「どうしたの?」
「いや、別にちょっとした事なんだけどさ、なんでイザナは冒険者が奴隷にされる事があるって知ってんの?」
俺だって今日始めて知ったんだぞ?
「え、だって.......ほら。」
イザナはそう言うとゴソゴソと机の引き出しを漁って一枚の黒いカードを取り出して見せた。
...........それギルドカードじゃねぇか。
「……え、なに、イザナも冒険者なってんのかっ?!」
「うん。なったのは60年くらい前かな。ここ30年くらいは殆ど街に行く事なかったから何もしてないけど。」
「.......ちなみにランクは?」
「SSだよ。」
「まぁ、そうだとは思ったよ。.......あれ?ていうか獣人でも冒険者になれるのか?」
冒険者ギルドは人間の領土にあり、もちろんそれを管理しているのも人間だ。
人間と獣人は戦争している敵国同士。
獣人が街へ入るのもどうかと思うが、共に戦うなんて事は流石にないだろう。
と思ってたが「なに言ってんの?」というイザナとサヤナの反応に首を傾げる。
「ん?」
「.....あれ?もしかしてハルトってまだ獣人と人間が戦争してると思ってるの?」
.......................。
「.............え、は?違うのか?」
暫しのフリーズから解放された俺の頭は混乱する。
戦争が終わった?いつ?なんで?
「...........サヤナちゃん、説明してあげて。」
呆れたと言わんばかりの視線を送ってくるイザナ。
「はい。200年ほど前に魔王軍との戦争が落ち着き、それから100年ほど人間の国《聖人国》と獣人の国《无獣国》とで戦争を続けていたそうですが、100年前には交渉を進めて和解なされたと聞いております。」
「そういうこと。で、今では多少の差別は残ってるけど獣人も冒険者になれるようになってるの。まさかハルトが知らないとは思わなかったわ。」
「.......マジか。」
「マジよ。」
どおりで昨日の街でのイザナへ対する視線が優しかったんだな。
イザナが特別可愛いからだと思っていたけどまさか戦争がとっくに終わってたからだとは.......。
まぁここはどの国からもかけ離れていて外の情報なんて全く入ってこない場所だからな.....。
イザナはたまに買いたい物が出来たとか言って街に行ってたけど俺にはイザナ以外に必要な物なんてなかったのだからしょうがない。
220年一度もここから離れなかった俺が外の情報なんて知ってるはずがないよな。
「それはそれとして。疲れてるとこ悪いけど、お風呂沸かして。」
「.....はい。」
.............そういえばフィオルは?
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