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17.従者の誇りは金になる。


ギルドを出た俺は全力で草原を駆けていた。


「くそっ、だいぶかかってるな。転移魔法でも使えれば楽なのに.........。」


俺みたいに不器用な奴には到底使う事の出来ない魔法を無い物ねだりしてみる。


ギルドを出たのが午前10時前後。それから3時間ほど走ってようやく片道といったところだ。


ギルドへの道のりと家へ帰る時間を考えると晩飯ギリギリの時間になるだろう。


そんな計算を頭でしているとようやく目的地へ到着した。


海の見える高い丘の上に建つ小さな一軒家。


「ここに来るのはイザナと結婚して以来だな。まだいるといいけど...........。」


あいつの事だから死んでるなんて事はないだろうが、なにせ220年は経っている。その間ずっとここに住んでいるのかといえば怪しいところだろう。


俺は別人が住んでいる事も想定して差し障り無いように扉を叩いた。


「ごめんくださーい、誰かいますかー?」


「んー、だれぇ〜?」


お、いるな。


それにこの声は間違いない。あいつだ。


少し待っているとすぐに扉が開かれて中から220年前から容姿の全く変わっていない見た目12歳程度の少女が出てきた。


銀色の長髪に青い瞳のこの少女は、俺が魔王に支えていた頃の俺の従者の一人、ドラグーンのリンジュだ。



「..................っ?!はるとぉっ!!?」


リンジュは俺の顔を見て数秒固まったのちに弾けるように飛びつき俺の身体にまとわりついた。


「はるとから私に会いに来てくれるなんて......あたし嬉しいなぁ!あ、分かった!あの狐と別れたんでしょ!!」


お見通しですよぉっと言わんばかりの表情に若干イラっとしつつリンジュを振りほどく。


「うるせぇ、まず俺がイザナと別れるなんて有り得ないしそもそもイザナは猫だ。狐って誰だよ。」


「狐も猫も同じでしょ?まだ一緒にいるんだ......。」


まだって.........。俺は命が尽きるまでずっとイザナと一緒にいるって誓ったんだ。別れる筈がない。


「今回はお前に頼みがあって来たんだ。」


「............たのみ?あたしに?」


「あぁ、そうだ。お前にしか頼めないんだ。」


ドラグーンであるお前にしか。


「そ、そう......なんだ。えへへ、それなら早く言ってよ。はるとの頼みならどんな頼みでも断らないんだから。」


リンジュは人差し指同士をツンツンと合わせながら照れる。


「そうか、やっぱりお前は本当に良い従者だな。」


「えへへへぇ〜。」


嬉しそうに頬をユルユルに緩めるリンジュの頭をワサワサと撫で回す。


「そ、そんなぁ、はるとの頼みをきくのは従者として当然の事だよぉ〜。」


「そうか、助かる。じゃあ、お前の角と鉤爪全部くれ。」


「うん、わかったぁ!...............て、うん?いまなんて?」


さっきまで満面の笑みを浮かべていたリンジュの表情が一瞬で雲がかった。


「だからお前の角と鉤爪をくれ。」


「なっ?!い、一体何に使うの?!」


「いやな、さっき冒険者になったんだけど、依頼にドラグーンの角と鉤爪の納品ってのがあってそれを受けたんだよ。」


「.........え、つまり、あたし達ドラグーンにとって命と同じくらい大事な誇りをお金にしたいからくれってこと?」


「まぁ、要約するとそんな感じだな。」


さらに付け加えると、それがなければ俺は奴隷なってしまう。


「で、でも、角と鉤爪はドラグーンの誇りなんだよっ、お金にする為にあげて良いものじゃないんだよぉ?!」


くっ、リンジュなら大抵の事は俺の為ならと文句一つ言わずに協力してくれるが、ドラグーンの誰もが大切にしてるそれらは流石に抵抗があるか。


「それに鉤爪はともかく角は生え変わるのに100年はかかるもん!今の角だって前にはるとに折られてからようやく立派に伸びてきたんだから!」


「.........いや、まぁ、あん時は流石に悪いと思ってるよ。」


あれはまだ戦争中、敵を攻撃した際に俺の攻撃に巻き込まれてリンジュの角は二本とも半ばから折れてしまったのだ。


「もしお前がダメなら他を当たることになるんだが、どうしてもダメか?」


とは言ってみるものの、他のあてなんて1つもないんだけどな。


「......う、ぅう.........じゃ、じゃあ、何かご褒美......ご褒美くれるなら......いいよ。」


「ご褒美?例えばどんなのがいいんだ?」


「じゃ、じゃあ......あたしとエッチ......しよ?」


「くっ...............きゃ......却下だ。」


ノータイムとはいかないが、なんとか歯を噛み締めて己を制した。


確かに昔から俺の役に立ちたいと頑張ってくれてきたリンジュだが、リンジュへのご褒美まで俺の為に使わせる訳にはいかない。


それ以前にリンジュと寝たらイザナに殺されちまう......。


「他に、もっと性的なものを除いたご褒美案はないのか?」


「うにゅぅ.........じゃあ、また会いに来て......とかは?」


「ん、そんな事でよければもちろんいいぞ。」


かなり長い間会わなくて久々に会えて嬉しかったし、時間はかかるが日帰り出来る距離だしな。


「ほんとっ?!じゃああげるっ!」


「お、おう、助かるよ。」


リンジュはそう言うと俺と家からタタタッと駆け足で離れ、そして次の瞬間身体が瞬く間に変化し、何倍もの大きさのドラグーンへと姿を変えた。


その大きな姿は軽く振り返り、足を踏み出しただけでズゥーンッ!と辺りへ重い轟音が鳴り響く。


そして自らの誇りと言っていたかつて俺が折ってしまいようやく立派に生えた2本の角、そして両手足の鉤爪をなんの躊躇いもなく根元からへし折った。


「はいっ!これでいーでしょっ!」


「あぁ!お前はやっぱり俺の最高の従者だよ!」


頭部を俺の前までググイッと下げてきたリンジュの頭を撫でてあげる。


「えへへ、はるとの従者だもん。これくらいの事どうって事ないよ。.......それで、さ。ちょっと中に入ってかない?」


そう言うとドラグーンの巨体は縮み、元の小さな少女の姿へと戻った。


「いや、悪いけど今は急いでるんだ。また機会があったら近いうちに会いに来るよ。」


「ほんと?!そん時は泊まってってね!」


「あぁ、機会があったらな。」


イザナと離れるなんてごめんだからそんな機会はないだろうけど。


「やくそくだよ!」


「あぁ!」


そして俺はその角と鉤爪を持って急いでギルドへと戻るのだった。


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