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12.嫁が怒ると大変です。

「ぁーあ、ほんと、ぁーあ.....。」


俺は右手でシャワーを出して、頭を洗いながらため息を吐いた。


こんなはずじゃなかった。


娘の髪を洗う夢が。

メイドの体を俺の手で撫で回すように洗う夢が。

さらには、嫁の身体を眺めて、触っての楽しいお風呂タイムが。


その全てが今日綺麗さっぱり消えたのだ。


そりゃイザナ以外にも可愛い子が三人も増えて嬉しい。


でも、だからって今まであった俺の楽しみが減るのはまた違うだろ。


「ぁーあ.......。」


「.....おにいさん、ため息ついてどうしたんですか?」


「ん、フィオルか、実はな.........ん?フィオル?」


背後から聞こえた紛れも無いフィオルの声にふと疑問を覚える。


ここは風呂場。そして今聞こえた声は後方1m。脱衣所のドアは後方6m。


つまり、


「なかっ?!」


俺は期待と驚きに全力で後ろへ振り向いた。


「.....何が「なか」なんですか?」


「あ、いや、どうしたんだ?裸で。」


そう、裸なのだ。


フィオルが裸なのだ。


まだ8歳で発育は乏しいものの、こんな美少女が俺の前で裸。


ついつい頭が興奮するが、そこをなんとか抑えて平常を装う。


なんとか俺の身体もフィオルを性対象とは見なかったようで、反応はしないでいてくれた。


220年に渡り毎日イザナという世界一可愛い嫁と一緒にお風呂に入っていたおかげなのかもしれない。


「.....裸なのはお風呂だから、です。」


「え、あ、そう.....だな。じゃあ、なんでまた風呂に入ってるんだ?さっき入ったんだろ?」


「.....私はおにいさんの召使い。召使いは身体を使って裸でご奉仕する。っておかあさん言ってました。」


店員さんっ?!


それって...つまり...、


「...お背中をお流しします。」


「.........頼む。」


どうしようもない脱力感を覚えつつ、俺がスポンジを渡すとコシコシと背中を力強く洗ってくれる。


まぁ、もし仮にフィオルと妙な関係.........召使いの時点で妙ではあるが、それ以上の関係になってしまえば俺はもとよりフィオルの命がなくなってしまう。


そんな事になれば誰も得をしないし、ただただ虚しく苦しいだけだ。


だからだろう、さっきからフィオルにドキドキこそするものの、フィオル、いや、もし仮にサヤナが俺に迫ってきても俺ははっきりと拒絶出来る自信がある。


俺のイザナへの愛は性欲なんかには負けないのだ。


とまぁ、それにしても、まだ非力なフィオルが洗ってくれると凄く優しく感じて気持ちがいいものだな。


いつもはイザナが洗ってくれるが、それとは全く違う感覚だ。


と、フィオルの身体を使ったご奉仕を堪能していると、フィオルが話しかけてきた。


「...さっき、お風呂でおねえさんがおにいさんとの出会いを話してくれました。」


「ん?イザナが?」


「...気がついたら好きになってたって。」


「.....................。」


.........普通に照れる。


こちらから聞けばそう答えてくれるかもしれないが、自分から、それも俺以外にそう言ってくれてるのが、物凄く嬉しい。


「他にはなんて言ってた?」


「...あとは、」


ガラガラガラ


フィオルが何か言おうとした時、風呂場と脱衣所を隔てるスライドドアが開かれる音がした。


まさかサヤナかっ?!


と訳の分からん期待を胸に振り向いてみると、そこには石のように固まっているイザナが立っていた。


「.........えーっと、イザナ?なんでお前もまた風呂に来てるんだ?」


「.................。」


返事がない。


「おーっい、イザナ?」


「.................。」


やはり返事がない。


服を着ていないから風呂に入りに来たのは間違いないのだろうが。


「ちょっとごめんな。」


俺はフィオルの横を通ってイザナの所へ歩み寄る。


「おい、本当にどうしたんだよ。」


何気なく、本当に何気なくイザナの頭に手を乗せると、瞬間、俺の手首の骨が粉々に粉砕した。


「いってぇぇぇええっ!!」


もちろんやったのはイザナ。


俺の手首を握りつぶしているイザナが半端ではない殺気を放ってくる。


「ねぇ、私言ったよね?手を出すなって。」


手を出すなっ?!


「ちょっ?!いったい......、」


「せっかく、寂しそうにしてるから気を使って来てあげたら別の女とイチャついてさ?なに?殺されたいの?」


………………あ。


その言葉を聞いて今の今まで状況を飲み込めていなかった自分が恥ずかしくなり、そしてとてつもない不安と恐怖が沸き起こった。


「ちょ、ちょっとまて!これはフィオルがっ、」


「そういえば結婚して以来まだ喧嘩した事なかったよね。どうする?殺し合いでもする?」


や、やばい!マジでやばいっ!


イザナの殺気はどんどん膨れ上がってるし、誤解を解くための最大の鍵であるフィオルはイザナの殺気にあてられて気を失ってるし!


なにか、


なにか方法は............っ!!


「イザナ!よく聞けっ!」


「はあっ?!」


「俺の目を見ろ!俺はお前の事を愛してる。そりゃもう、お前の為なら自分の国も、仲間も、その他全てを失っても後悔しないほどになっ!そんな俺がっ!そんな俺がお前以外の女とイチャイチャなんてする訳ねぇだろっ!」


これが少しは効いたのか、イザナの殺気はさっきよりはだいぶマシなところまで下がる。


やはり愛してるという言葉の力は絶大だ。


「...............じゃあ、」


「ん?」


「じゃあ、なんでフィオルちゃんがここにいるの?」


「それはフィオルが俺の背中を流したいって言うから...、でも、一緒に入ってるのはフィオルが勝手に入ってきただけで、別に俺から誘った訳でもないぞ!」


こればっかりは証明しろと言われるとフィオルを起こす他ないが、嘘は何一つついていない。


イザナはジッと俺の目を見つめる。


こうしてイザナに目を見つめられると考えている事が全て筒抜けになってしまうのではと錯覚してしまいそうになる。


暫く経つとイザナはようやく殺気を解き、口を開いた。


「.........信じるわ。」


「ふぅ.....。」


安堵の溜息。


これほどまで気を張り詰めたのは何百年ぶりだろうか。


心臓に悪いなんてものではないぞ。


「でも、フィオルちゃんの裸を見たのは変わらない。」


「.......はい。」


ごもっともです。


「だから罰として、」


.....................。


「私の体を隅々まで綺麗に洗って。」


さっきはアリスちゃんの体を洗ってて自分の体は洗えなかったの。


とイザナは小さな声でぽそりとこぼす。


「よ、喜んで!」


顔を真っ赤にして恥ずかしそうにそう言うイザナから、この後最高の罰を受けたのだった。


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