10.待望のお風呂は別々に。
「「「「「ごちそうさまでした」」」」」
こうして大人数でご飯を食べたのは一体何百年ぶりだろう。
アリスとフィオルは美味しそうにご飯を食べ、度々見せる子供らしく少し行儀の悪い振る舞いにサヤナとイザナが母親のように注意する。
それが何百年も昔に俺と妹達が母親からされた事を思い出さしてくれる光景でなんとも懐かしく微笑ましい。
しかし、サヤナは自分とアリスが奴隷の身分という事を意識しているらしく、お肉は高級だからと自分が食べるのを申し訳なさそうにして、ご飯のおかわりに関しては少ないだろうと言っても断固として断った。
挙句アリスのおかわりまで遠慮しようとしているものだからそこは俺が命令という手段を用いて阻止をした。
アリスには豊満に育ってもらわなければならないのに、その妨げになっては困る。
まぁ、今まではそんな生活を強いられてきたのかもしれないが、これからはそうではない。
少しづつでもいいから、メイドとしての不自由のない生活に慣れてもらいたいものだ。
わいわいと食べる楽しい夕食を終えると俺は食器を片付けて風呂場へと向かった。
お風呂を沸かすのは結婚して以来ずっと俺の仕事だ。
その理由は簡単。俺しか魔法を使えないからである。
「水玉からの炎!」
浴槽に魔法で水を貼り、そこに炎を纏った右手を突っ込んだ。
一応牧でも湯を湧かせるようには作っているのだが、魔法であっという間の所をわざわざ火を起こすのも面倒で、この家で暮らし始めてから1度として使った事は無い。
「んー、俺とイザナならもう少し上げるところだが、アリスとフィオルにはこれくらいがちょうどいいか。」
あまり熱いと火傷してしまうので、少しぬるいくらいで右手を浴槽から出す。
「さて、と。」
俺が湯を張ってからリビングへ戻るとイザナとサヤナが食器を洗い、アリスとフィオルは椅子に座って話をしていた。
歳が近いという事もあってか、仲良くとまではいかないが多少は打ち解けたようだ。
「それ終わったら皆んなで風呂入るぞ。」
遂に。遂にだ。
遂にサヤナの体を拝む事が出来る。
「何言ってるの?ハルトは皆風呂に入った後で入るのよ?」
「.....................は?」
俺の誘いに突如イザナの口から放たれた絶望的な言葉。
その言葉に俺の頭は一瞬活動を停止した。
幾千もの戦場を経験し、どんな想定外の攻撃にも一瞬で対応できるこの俺の頭がだ。
「は、じゃないよ。そうしないと皆の裸見ちゃうでしょ。」
「............いいだろ?」
「だめ。」
「で、でも、俺がいないとシャワー浴びれないぞ!」
そう。浴槽にお湯をためるのが魔法なのだからシャワーだって俺の魔法なのだ。
フィオルはこの歳では恐らく魔法は使えないだろうし、サヤナとアリスはイザナと同じく獣人で魔法が使えない。となると俺の存在は必須のはず。
「大丈夫。こういう事もあろうかと桶は買ってあるから。」
「............いや、でも、」
俺はこの時を何よりも期待してたんだぞ、それを............。
「なに?もしかしてサヤナちゃんの裸が見たかったの?」
.....................。
そんなの見たいに決まってるじゃねぇか......。
でもそんなのサヤナ達の前で言える訳ないじゃねぇか............。
「え、いや、それは、別に?」
「そう、なら大丈夫でしょ?」
..................。
涙目な俺にニコッと笑顔でそう言ったイザナに俺は何の反論も出来なかった。
「.........はい.........そう、ですね。存分に温まってきてください。」
それから俺は四人が一緒に風呂に入り、あがったのを確認してから入れ違いに1人風呂に向かうのだった。
.........昨日まではイザナと一緒に入れてたのに.........明日はイザナだけでも一緒に入ってくれるように頼んでみよう。