ダンジョン内のサイクロプス
「ふぁあ」
昨日、風呂に入りスッキリした希美。目覚めが良いようで目はぱっちりとしている。
「奏翔さんは、まだ起きてないですね」
自分よりも1段下の方で眠る奏翔目をやる。まだ眠っているようなので起こさずそっとするようだ。
「ん?」
ローブに着替え、部屋を出ようとした希美は、ふと奏翔ローブに目をやる。そこには
「これは・・・焦げあと、ですね」
ローブの裾には焦げたような痕があった。それも火で焦げたようなものではない。一瞬で焦がされたようなものだ。
「・・・電撃、ですか」
奏翔のローブの裾についていたのはおそらく電撃による焦げ痕だ。つまり、奏翔の電撃が原因ということになる。
「無意識に能力を使用してしまったのでしょうか」
電撃をうまく操れる段階に至っていない奏翔が、無意識に電気を発生させた。そう結論付ける希美。
「ローブ。焦げ痕のみ完璧に消失してください」
奏翔のローブの焦げ痕を完璧に消失させる。元通りの綺麗なローブになった。
「・・・依頼書でも探してきましょうか」
奏翔を残し、1人掲示板へと向かう。
「はぁ、希美にばれちまったか」
希美が部屋から出て、十数秒後。奏翔がむくりと起き上がった。本当は希美が焦げ痕を見つけた時点で起きていたのだが、焦げ痕の理由を追求されそうで狸寝入りをしていたようだ。
「夜中こっそり電気の練習してるなんて言えないからな」
城の門の外で能力の練習。希美にばかり負担をかける訳にはいかないので、心配されないように夜中練習しているのだ。
バリッと奏翔手から電気が散る。青白い電気は奏翔の手の上を走り、次第に消えていった。
「まだ調整が必要だな」
練習を重ねるうちに、電気を見るだけで自分の体調や電気の調子がわかるようになった。1つの便利機能として利用している。
「掲示板見に行くか」
ローブに着替え、1階のギルドへと降りていく。そこには
「希美」
「おはようございます。奏翔さん」
掲示板とにらめっこする希美がいた。迷っているようだが、
「こっちの弱い魔獣を20匹倒すか、こっちの強い魔獣1匹倒すか。どちらがいいでしょう」
「報酬は強い方が12G。弱い方が10Gか。・・・強い方いくか」
強い方の魔獣を倒すことに成功すれば、所持金は一気に42G。日本円に換算すると、42000円。
「魔獣はサイクロプスか。1つ目の化け物だな」
「目さえ潰せば勝ちですね」
サイクロプス。1つ目の怪物。体長が5メートルと人間よりもはるかにでかい。
「場所は、この間行ったダンジョンの深部だ」
「またあそこですか」
以前ミノタウロスを倒した場所よりも、さらに深くに行った場所にサイクロプスがいたという。鉱物採掘のため、サイクロプスを駆除して欲しいというものだ。
「今からいくか」
「はい」
馬車を利用し30分。以前とかわらぬ大穴が奏翔達を呑み込もうと口を開けていた。
「降りるか」
「この階段。誰がこんなにも長く掘ったんでしょうか」
残る疑問は解決しないまま、結局ダンジョンの底に着いてしまった。
「ただ進むだけだからな。ちょっと急ぐぞ」
「はい」
張り切って先を進もうとする希美に反し、奏翔は付近に転がっていた縦2メートル横1メートルほどの岩を拾い上げた。
「何してるんですか?奏翔さん」
「希美。この岩を乗り物として利用できないか?」
奏翔が考えているのは、希美の能力で岩を乗り物っぽくできないかということだ。
「10センチほど浮いてください。この道の真ん中を秒速10メートルで進んでください」
言われた通りに、岩は10センチ浮き上がり、道の真ん中という位置を維持しながら秒速10メートルで進み始めた。
奏翔達は岩の上に乗っている。簡易乗り物ということになる。
「さすが奏翔さんです。アイデアがすごいです」
「この方が楽だからな」
そこそこ速いスピードで突き進む。途中で見つけた魔獣は希美の飛ばす石で撃退し、魔石は奏翔が素早く回収していく。
「ここがミノタウロスを倒したところだったな。ってことはもうちょっと奥か」
「そろそろですね」
ミノタウロス撃退したところからさらに奥に進むと、依頼書に記されていた場所に到着した。
「血の臭いが充満してるのか?酷い臭いだ」
「ぅぷ。すいません」
血の臭いで気分が悪くなったのか、口を手で抑え膝をつく希美。一方の奏翔は平然と周囲を散策している。
「血の痕が奥に続いてる。希美、これからは徒歩で行くぞ」
「は、はい。うっ」
血の痕が奥に続いている。それも、生乾きの血だった。つまり、サイクロプスがついさっき何者かを補食していたか、襲っていた可能性がある。
「何か聞こえる。咀嚼音?」
「はぁはぁ。うぅっ。んんっ」
血の臭いがどんどん強烈になっていく。近づいているのだろう。サイクロプスに。
「希美?」
「は、い」
「気分が悪いなら休んでていいぞ?」
「はい、お言葉に甘えて」
ぺたんと腰をおろした希美。血の臭いが強烈すぎるのか、希美の顔色が悪い。ここからは奏翔1人ステージだ。
魔獣に襲われないよう、周囲の壁に小さな穴をあける。一畳くらいの小さな穴だ。そこに希美いれると、奏翔は走って奥に向かった。
200メートルも進むと、道の真ん中に、それはいた。
「見つけたぞ。サイクロプス」
「あぁ?」
グリッと向けられた目に、奏翔は1歩も引かなかった。
「覚悟、しろよ?」
「返り討ち、に、してやる」
奏翔の右腕からは、青白い電気が、散っていた。