ギルド地下の設備
「なんか悪いことしちゃったです」
「大丈夫だろ。お前はお前の意見を述べただけだ」
ギルド2階にてパーティー誘いを断ったことを引きずっている希美。
「私は奏翔さんといたいですから」
「俺もだ、希美」
お互い爆弾発言をしているはずなのだが、異世界だからなのか、2人とも全く気にしていない。
「とりあえず昨日わかったことだが」
「はい。あの程度の敵なら支配できる上に簡単に殺せます」
あの程度の敵というのはミノタウロスのことだ。筋力100の戦士でも倒せるか倒せないかだというのに、希美はおそらく目をつぶっていても倒せただろう。
「奏翔さんは能力使わないんですか?」
ギクリと奏翔の動きがぎこちなくなる。希美には言ってないが、奏翔の能力には1つ欠陥が、いや、奏翔には欠陥があった。
「実はな、俺まだ能力をあまり使ったことがないんだ。11年前以降あまり使ってない」
「それだとなんで使えないんですか?」
「加減が出来るかを懸念してるんだ」
「あぁ、なるほど」
実をいうと奏翔は今までに能力を使った回数が3回ほどしかないのだ。幼稚園の時、路地裏で不良に絡まれた時、トラックに向かって放った時。そのたった3回。
「加減が出来そうになるまでお前に任せていいか?希美」
「はい。奏翔さんの役にたてるよう頑張ります」
えっへん、と威張るように胸を張る希美。首から下腹部にかけてまっ平らだ。
「それじゃ、次の依頼見に行くか」
「はい。頑張ります」
1階のギルドにて掲示板を見る奏翔達は、少し面白そうな依頼を発見した。
「暗部に狙われている。近日遠出するのだが護衛を頼みたい」
護衛の依頼だ。奏翔達には初めての種類の依頼なうえに、報酬が15G。興味が湧いたのか受付に持っていく。
「今日はこれですね。あっそういえば」
思い出したようにフレアは何かポーチのようなものを持ってくる。
「なんでも収納可能な道具です。小さいですけどすごいんですよ。○次元ポケットみたいに」
「それは言っちゃダメだろ」
「だいぶ際どいです」
なぜフレアが、青色のタヌキが持っている便利なポケットを知っているのかはさておき、ありがたいのでもらっておく。
「助けてもらったお返しです」
「ありがとう。活用させてもらう」
「ありがとうございます。大事にします」
腰に装着。冒険者感が少しアップしたところで、依頼に記されていた依頼主の家にお邪魔することに。
「お願いします。僕を守ってください」
「まず簡単に経緯を教えてくれ」
要約すると、暗部の殺し屋が誰かを殺す現場を目撃してしまった。その際に殺し屋の顔の見たという。つまり、殺し屋にとって最も邪魔な人物となってしまったのだ。
「なるほど。・・・・・この家にあるもので大きな板ってあるか?5枚ほど」
「ありますけど。何に使うんですか?」
「希美」
「わかりました。お任せください」
依頼者の持ってきた板は縦180、横80、厚さ20の大きな板5枚だった。
「鉄になって」
希美の能力を使い、ただの木の板を鉄板にかえる。これを5枚分つくった。
「この人に危害が及ぶ場合、身を呈して阻止して」
5枚の鉄板に命令を加える。これで依頼者は絶対の安全を保証された。
「この剣で試すか」
「え?」
壁に飾ってあった剣を手に取り、勢いよく依頼者に降りおろすと、
「あ、あれ。生きてる」
一瞬で依頼者の前に立ち、奏翔の剣から依頼者を守った。これが奏翔の考えた絶対に殺し屋に殺されない方法だ。
「あ、ありがとうございます」
依頼完了。意外と呆気なく終わった依頼に、少々の物足りなさを感じるが、気にせず宿に戻っていった。
「はい、15Gです」
「どうも」
「あっ。そういえばそろそろ宿泊期限が迫ってますよ」
「なら延長で。あと10日分。ほら、2G」
「ご利用ありがとうございます」
部屋へと戻り、ベッドにちょこんと座る希美。そこで、希美は奏翔の異変に気付く。
「奏翔さん」
「ん?どうした?」
話し方は変わっていない。いつも通りを装っているのだろうか。じれったいので直接聞いてみることに。
「あの」
「温泉にいかないか?」
聞こうとした瞬間、奏翔からの魅力的なお誘いを受けた。ここ4日間風呂なんて入ることが出来なかった。そのためか、希美は聞くことを忘れ奏翔の誘いにのった。
「このギルドが経営している温泉があるそうだ。地下に」
「すごいですね。地下に温泉作るなんて」
温泉を作るために必要な材料費を削減するために地下に作ったそうだ。
「広いな。縦横50メートルはあるぞ」
「感動です」
ギルド地下1階。広がる温泉に心踊らせている奏翔と希美。希美に至っては早く入りたいのか服を脱ごうとしている。
「服は脱衣場で脱いでこいよ」
「わ、わかってます」
あわてて脱ごうとした服を戻す。顔を紅潮させ脱衣場へと走っていく希美。奏翔も脱衣場へと向かう。もちろん男女別だ。
「さてと、日頃の疲れを癒すかな」
「久しぶりのお風呂です。堪能しますよっ」
脱衣し終わった奏翔と希美。無論大事なところはタオルで隠して。そこで2人はようやく気が付いた。
「「混浴っ?」」
2人は知らなかったのだ。混浴だということを。実はギルドの人が言い忘れていたのだが
「まぁ、大丈夫だろ」
「タオルで隠せば問題ないです」
タオルで大事な部分を隠してしまえば何も問題はない。結局そのような考えに至った奏翔と希美。
「背中流しましょうか?」
「あぁ、頼む」
驚くことに、希美はなんの抵抗もなく奏翔の背中を洗い始めた。小さな手で洗う様は親と子を連想させる。
「交代、だな」
「はい。お願いします」
さらに驚くことに、奏翔の抵抗なく希美の背中を洗い始めた。背中はくすぐったいのだろうか、希美の体がビクビク跳ねる。
「はぁ。温かい」
「気持ちいい、です」
肩が触れてしまうくらい近い距離で湯に浸かる。体に良い魔素が含まれているため、湯がわずかにきらきらしている。
「異世界でも、風呂の習慣はあるんだな」
「はい。安心しました」
異世界に来て、慣れないことばかりだった奏翔達だが、変わらないこともあるんだと、密かに喜びを噛み締めるのだった。