人生初の討伐依頼
「このノルン王国周辺には危険な魔獣がいます。それを倒すのが冒険者です」
ギルドで受付の仕事をしていた少女。奏翔と希美にギルドの説明を施しているようだ。
「冒険者の役職は4つ。戦士、術師、道化師、能力者」
戦士。おもに前衛で戦う役職だ。力と機動性が備わっていないとなることはできない。
術師。簡単に言うなら回復を行う役職だ。回復は魔力なるものを多く使うため、魔力所持量が多くなければいけない。
道化師。多才な魔法で敵を惑わす役職だ。魔力所持はもちろん、状況に会わせた魔法を使う判断力が必要になる。
「能力者?」
奏翔が疑問符を浮かべる。魔法の存在する世界で能力者というのはおかしい。それが一般常識である。
「はい。ごく稀に強力な力をもった人が生まれます。しかし、強力であるため、魔法らしいものはひとつも使えないそうです」
どうやら能力者は、非常に貴重な存在とされているようだ。奏翔達もおそらく能力者に含まれるであろう。
「冒険者になりたいんだが」
「はい。それでは、役職を決定するために魔力やその他もろもろ計りましょう」
「随分と適当なんですね」
適当なことはさておき、奏翔達は受付の少女から教科書くらいの大きさの板を受け取った。板とはいってもガラスのように透き通っているものだが。
「それは、体に流れるエネルギーで起動できます。人それぞれエネルギーは違うので本人しか起動できません」
「指紋みたいなもんか」
「虹彩みたいなものですね」
板を手にすると、中心部分が淡く光り次第に全体に広がっていった。
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名前:風早奏翔 年齢:17 性別:男 出身地:日本
筋力:3
耐性:6
魔力:0
魔耐:0
技能 無し
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決して高いとは言えないステータス。受付の少女に聞いてみたところ、ステータスの値が示す1は、10キロの力だという。
結論から言うと、奏翔は大した能力もなければステータスがすごいわけでもない。ただの一般人ということだ。
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名前:愛原希美 年齢:12 性別:女 出身地:日本
筋力:1
耐性:3
魔力:0
魔耐:0
技能 無し
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奏翔と同じく高くないステータス。筋力に至っては十キロ程度。12歳女子ならば納得もいくが、異世界となればそんな甘えは通用しない。
結論。奏翔も希美もたいして強くはない一般人。たったそれだけのことだった。
「えぇと、頑張れば強くなれますよ」
励まそうとしているのだろうか。苦笑いでそう言われた。別に奏翔達は傷ついている訳ではないのだが。
「ステータスは低くても役職には就けるんだろ?」
「就けないことはないですが、ステータスが低いとパーティーを組んでくれる人がいるかどうか」
「問題ない」
自信満々に言い切った奏翔。希美も自信気に胸を張っている。といってもあるかどうかわからないくらいの胸だが。
「俺達を能力者に就かせてくれ」
「お願いします」
とんでもない要望だ。何の特技も大した魔力も持ってない一般人が、能力者の座につくなどありえないことなのだから。
「え、えぇ。わかりました。それでは、その板、ステータスメモリに記録します」
ステータスの表示された板、もといステータスメモリに能力者と記録された。
「くれぐれも気をつけてください。職と実力が伴ってないと周囲の冒険者から反感を買います」
「わかった。いろいろ世話になったな」
「はい。ありがとうございます。えぇと」
「あっ。遅れましたね。私はフレイヤ・フレイ」
「いろいろありがとうな、フレイ」
フレイと名乗った少女に別れを告げ、同じくギルド内で仕事を探す。
「フレイの話だと、この掲示板にある依頼書を受付に持ってけばいいんだったな」
「これはどうですか?畑を荒らしてる魔獣10ぴきの駆除。報酬は10シルバーです」
この世界では、1G1000円、1S100円、1C10円となっている。
依頼書には、魔獣討伐から護衛まで幅広く取り扱っている。報酬は依頼主決める。
「今の俺らには丁度いいかもな。これにしよう」
「はい。楽しそうですね?」
手頃な依頼書を持ち、受付に持っていく。ということはつまり、
「こんな短時間で3回も会うなんて、もはや運命ですね」
「それはいいから。ほら、依頼書」
「早速ですか。んん、これはまぁまぁな依頼ですね。行ってらっしゃいです」
人生初の魔獣討伐の依頼。もしかしたら死ぬかもしれない依頼だが、なぜか奏翔と希美の胸は、高鳴りを抑えられなかった。