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桜貝

作者: 浅縹ろゐか

桜貝のような爪を持つ君へ

 ああ、まただ。無意識に出る癖というのは、やはり誰にでもあるようだ。それは、例えば自分でいうところの困った時に首をかく癖であったりする。ガリリと硬い音が僅かに響く。白い歯に挟まれた爪が、歪な形になり悲鳴を上げている。ガリリ、ガリ。彼は心ここに在らずといったところだろうか、その目から特別目立った感情は窺い知れなかった。じっと凝視される視線に気が付いた彼が、片眉をひくりと吊り上げた。爪を噛む癖に気が付いたのは、半年程前のことだった。血が滲む一歩手前で、居たたまれなくなって思わず声を掛けたのだった。そうしたら不思議な顔をして、自分の手をまじまじと見つめた彼は気が付かなかったと一言呟いてそれきり黙ってしまった。何故そんなことをするのか、などと聞くのはあまりにも野暮だと思った。自分だって、理由の無い癖のひとつやふたつあるのだ。細い指先にある桜貝のような薄い紅色の綺麗な爪が、歪んで棘を立てているのを見ると何故だか酷く勿体無く感じるのだ。止めさせようとしても、彼がそういうことを聞かないことは分かっていた。良い意味ではマイペースだし、悪い意味では自己中心的であることを知っていた。それでもどうにかして彼の桜貝の爪を守るべく(彼はそれを望んでいないが)、今日も不器用に声を掛けるのだ

 「手を繋いでくれませんか」

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