アンデットの行進です。
あたりを見回しても暗い洞窟の中。
私は今日生えたばかりの、自分の尻尾を弄っていた。
「あ、この尻尾思ったより動かせる。 確かに普通の猫も、尻尾が勝手に動いたら迷惑だろうし」
「…ってそんな事してる場合じゃないよね」
転移して、割と落ち着いたけど、自分の置かれている状況があんまり整理出来ていない。
とりあえずはシステムさん、(※長いので今度からシィちゃんと呼ぶことにする。)に、あの後言われた事を簡単にまとめてみようと思う。
ひとつ。 見た目はあんまり変わらないが、構造的には人ではなく、こちらも猫と同じようになっているんだと。ゾンビって言い方はあれだけど、こっちの方がなにかと都合がいいらしい。 基本的にはこちらも魔力で補っているみたい。
ふたつ。 猫と魂が重なっているせいか、ある程度なら猫の特性も使えるそうだ。でも猫の特性ってなんだろう? ピンとこないな。体が軽いとか。
みっつ。 本命の死霊魔法はゾンビやスケルトンの召喚と送還。または使役他で、シィちゃんの説明によれば、これは私が一度死んでしまった事が原因らしい。 そのせいで他のサポートが受けれなくなったみたい。
使い方はどのようにしたいかを命令すると、自動で魔法が発動するそうだ。
これは便利だね。
よっつ。 肝心の猫の手掛かりは殆どないそうだ。一応この世界にいるのは確実らしんだけど。
「う~ん確か、見た目はあんまり変わってないと言われたんだけど…」
グルッと自身の体を見える範囲だけど確認してみる。
うん、猫耳と尻尾以外は確かに変化はないみたいだけど、暗くてあんまり良く分からない。
服装は前は制服だったんだけど、ローブのようなもの着てるし。
「鏡が欲しいよ。でもこんなところにないだろうし」
そもそも、まずはここが何処かも分からない。
さすがに洞窟を出たら人はいるよね。
「あとは確か、私もあの猫みたいに体の負荷が少なくなるって言われたんだっけ」
「運動神経は無い方なんだけど」
軽くジャンプしてみる。
おぉ凄い! ホントにいつもより体が軽い!
なんだか、すごく感動なんだけど。
「他には、お約束の石を持って投げたりとか」
一度、壁に向かって全力で投げてみる。
「えいっ!」
手に収まるぐらいの石はバシッと壁にあたり、そのまま中にめり込んでしまった。
「えっ怖っ! これはヤバい」
とここで違和感に気づく。
石を投げたほうの右腕が動かない。
「あれ!? えっ、痛っくはないけど、え!?」
自分自身の腕がまるで、ゴムの塊のようにだらんとしてしまっている。
しかも痛みはなく、感覚も小さい。
もしかして、ずっとこのままじゃと一瞬だけ怖かったけど。
「あ、だんだん動くようになってきた。 良かった~」
「これがシィちゃんが言ってた、ゾンビみたいなところかな?」
勝手に石を投げたのは私なんだけど、さっきはホンキであせってしまった。
確かこれも魔力で、補ってるんだったよね。
この先、不自由しそうなので、全力を出すのはやめよう。
でもどのくらいまでだったらいいかは、あとで確認しておかないと。
「あとはやっぱり例の魔法だよね」
しかも、ちょうどよくこんな場所だし。
まわりには、いくつかの骸骨の死体。
それにこの体になったせいか、そこまで恐怖は感じなくなっている。
もっとも生前に骸骨をみる機会なんか、少ししか無かったので比べようは無いけど。
「確か、シィちゃんが言うには、対象を思い浮かべて、基本的には命令とか、お願いすればいいって言われてるけど」
なんでも、かりそめの命を吹き込んで使役するみたいだけど。
あと他にも強く思えば思うほど、能力も上がるって言ってたっけ。
とりあえず、まずは一体呼び出してみようと思うけど、どうせなら強い死霊を呼んだ方がいいよね。
「と言うわけで、この地に眠る一番強い骸なる者よ。 私の前に現れて!」
そう言った瞬間、目の前で黒紫色の光が渦巻き、足元には魔法陣の線が火走る。
眩しさは感じられず、散乱する魔法の光がホントに異世界なんだなぁと実感させてくれる。
まだ外の景色を見てはいないけど、自分が元居た世界じゃないというのは不思議な感じだ。
――そして、そうこう思っている間に、正面の魔法陣には長身の骸骨が現れていた。
背は私よりも高く、全身を鈍い黒鋼色の鎧に身を包み、かすかに見える部分が白く骸骨のそれであることを表している。
顔には、前に尖ったヘルムが被せられ、腰には長く真っ直ぐな剣が鞘に収められている。
言葉は発さず静かに佇んでいるだけなんだけど、迫力ありそう。
「おぉ~これが魔法か。 結構凄いね」
良かった。
無事に成功出来たみたいだし、変な猫耳とか付いてたらどうしようかと思ったけど、その心配もいらなかったみたい。
「それにこれを見てもやっぱり怖いとか全然感じられない。 やっぱりこの体が影響してるのかな」
う~ん、甲冑鎧の骸骨を前にしてこの対応は女の子としてはいいんだろうか?
「考えても分からない事は仕方ないね。それじゃまずは名前を付けたりしようかな?」
「そうだね。 骸骨だから…、骨…、ほね…、スケルトンで…、スケさん!」
「あなたは今度からスケさんって呼ぶから。 可愛い響きじゃない?」
うんうん、いいネーミングだ。
「とりあえず、他に数体くらい出してみようかな?」
それからこの場所にいた骸骨を何体か、簡単に動かしてみた。
こっちには名前は付けなかったけど、みんな見た目は簡素な剣しか持っていないので、まんまゲームとかで見るスケルトンだ。
あと魔法の発動が終わったあとに、少し疲れた感じはするが、すぐにもとの状態に戻った。
これが多分、魔力を使い、回復する感じなんだと思う。
「うんうん、死霊魔法は順調だね」
よしじゃ早速、この場所を脱出しよう。
とりあえず、ここの出口はその空洞しかないから出てみようか。
「スケさんにみんな。 私をこの洞窟から外に出して!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
命令通りに、ゆっくりと全体が歩いている。
今のところ、30分くらい歩いてはいるけど問題は起きてはいない。
他には歩く速さもそれほど遅くはないんだね。
私の歩く速さと、同じくらい。
「でも結構歩いてるけど、外に出る道分かるかな?」
それから洞窟内を歩いていると、前を先導していた皆が止まった。
少し遠めに見える場所に、緑や茶色の色をした小柄な物体がこちらに向かって走って来ている。
あれは確か、ゴブリンだと思う。
アニメとかだと弱いイメージなんだけど、実は狡猾で厄介だって言うし。
向こうの手には、こん棒が握られていて、数の上では向こうが多いくらいだけど。
さてどうしよう。
私のスケルトン達を試してみたい気もするけど、勝てるかな。
もしもの時は逃げる準備しないと。
「スケさん達。 道を塞ぐゴブリンを切り捨てて」
そう命令すると同時に、皆が動いた。
まずは名前を付けていない、スケルトンがゴブリンに相対する。
剣で相手を切り裂こうとするが、こん棒で弾かれてるのが見て分かる。
でもその代わり、自慢の体がダメージをほとんど通して無いけど。
意外に固いんだスケルトン達。
次にスケさんはと言うと、流石にゴブリン相手でも確実に一体ずつ仕留めていた。
狭い洞窟でも関係無しに動いてる姿が見える。
おぉタックルして斬るとか、カッコいい。
普通のゴブリンじゃスケさんには勝てないかな。
「よしもっと増やそう」
そう決めて、呼びかける。
「この地に眠る死霊達よ。 ゴブリン達を押し流して!」
その掛け声とともに、体から魔力が持っていかれるのが分かる。
それも軽い量じゃなく、結構吸い取られた感じがする。
軽く目眩がするが、数秒で気にならなくなった。
でもその数秒が失敗だったよ。
スケルトンやゾンビが思いの他たくさん召喚され、ゴブリンに向かって応戦してるまではいいんだけど、その勢いのまま外に向かい始める。
そしてその流れのまま、なんと洞窟の外に出てしまった。
初めてみる、外の明るさが私を包む。
洞窟とは違う、暖かくて目に刺さる光が心地よさを感じさせてくれる。
岩山を背に、なだらかな斜面が下っていく。
全体の行進はまだ続いていたが、私が周りを景色を見渡しそれに気づいて、
はっとして全体を止める。
「皆! ストップ止まって止まって!」
少し遠くにある道と思われるところで、荷を引く馬車が何台か止まっているのが見えた。
さらにマズイ事に、冒険者風の男性と女性がこちらを向きながら剣を構えている。
これはヤバイ。
こっちは、骸骨とゾンビの大群。
向こうは多分、一般人。
「全体、強制送還!!」
シュンと、先ほどまでのガチャガチャした騒々しさが嘘のように、呼び出したスケルトン達が消えていった。
だけどあと少しで、あの人達にぶつかってしまうところだった。
やっぱり簡単な命令でも、扱い方が難しいのかも。
ホント気をつけないと、他の人を傷つけてしまうかもしれないしね。
ともすればここに来て、初めての人だ。
ここはいろいろと情報を聞いて、なにか得ないと。
例えば、近くの町とか、眠れる場所とか。
「すみません、驚かせちゃったみたいで。もう大丈夫ですよ。呼び出したスケルトン達には帰ってもらいましたから」
彼らの警戒がなお解けない。 やっぱり不気味がられる。
そりゃファーストコンタクトでゾンビパニックしたら誰だってそうなるよね。
私だって驚く。
「き、君はリッチーなのか…?」
男性が恐怖からか、緊張してるのが分かる。
――リッチー。
確か人が死んで、それからゾンビになってなお魔法を操るもの。
まずい、なに一つ間違ってないよ…!
でもここで、はいそうですって答えたら、私すごくバカみたいじゃん。
それにこの世界じゃリッチーは、討伐対象とかになってたら生きてけない。
「いやいや違いますよ。 ただ単に死霊魔法が得意なんです」
とりあえず嘘をついてみた。
それにリッチーって魔法が上手なモンスターだよね。
私、これしか出来ないしそれに上手でもないから。
「獣人の魔法使いはあまり聞かないな~。 あ、でも精霊と契約すれば獣人にも魔法は使えるとは聞いたことがあるわよ」
となりにいた女性が、男性の方に話しかける。
お、意外にも援護してくれるかも。
「だがあれだけのスケルトンやゾンビを操る術なぞ、そうそう聞いたことではないぞ」
「それは私たちが知らないだけかも」
「いやしかしな…。 おいお前は何故、あの洞窟にいた」
洞窟に居た理由。
それはシィちゃんにあそこに召喚されただけであって特に理由はない。
チュートリアルとかかな。
でもそんな事は言っても意味ないだろうし。
これ以上変な眼で見られる必要もないよね。
「調査です。 ここ最近はゴブリンがうろついているらしいので」
これはある意味ホント。
だって洞窟の出口探してたし。
「ゴブリン調査か、確かにギルドに依頼されていたやつか」
ホントにあったんだ調査。
まぁゴブリンはおまけだったんだけど。
「まぁまぁいいじゃない。それにこんな可愛い子が悪い魔法使いに見える? 私にはそうは見えないわよ」
「確かに…、話してるうえでは危険は無さそうだ」
どうやら納得してくれた。
彼が剣を鞘に直す。
やっぱり剣とかもあるんだ。私も少し使ってみたいかも。
今の体だとうまく振ったり出来るか分かんないけど。
「それじゃ自己紹介しましょう。私の名前はイザベルよ。一応、冒険者をやっているわ。宜しくね小さなネクロマンサーさん」
「俺はロイだ。イザベルと同じく冒険者で、今は一緒に近くの町までこの馬車の護衛依頼を受けてる」
鈍い金髪のイザベルに、赤茶髪のロイ。
どちらも身長は私より高く、服装には簡単だけど軽装備の防具を着込んでる。
それに比べて私は茶色のショートパンツに、白のフリルの入ったシャツに黒と赤の紋様が刻まれたローブ。
それに猫耳と尻尾。
死んだ時は学生服だったんだけど、シィちゃんがチョイスしたのかな。
「私はメアって言います。 わけ合って一人旅をしています」
「メアちゃんね。ここらへんでは獣人は珍しいから色々気をつけなきゃダメよ」
「分かりました。ありがとうございます」
獣人は珍しいのか。 そのあたりも気を付けないと。
それにしても護衛任務か、やっぱりここら辺は物騒なんだね。
すぐそこの洞窟にゴブリンがいたくらいだから。
「さっきゴブリンの調査と言ったが、それらしいのは見つかったのか?」
「確かに早く見つけないと、あいつらすぐに増えて面倒なのよね」
二人が、ゴブリンの事を気にかけてる。
ここはさっきのゴブリンを説明しよう。
「さっき数体見かけたから、倒しておいたよ」
倒したのはスケさん達だけど。
「それはさっきの魔法でか?」
「うん、そうだけど? それがどうかした?」
「いやいい、変な事を聞いた」
うん? なんだろう死霊魔法はメジャーではないのかも。
それかロイが幽霊とかお化けが苦手なタイプなのかも。
「それでゴブリンの死骸はどこに置いてあるの?」
「それならあっちの洞窟の、入り口あたりにあると思うけど」
「じゃ処理はまだだな。 ちゃんと方耳を切り落として死骸は燃やしておけよ」
え! そんな事しなきゃいけないの。
めんどくさいし、火なんて持ってないよ。
これが異世界。
非力な私は火も起こせないよ。
「なんだ、どうした?」
「火がないんだけど。どうしたらいいかな?」
「じゃ土にでも埋めろ。そうすれば多少は他の魔物がよっては来ない。お前の魔法ならば簡単だろう」
なるほど、それなら私でも出来そうだ。主にスケさん達が。
一回目の召喚がゴブリン退治で、二回目が穴掘りかぁ。
なんだかアンデットって、すごい働き者みたいだね。
あと実は、さっきから気になっていた事を聞く。
「ところでさっき、これから町に行くって言いました?」




