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猫探しのニャクロマンサー  作者: モリソン
1/2

猫探しを頼まれました。

 「――ゴホッゴホッ!」


 唐突に目が覚めた。


 固く冷たい地面と、暗くゴウンゴウンと響くその場所で息を吹き返したように、意識を覚醒させる。

 幸い体のどこにも痛みは無く、頭に痛みも見受けられない。

 その中で、モゾモゾと体を動かし始める。

 感覚がマヒしてるのか指先がとても冷たく、かわりに熱を持った胸の部分が赤く揺らぐ。

 体を動かした拍子に埃が舞うのが分かる。

 

 (――どこここ?)

 

 まわりが暗く、薄気味悪い。

 その中で、ぼんやりと光を灯す石が、自分の視界を広げてくれる。

 あおくみどりに光る結晶が、ここがどこかをすぐに教えてくれた。


 「洞窟の中?」


 だんだんと落ち着きを取り戻しつつ、目が見え始める。

 周りは岩や土で出来た小さな空洞のようだ、そのなかで目を引くのは埃に塗れ、

蜘蛛の糸を張った本棚。 同じく机と椅子。

 

 そして――


 「骨っ!」


 端の所々にある無数の人の骨。

 それらがこの空間を埋めていた。


 いつもなら、もっと騒ぎ立てたりするはずなのに今はどちらかと言うと、落ち着いている自分がいる。


 なぜならこれは、先ほどの、とある説明に合致する状況なのだから。


 まず自分の手を見てみる。

 冷たいだけで、いつもと同じ自分の手だ。

 変なものはない。


 立ちあがって、足が動くか確認するけど問題ナシ。

 若干、なにか違和感があるが動く。


 そして次に、頭の上に触れてみる。

 そこにはぴょこんと生えた物。

 ふさふさしてピクピクして熱を持っているもの。

 普通じゃ絶対にあるはずはないもの。

 触った感触が普通に伝わってくるもの。 



 ――そう、私に「猫耳」が生えていた!

 


 さらに言えば、おまけのように可愛らしい尻尾までクルンとおしりの付け根に生えている。

 その尻尾が右左に揺れるのを感じながら、持ち上げたりしてみて。


 「――はぁ~、どうしてこんな事に~」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 時は遡ること少し前、


 両親を事故で無くした私、「久代くしろ 芽亜めあ」。

 一度も染めたことの無い黒髪に、やや釣り目の瞳。

 昔、友人に猫の目みたいだねって言われたのを覚えているけど、なんでそう言われたのかは覚えてない。

 親戚の家をたらいまわしにされる日々を送り、友達らしい友達も出来ずに過ごしていた学校生活。

 成績は平均より少し上くらいで、運動神経はない方だった私は体育の時間はあんまり楽しんだ事はない。

 そんな私の、何気ない普通の下校途中でそれを見てしまった。


 (あぶないっ!!)


 そう思った時には体が動いていた。

 道路にいた一匹の猫。

 それに向かって走るトラック。


 ――そして次の瞬間には私の意識は無かった。

 


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 (――チリンッ)

 

 鈴の音が聞こえた。

 

 よく寝た気がする。

 えーとなんだっけ?

 そうだ猫。

 あの猫は助かったのだろうか?

 それより自分はどうなったんだろう?

 怪我とかしたんだろうか?

 凄く痛かったかな。

 きっと大丈夫じゃないと思うんだけど。

 というよりもここどこだろう?

 目が開かないし、体も動かないんだけど。

 つまりまだ生きてるってことなのかな?

 

 (――こんにちは、聞こえますか?)


 だれかに声をかけられた、誰?


 (――こんにちは、久代芽亜くしろめあさん。)


 私の名前が呼ばれてる。

 返事をしたいのだけれど、体が動かない。


 (――あぁ、そうでしたね。 ではこちらをどうぞ。)


 その声とともに、なんだか明るく、そして暖かくなったような感じがする。

 

 (もう大丈夫ですよ。 目を開けられて下さい。)


 その言葉通りに、瞳を開く。

 すると光が目に差しこみ、眩しいくらいに。

 そして、そこにあったのは白くて明るい空間だった。

 ただ私がいるだけで、他にはなにもない。

 怪我してると思った体も違和感はあるけど、痛みはない。

 

 「えっと死後の世界かな? 私やっぱり死んだんだ…。」


 あんまりショックと言うほどではないけど、自覚が足りないのかもしれない?


 (そうですね。 ここはそういった類のところで概ね間違ってはおりません。)


 (あなたは肉体的にも精神的にも死んだことになっています。)

 

 声が返ってきた。

 きっとさっき私の名前を呼んだ人? なんだろう。

 

 「あなたは神様ですか?」

 

 (正確にはあなた方が神様と呼んでいる存在ではありませんが、分かりやすく解釈するならば「システム」の様なものです。)

 

 「システムですか…、なら私は次のなにかに生まれ変わったりするんですか?」


 死んだらどうなるかとか、それは1度は考えたことはあっても体験するのは初めてで、何をすればいいのか分からない?

 いやむしろ何もしなくてはいいのでは。

 だってもう死んだらしいから。


 (それが…。 大変申し上げにくいのですが。)


 (まだあなたを生まれ変わらせる事は出来ません。)


 「えーと、それはどうしてか聞いてもいいですか?」


 (はい、それは今のあなたの体に関係があります。)


 「今の体? 別になんとも……、」


 そこで気づいた。

 さきほどからの違和感の正体がなにか。

 それはピクピクモフモフふわふわ。

 猫耳と尻尾が体に生えている。


 「なにこれ!! え! しっぽ!? 耳まであるんですけど!」


 わけが分からない!

 死んだらそういうものなの!?

 これコスプレみたいで恥ずかしいんですけど!


 (それが、あなたを転生出来ない理由です。)


 「えっと、どうして私に尻尾と耳があるんですか? しかもこれ普通に感覚があるんですけど?」


 死んだ私に感覚があるのはちょっと不思議だけど。


 (まず始めに、説明しなければならないことがあります。 それはあなたの事故の事です。)

 

 (あの事故であなたは死にました。 ですがもうひとつ、あの事故で亡くなった魂があります。)


 (そう、それはあなたが助けようとしたあの猫の命です。)


 ――猫の命…。


 そっかあの猫は助からなかったんだ。

 いや私が助けられなかったんだ。

 ダメだな、私…。


 (いえ、ダメではありません。 実はあの時の、あなたの行いで命が助かった子がいます。)


 「助かった子?」


 (それは久代芽亜くしろめあさんの近くにいた小さな女の子です。)


 (もしあなたが飛び出していなければ、彼女はトラックに引かれ亡くなっていたでしょう。)


 (なので彼女の命を救ったのはあなたと言えます。)


 それは私が助けたとは言いにくい。


 「でも、それでも私が助けようとした猫は死んだんですよね。」


 (そうです。 そして、さらにその猫の魂は今、久代芽亜くしろめあさん。)

 

 (あなたの中にあります。)


 「私の中に、あの猫の魂が? それで猫耳としっぽがついてるんですか?」


 (確証はありませんが、その様子だとあなたの中で眠っている状態だと考えられます。)


 (多分、あなたと一緒に亡くなられた時に魂が偶然にも重なってしまったのではないでしょうか?)


 (なので、そのままのあなたを転生させることが出来ません。)


 「転生されないと、どうなるんですか?」


 (ことわりから外れ、魂ごと消滅します。)


 ――魂ごと消滅する…。


 それがどんなに危ないことかはあんまり分からないけど、ふとそれでもいいかもしれないと思った。


 生まれてから、今まであんまりいい事も無かった人生。

 やり直せるなら、やってはみたいけども自分になにが出来るだろう。

 生きた証も、輝ける青春も、心に熱を持つ激動も私にはない。

 あるのは、流れに身を任せるだけの小さな気持ち。

 でも私の中の猫が消えるのは嫌だな。

 

 (あなたは何故、あの時あの猫を助けようとしたのですか?)


 「あのとき私は…。」


 (普通は死が迫っているものがいたとしても動くことは出来ません。)


 (なぜならそれは、人に備わる本能の部分がそうさせるからです。)


 「でも死にそうになっていたら助けるのは当たり前で!」


 (それは違います。)


 (それは誰にでも出来ることではなく、自身の本能をも打ち勝つ)


 (勇気や愛と呼ばれているものだと考えられます。)


 (なので、あなたの行いには勇気があり、愛にとんだ行動だったと言えます。)


 勇気とか、愛とか、普段は考えたこともない言葉が私にはあると言われた。

 そしてまだ、その言葉を受け入れるほど、出来た人間じゃないし、そもそも恥ずかしい。


 (さて本題に入ります。)


 「本題ですか?」


 (はい、久代芽亜くしろめあさんには、ある異世界で探し物をしていただきます)


 「異世界で探し物?」


 (そうです。 そのままだと、あなたとあなたの中の猫の魂が消滅してしまう為、その対策をとります。)


 (もちろん、問題が解決した時は、次の転生先を優遇させて頂きますのでご安心を。)


 「転生先の優遇とか…、それで一体何を探すんですか? しかも異世界ってあの異世界ですよね?」


 「本とかで良く出る。 魔法が使えるとか…。」


 (そうです。 あいにく私たちシステムがその場に行くことが出来ません。 なので久代芽亜くしろめあさんがその場に行き、それを探して頂きたいのです。)


 「まずは何を探さなきゃいけないか教えてください。」

 

 (はい、そこで探して頂くのは、猫です。)

 

 (それもただの猫ではありません、あなたの中に入っている猫を探していただきます。)


 「どういう意味ですか?」


 (調べたところ、久代芽亜くしろめあさんに入っている猫の体がどうやらその異世界で飛ばされ、迷子になってしまっているのです。)

 

 (魂が無い状態とはいえ、体が動き方を覚えているのでしょう。 それを向こうの世界の魔力で補っている状態だと分かっています。)


 (分かりやすく言うと、ゾンビになっている感じですね。)


 「それだけ聞くと、もう行く気がなくなるんだけど。」


 (すみません…。 ですがこの問題を解決出来る方法が他になくて。)


 う~ん正直、異世界に興味な無いわけじゃないし、まだ別の形で生きていけるならやってみてもいいけど、猫探しかぁ。

 前の世界に未練は特にないけど、自分がこういった出来事にどうすればいか分からない。

 とりあえずは。


 「はぁ分かりました。 出来る限りの事は頑張りますが、あんまり期待しないで下さい。」


 (やって頂けますか。 ではこちらからいくつかサポートさせて貰いますね。)


 「サポートって何かあるんですか?」


 (行って頂くのは異世界なので、基本的な魔力増強と、魔法の発動。)


 (あと久代芽亜くしろめあさんの魔法に関してなんですが…、)





 (――ネクロマンサー、つまり死霊魔法ですね。)





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