すぐに溶けて
「どう?似合う?変じゃない?!」
「はいはい、似合ってるよ。変じゃない、変じゃない。」
俺は先日買った浴衣を着て、石川に聞いた。財布はこっちの世界に持ってきてないから、正確に言えば石川に買ってもらった。
明日はとうとう美波と約束した花火大会の日。
いい歳した大人が夜も眠れないなんてあるわけないと思っていたが、俺は眠れなかった。緊張もあるが、それよりも不安の方が勝っていた。佐島海輝に本当のことを伝えると俺は決心したのだ。
石川にも相談した。別に良いんじゃない?と言ったのでなんだか安心した。美波と会うのが楽しみなのに、自然と頭の中は佐島海輝のことでいっぱいになる。いつ、どのタイミングで言うのか。
そんなことを考えていると、美波のことは頭から離れてゆく。
俺の明日の目的は一体なんだろうか。
美波に想いを伝えるのか、佐島海輝に本当のことを伝えるのか。
俺の頭は宇宙みたいに広くない。
「行ってくるよ。」
「はい、いってらっしゃい。」
俺は浴衣を着て、家を出た。外はすっかり暗くなり、太鼓や笛の音が聞こえてきた。海の見える坂を下ると、そこは明るかった。
祭りの道は人で溢れている。ヨーヨーをたくさん持ってる人、りんご飴を食べている人、キャラクターのお面を付けている小さな子供。
自分の声が聞こえないくらい、にぎやかで盛り上がっていた。神社の前で腕を組んでその光景を見ていると、どこからか足音が聞こえてきた。
「海斗さーん!」
美波だった。隣には佐島海輝がいる。
「こんばんは。君は?」
美波たちに近づいて、わざと佐島海輝に聞いた。さりげなく、自然に……。
「佐島海輝です、こいつの友達..です、はい。」
目は合わせてくれない。
「俺は広瀬海斗。よろしくね。」
はい、と小さな声で答えた。2人はまだ来たばかりなのか、手にはなにも持っていなかった。
「なにか、食べようよ。あっちに行こ。」
俺が屋台が並ぶ道を指して言った。
「はい!行きましょう!海くん、行くよ!」
「...うわ!ちょ、待てよ!」
美波は佐島海輝の腕を強く引っ張り前に進んでいった。昔はこれが当たり前だったが、大人になった今、この光景を見るとなぜか自分に嫉妬してしまう。俺も...されてたしな。うん。
始めに行ったのは綿あめ。ピンク色の大きな綿あめを美波は幸せそうに食べている。
「美味しー!海斗さんもどうですか?」
そう言って美波は綿あめを少しちぎってくれた。
俺はそれを受け取って口の中に入れた。
甘い。綿あめってこんなに甘かったっけ?美波は俺を見て微笑んでいる。口の中で綿あめはすぐに溶けてしまった。でもまだ綿あめは口の中に残っているような感じがした。美波が笑っているから。
「海斗さん、近すぎませんか?」
佐島海輝がりんご飴を持って、俺と美波の間に割り込んできた。
「海くんもうりんご飴買ったの?」
「うん、すいてたから。」
「ごめんごめん。」
俺は笑って誤魔化した。佐島海輝は俺を少し睨んだ。怖いな。
「私にもちょーだい!」
カプっ……。
「...えっ、まっ待てよ...ッ」
……なんて大胆。美波は佐島海輝が持っていたりんご飴を一口かじった。
「...おい!勝手に食うなよ!」
顔、真っ赤だよ。りんご飴みたいに。
青春だなーと思って見ていたが、こんなことしてる場合じゃない。動かなければ。
プルルルル...。
「はい、……えっ……?」
急に美波の携帯が鳴った。美波は驚いている。誰からだろうか。
しばらくその場で美波の電話が終わるのを待っていると、美波は俺に食べかけの綿あめを渡してきた。美波は電話を切って、真剣な表情のままこう言った。
「...ごめんなさい。私、帰るね。」
「……え、?」
只今、作者テスト期間中でございます!
活動報告も更新出来ていなくて申し訳ないです!
今週の土曜日からまた再開しますので、しばしお待ちください!
勉強頑張りますので(^O^)