迷い
「今日はありがとうございました。」
数分後学校に着いた。美波は俺に頭を下げて昇降口に走って行った。美波が学校を飛び出してどこかに行くのはしょっちゅうあったことだった。
その度に俺は心配でたまらなかった。追いかけることもできないから。確か、2年生の教室は3階だったな……。3階の窓からよく、美波が走って学校から出ていくのを見ていた。
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「あれ、もう帰ってきたの?」
「あぁ、今日はもういいや。」
俺は石川がいるアパートへ帰った。石川は椅子にに座り、パソコンを開いていた。
「仕事でもしてんの?」
俺は着ていたスーツのネクタイを緩めながら石川に聞いた。
「仕事なんかじゃないよ。こんなとこで仕事なんてしないよ。ただいろいろ調べてただけ。」
石川は手を止めることなく答えた。
「...そういえば、お前ここに来てからやけに静かだよな。そんなキャラだったけ?」
ずっと気になっていた。いつもテンション高めで、ずっと笑ってる奴だと思ったが、実は違うのかななんて。
「...うん、まぁ。いろいろあって。」
どこか寂しい顔になった石川を俺は見逃さなかった。あまり詳しく聞くのはよくないな。
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俺は今日もスーツを来て出掛けることにした。
石川に行ってくると伝えて俺は外を出た。
目的地なんてなかったが、なぜか足が自然と学校の方へ進んでいった。
「...あっ!海斗さん!」
美波が校門から飛び出してきた。驚いた……。
「今日も、抜け出してきたの?」
「……まぁね!授業とか受けてらんない。」
美波は授業をサボる奴だったな……。
「そうだ!あのね、海斗さん!これ見て!」
美波が俺の手を引いて校門前の掲示板の所に立たせた。いきなり手を掴まれて少し鼓動が速い...。
掲示板には海星町の花火大会について書かれていた。
「...花火大会?これがどうしたの?」
「一緒に行きませんか?!」
……え。今、なんて。一緒に?花火大会に?俺と……?頭の中はグルグル。
「...ダメですか、?」
美波が俺の顔を覗き込んできた。
「いいけど…2人で?」
心臓が破裂しそうだ。こんなにドキドキするなんて。
「私の友達もいます!3人で!どうですか?」
……3人、、。まぁ、そうだよな。昨日会ったばかりの大人と2人きりなんて無いよな。
てか、友達?誰だろう。
「海斗さんに似てる友達がいるんです!私の幼なじみで、昨日からずっと思ってたんですよね。」
待て、それって……。佐島海輝?やっぱり、9年経っても顔はあんま変わんないのかな。ちょっと痩せて、髪型とか結構変えたけど...。
もう1人の自分がいる中での花火大会とか...。怖くて想像もできない。でも行くしかないな。この時しかチャンスがないかもしれないし。
「いいよ、ちょうどこの日休みだし。」
本当は毎日休みです。
「やったー!浴衣着てきてくださいね!」
「うん、リョーカイです。」
……浴衣、買わないと。
そういえば、なんだかんだいってもう1人の佐島海輝にはまだ1回しか会ったことがない。花火大会の時、どういう反応するかな、、。思わず、酔っ払って俺の部屋で寝てた人とか言わないでほしい。
でも俺ってそういう奴だから言うだろうな。
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懐かしい海星町をぶらぶら歩いていたらあっという間に日が暮れてもう夕方だった。
学校が終わり、下校中の生徒がゾロゾロと歩いてきた。俺もそろそろ帰ろう。そう思い海の見える坂の上を歩いていると、声が聞こえてきた。
……美波と、、俺の声??
「それでね、花火大会海斗さんも一緒に行くことになったから!」
「海斗さんって誰だよ、勝手に俺の知らない人連れてくんなよ。何歳?どういう人?イケメン?どうせぱっとしないアラサーだろ?」
「海斗さんのこと悪く言わないでよ!24歳のイケメン!!」
...いや、ツッコムのは辞めとこう。俺は木の陰に隠れて2人の会話を聞いた。
「なんでその人も来んの?毎年2人きりで行ってたじゃん。」
確かにそうだ。毎年花火大会は2人で行っていた。佐島海輝の気持ちはよく分かる。邪魔が入るとめんどくさいよな。でも俺も今、お前佐島海輝が邪魔に見えてくるんだよ!でもやっぱり、佐島海輝のことは憎めない。9年前の自分だしな。
このことは佐島海輝に伝えた方がいいのだろうか。俺は9年後のお前だよ。……と。
なんだか黙ったままでいるのが少し嫌に思えてきた。本当のことを自分に伝えたいと思った。
どうしようか。
伝えたら……。言ったら……。
何か...変わるかな。