ついて行けば
俺は裸足のまま屋根の上に座り込んで目を閉じた。
なんで俺はこんな所にいるのだろう。一体どうやってきたんだろう。本当の世界に帰れるのだろうか。あらためてとてつもない不安が一気に襲い掛かってきた。この世界は今、7月くらいだろうか。
もう1人の俺の部屋に戻ってカレンダーを確認しようと思い、立ち上がろうとしたその瞬間____。
ガタッ。
ポケットから何かが落ちた音がした。
「……!」
携帯だった。だが、俺の携帯ではない気がする。機種も違うし、これは誰の携帯だ?
落ちた携帯を拾おうと手をのばした時、いきなり着信音がなった。
「……石川、、?」
携帯の画面に写っていた名前は同じ会社の同僚の石川賢斗だった。あわてて携帯を手に取り、電話に出た。
「……。もしもし、石川?」
「佐島くん、今どこにいる?」
確かに石川の声だ。
「えっと、どこって……。」
なんて言えばいいのだろう、過去にタイムスリップだなんてそんなこと言えない。
しばらく沈黙が続いた。
「もしかして僕には言えないような所?」
急に真剣にな声で言った。鼓動が一気に速くなった。
「……え?」
「過去にいるんじゃないのか?君は。」
心臓が飛び出そうだった。なぜ分かる?俺の居場所が。
石川は話を続けた。
「君は9年前の過去に戻りたいと強く願っていた。そうだよね?」
「な、なんでそんな事、、。」
「僕が君の願いを叶えてあげたんだよ。君は今、9年前の海星町にいる。そして、僕も。君のすぐ近くにいるよ。」
屋根の上を走って勢いよく下に降りた。足がジーンと痛かったが、今はそんな場合じゃない。
家の前には石川賢斗が携帯を持って立っていた。石川は笑顔のまま俺に近づいてきた。
「やぁ、佐島海輝くん。」
いつもの石川のテンションじゃない。まるで別人だ。
夏の涼しい風は俺たちを包み込んだような気がした。
「佐島くん、靴履いてないじゃないか。僕の家においでよ。」
石川はそう言うと後ろに振り返り進んでいった。怖いし、怪しいし、何が何だか分からなかったが、不思議と石川の背中が大きく見えて、大丈夫と俺に言っているようだった。俺は何も言わず石川について行った。できるだけ日陰の場所を歩いた。日陰ならまだ熱くない気がした。ずっと下を向いて歩いていると石川が俺の方を向いた。
「ここだよ、階段熱いから気をけて。」
目の前には小さなアパートがあった。でもまだできたばかりだろう、綺麗だった。石川が階段をのぼっていくのを見て、俺もゆっくりとのぼって行った。確かに階段は熱い。でも熱いという声すら出なかった。階段をのぼって左に進むと石川はズボンのポケットから鍵を取り出し、鍵穴にさしてドアを開けた。部屋番号は103。
「そこで待ってて、今濡れたタオルを持ってくるからそれで足を拭いて。」
そう言うと石川は靴を脱ぎ洗面所らしき部屋に入っていった。1分程待っていると石川が濡れたタオルを手に持って部屋から出てきた。俺にタオルを渡し、これで拭いてと言って違う部屋に入っていった。俺は石川に渡された濡れたタオルで足の裏を拭いた。冷たくて気持ちよかった。黒く汚れたタオルを手に持って家にあがった。
「石川ー、タオルどうすればいい?」
そう叫ぶと洗濯機の中に入れておいてと聞こえたので、洗面所に入って洗濯機の中にタオルを入れた。