伝えにいきます、水平線を越えてまでも。、
「私ね、あの水平線を越えて違う国に行きたいの。」
君は夕日に染まった海を指さして言った。
「うん。面白そう。」
波の音しか聞こえない砂浜で…僕は、君に伝えることができなかった。
'スキ'だと……
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「佐島くん、この書類今日中までにお願いね。」
「分かりました。」
社長から渡された書類を自分の机まで運んで、俺はパソコンを開いた。
普通に高校を卒業して大学に行き、普通に職に就くことができた。
こんなありきたりな人生つまんないだろ?
俺だってそう思う。特に就きたい職業なんてなかったけど、普通のサラリーマンか...。
「さーしまっ!今日、合コン行かね?」
同僚の石川賢斗が俺の肩を叩いてきた。
「俺は...いいや。遠慮しとくー。」
行く気なんてない。
「なんだよ、ノリ悪ぃなー。可愛い女の子、来るらしいよ?」
「いや、俺そういうの無理だから!」
賢斗の手をはらって、仕事を続けた。
「お前、彼女いたっけ?」
賢斗は手に持っていたコーヒーをすすりながら俺の方をチラッと見る。
「いないよ。」
呆れた口調で言うと、賢斗はふーんとした顔で自分の机に戻っていった。
俺はもう自分から行動したくないんだ。
行動しなければ、出会いなんてものもない。
俺はそれでいい。
人は運命の人がどうとか言うが、俺にはもうそんな素敵な出会いもない。
だって俺は。もうとっくに出会ってしまったから。
……運命の人に。
そして、その人はもういない。
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結局残業になってしまった。もう夜の9時。
職に就いてもう半年。一人暮らしはまだ慣れない。
コンビニ弁当が入った袋を手に提げてとぼとぼ歩いていると、どこからか太鼓の音が聞こえてきた。
「夏祭りか...。」
もう8月。世間は夏休みとかで自由に過ごしているのだろう。なのに俺は毎日毎日、働きっぱなし。
休みなんてものもない。どうせあったって、1人でゴロゴロするだけだし。一緒に過ごす人なんていねぇし。
「遠回りして帰るか...。」
できるだけ人に会いたくない。
なんで俺、こんなんになっちゃったかな。
ため息ばかりの生活にも飽きた。でも自分で変えようとも思わない。
そんな自信もないし、まずそんなことをするなら仕事に手をつけないと。
「ただいま。」
……。
「寝るか……。」
コンビニ弁当は冷蔵庫の中に入れた。
四畳半の部屋に行き携帯を充電した。スーツは上着だけ脱いでそのまま床に捨てた。
暑い。
夏だから。 ……布団を被らずに目を閉じた。
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「海輝ぃーーー!!」
「なんだよーー!!」
「今から、海見に行こう!」
「今から?」
「うん!今なら綺麗な夕日が見れるよ!!」
手を引かれ、走って、たどり着いたあの海は本当に綺麗だった。
「海って……オレンジ色だったけ…。」
「何言ってるの?海はブルーだよッ」
「あぁ。そうだよな、ブルーだよな。」
俺の目には夕日に染まった海しか見えない。
なんて綺麗なんだろう。こんな綺麗なもの、今まで見たことがあっただろうか?
「……。」
「海くん?」
「えっ?あっ、ごめん。見とれてた。」
「ぇー?私にぃー??」
「ちげぇーよ。」
「そこ、否定しなくても良くない?!」
そうだ。俺の隣には美波がいる。
今なら言える気がする。
スキ……だと。
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プルルルル。
プルルルル。
「……ん??……ぁ。寝てた。」
夢だったか。そりゃそうだ。美波に会うなんて無理なことだし。
携帯が鳴っていたから出ようとしたら丁度着信が切れてしまった。また後からかけ直すか。
久しぶりにいい夢を見た。俺はかれこれ1時間程寝ていただろう。もう夜の10時過ぎ……
のはずだった。
「おい……。なんだよ、これ...。」
寝ぼけてたが確かに分かった。外は明るい。
もう朝なのか?俺はそんなに寝てたのか?
どこからか階段をのぼる足音が聞こえてきた。
アパートの外階段を誰かがのぼっているのだろう。
いや、おかしい。この部屋の中で聞こえているように感じる。
「かいき!!!起きなさいよ!朝ご飯できてるんだから早く降りてきなさいよね!じゃないと遅刻するわよ?早く制服に着替えて!」
か、母さん……?
「……はいはい、今いきますよー。あー眠い。」
……お、俺と似たような声??
俺の目の前には……
俺がいた。