そして何かを思い出す
ディルクによる獣人的指導により多少馬鹿共が沈静化したとはいえ、継続的に馬鹿を締める必要があるとディルクは語った。
「とはいえ、俺達も新婚旅行中だから……ジェラルディンさんにお願いしよう」
「え、あのおっさん役立つの?」
能天気代表の迷惑なおっさんが頭に浮かぶ。
「特に銀狼族は番至上主義だからね。それに、彼は種族を問わず獣人の英雄なんだよ。この現状を告げたら間違いなく引き受けてくれる。ルーミアさんにもお願いしたらいいんじゃないかな。流石に彼だけでは心配だから」
「ん〜……」
そんなわけでジェラルディンさんとルーミアさんにご相談してみた。
「許せんな!任せろ主!」
「私も昔、花街で働いていたことがあります。ロザリンドちゃんのお役に立てるかと」
「花街?!」
「経理や雑務の仕事ですからお客は取ってませんよ。誰かさんがちっとも帰ってこなくて経済的に困窮してたんです」
ルーミアの笑顔から圧を感じる。ルーミアさんは現在、私との契約でローゼンベルク邸で仕事をしている。ぶっちゃけジェンドが冒険者として自立したので彼女が私との契約を守り続ける必要はない。しかし律儀な彼女はきっちり働いてくれているのである。
「くぅ〜ん……」
そして叱られた残念な英雄は悲しげな声で鳴く。耳も尻尾もぺたんこである。
「ロザリンドちゃん、甘やかしたらダメ」
「きゅ〜ん………く〜ん……」
なぜだ……雨の中悲しげに鳴く子犬の幻覚が見える……!
「あなた。今はもう働いていないのだからいいじゃない。あなたが自分なりの最善をつくしていたことは私にもわかっているわ」
「ルーミアに言い寄る雄はいなかったのか?」
「いても相手にしなければ同じことです。私の夫は1人だけですから」
ルーミアさんはそう言って微笑む。う〜ん、かっこいい。私もこんな大人の女性になりたいな。
「ロザリンドちゃん、護衛にマーサをお願いできるかしら」
「大丈夫と思います」
通信魔具でお願いしたところ、即決だった。
「お嬢様の命とあらば、このマーサ……いかなる仕事でも完遂いたします!!」
そして大変やる気だった。
「うん、ありがとう……でも産後まだ経ってないしあまり無理は」
「お嬢様から頼られるなんて……!今すぐ参ります!!」
お子さんはどうするつもりなのかと思ったが、乳母が見てくれるらしい。こういうとき、こっちの世界のほうが進んでるなぁと思う。
「さぁさぁお嬢様!いえ奥様!マーサが参りましたよ!!」
「ありがとう、マーサ」
そんなわけでかくかくしかじか鹿肉うまい
「つまり……殲滅すればよろしいですか?!」
「違う違う違う違うノーデストロイ!ノースプラッタ!ラブアンドピース!!マーサ以上に能力的にも性格的にも頼れる大人がいなくてお願いしたいんですよ!ルーミアさんの護衛!!」
「…………承知しました。このマーサ、おじょ……奥様の指名依頼を完遂いたします」
何故こんなにマーサはやる気なのか。子供と家にいるのってしんどいっていうけど………そのせい??
「助かるわ。マーサなら適任だもの。うちの旦那様と一緒にビシバシしごいてちょうだい」
「お任せください。マーニャも呼びましょう。あれは拷問に長けておりますから」
「拷問?!」
「不殺が得意でございますので」
何故だろう、流血沙汰の予感しかしない。
「今後のスケジュールもあるし、ルーミアさんもいるから大丈夫だよ。ロザリンドだってマーサさんより信頼できる人は居ないでしょ?ちゃんとロザリンドの方針を理解してくれるよ」
「ええ!お嬢様!このマーサにおまかせを!!」
結局マーサにとって私はいつまでもお嬢様なのかもなぁ。それに、ルーミアさんがいれば、大丈夫だよね……?ね??
「ロザリンドちゃん、大丈夫………この国のバカ……男性達を年単位でキッチリ調きょ………教育してあげるわ」
うん、不穏なワードがチラついたのは気になるけど頼もしいや。
「よろしくお願いします」
こうして、私は頼りになる大人達にバーディアを丸投げすることに成功したのだった。
ディルクと辻馬車に揺られながら次の目的地へ向かう。
「いやあ、よかった。これで冒険者組合からの苦情が減るかな」
「え?」
「実はね、ジェラルディンさんがホーム周辺の魔物を乱獲していて」
「乱獲」
「大物を獲りに行くには遠方に行かないと行けないけど、小物をたくさん取れば同じ稼ぎだしルーミアさんのそばにいる時間も長くなると思ったんだろうね」
その結果は言われなくてもわかる。近隣の冒険者が困ったのだろう。それに、下手したら魔物が絶滅……なんて可能性もありそう。
「お、おう……」
「つがいにいい暮らしをさせたい気持ちもわかるからどうしたものかと思ったけど……この仕事は長くかかるし何より最愛のつがいと働ける。それにそもそもこれ以上ないぐらい適任だと思わない?」
「確かに……」
獣人のリーダーとして長らく君臨したジェラルディンさん。花街で相談役もしていたためケアの参加もでき、あの旦那を制御していたルーミアさん。荒くれ者の扱いに慣れたマーサ。
そして、輝くアルディン様………。
「………アルディン様に報告するの忘れた……」
「あ」
2人で顔を見合わせ、爆笑してしまった。ごめ〜んアルディン様!!おみやげ買ってくるから許して!!
これにて鳥頭編は終了なのです。
本業でバタバタしてましたが元気です(・ิω・ิ)




