諦めないならしかたなし
こんにちは、なんとかディルク魔王化を阻止するブリブリンドです。ええ、夫のためなら私のプライドなんて二の次。ゴミ箱にポイですよ。キモいと思いながらディルクに全力で媚びてブリブリしてますのことよ。
「ロザリンドかわいい……」
ディルクさんはそんなキモ嫁でもいいそうです。天使かな?
「ロザリンド嬢がディルク殿を愛しているのは理解した」
そうか、ようやく残念な鳥頭にも私の愛が伝わったか。このうざすぎるほどの愛が!!
「ええ!そうでしょうとも!!」
「だが、俺はまだ第二夫の座を諦めていない!!」
伝わっても駄目みたい。かといって今回は外交問題に発展するので安易に物理で捻じ伏せられない。どうしたものかな。アルフィージ様の毛髪と引き換えなら、物理もありなのよね。毛生え薬作ってあげるから、もういっそ物理にすべきか……?いや、せっかくだし根源からへし折るか。
「では、わたくしにバーディアが、貴方がいかに素晴らしいか見せてくださる?」
「ロザリンド?!」
目線で大丈夫、と伝える。こうなれば、全てへし折ってやる。今どうにか鳥頭を撒いてもまた現れる可能性が高い。ここでケリをつけてやる。
「もちろんだ!」
こちらが受け入れたと見せかけてボコボコにしてくれるわ!
「ロザリンド、悪い顔になってるよ」
「てへ」
いかんいかん、表情が出ていたらしい。
そして通された豪奢な部屋。
おちつかねぇわ。
「何か足りないものはございますか?宝石でもなんでもお申しつけください」
「ディルク」
「………はい?」
「ここに一緒に来た夫が足りません。あと、あんまり豪奢な部屋も嫌です。宝石は興味無いです。ほしければ自分で買いますし、これでもそれなりの資産がありますのよ。いいからわたくしのディルクを連れてきなさい!あと、部屋も変えて!気に入らないわ!!こんなギラギラした部屋で落ち着けるわけがないでしょう!それと服!こんなにゴテゴテ宝石がついた服は悪趣味ですし重たいですわ!!もっと上品な服はありませんの!?わたくしの趣味ではありませんわ!!わたくしの服はディルクが選びますのよ!ディルクを連れてきなさいと言っているでしょうが!!」
いわゆる貴賓室なんだろうけどさぁ?ギラギラしたおそらく宝石でできたシャンデリアとか、美術館に置くべきな超絶高価な骨董品やら家具。破壊したらと思うと恐ろしい。こんな部屋にはいたくない。
服も高級品なのだろうが、宝石が重たいしゴテゴテしすぎて下品にも見える。趣味じゃないわ。鳥だからやっぱこうキラキラしたものが好きなのかしらん。
相当ゴネにゴネてキレにキレ続けた結果、ディルクと同室になることに成功した。そもそも新婚旅行なので、ディルクと離れるという選択肢はないのです。
「助かったよ、ロザリンド」
「え?」
よく見たらディルクはこの短時間でだいぶげっそりしていたり
「多分その……ロザリンドを諦めさせようと思ったんじゃないかな」
「ん?」
「綺麗な顔の鳥獣人に囲まれててちょっとだいぶ怖かった……」
「何それkwsk」
かくかくしかじか角煮はうまし。
「へええええええ」
「ロザリンド顔が怖」
「え?」
「ごめん気のせい」
バーディアは女性が少ない。それゆえ、バーディアの美少年による誘惑があったようだ。凛花がリアルBLやっふーとか喜びそうなネタであることはさておき、気に入らない。滅ぼしたろか、こんな国。
「ねえ、貴方はどう思いまして?」
私の監視役でもあるだろう鳥獣人のお兄さんに話しかけた。さっきキレてそこそこ暴れたせいか、先程までのイケメンからかなりいかつくてゴツい男性にチェンジされている。
まあ、だからといって私を止められるわけないのだがな。いかつくてゴツいお兄さんは首を傾げつつ逆に質問してきた。
「どう、とは?」
「楽しく新婚旅行していた新婚夫婦を拉致した挙げ句、旦那に美少年をけしかけるようなクソ男について」
「……クソ」
「嫌だわ、本音が出てしまいましたわ」
もはや悪意を隠す気にもならない。クソはクソです。
「……あくまで、これは私見。個人的な見解です」
「ええ、ぜひ聞かせて。バーディアで一般的なのかも含めてよ」
「バーディアにおいては、夫の同伴を認めるのは大変稀有なケースです。個人的な見解としては……控えめに申し上げてクソですね」
表情一つ変えずに淡々とそう言い放った。
「差し支え無ければ、その見解に至った理由を聞いても?」
「私の母は望まぬのに連れ去られました。母には祖国に愛する伴侶も子供もいたそうです。私を実子とは認められず、最終的には自死いたしました。私も父も罪人です。この国は、罪人の国です」
「おおう……」
想定以上に重い。そして、これだけは言っておきたい。
「貴方は別に悪くないでしょう」
「え……?」
「悪いのは貴方の父。貴方はただ、真っ当な感性の持ち主であるだけですわ。貴方が何かを望んでお母様を傷つけたわけではないでしょう。どちらかというと、貴方のお母様もお母様だわ。確かに拐われた被害者ではあるでしょう。それでも、生まれてきた子にはなんの罪もありません」
真っ当過ぎる彼は、この国の被害者なのだろう。
「………グスッ」
ロザリンド=バートン(人妻)は、いかつくてゴツい成人男性を泣かせました。
「!?え、ちょ!ごめんなさい!!」
え?なんか悪いこと言った!?ディルクにヘルプを求めたら、とても優しい瞳で微笑まれた。え!??どういうこと!?
撫でるわけにもいかず、暫くの間静かに泣くお兄さん、アワアワする私、微笑むディルクというわけのわからないカオス空間が続くのだった。
ディルクは、うちの嫁は本当に人たらしだなぁ……と微笑んでいます。
花粉の薬により眠気と戦っています。




