何故こうも予定外が続くのか
セインティアを出発した私とディルク。陸路で目指すは学者の国と名高いメガネデス。眼鏡ですではない。メガネデス。微妙この上ないネーミングが眼鏡神のせいなのか、こと姉ちゃんのせいなのかは今のところ不明である。
そんな我々は馬車でガタゴトされていたわけなのだが、今現在包囲されてるなう。え?山賊なら倒せばいいって??山賊ならそれでいいのだが、残念ながら敵は山賊とかではない。
「久しいな、我が花嫁」
「わたくしはディルク=バートン様の妻でクリスティアでは重婚できませんの。事実無根かつ周囲に誤解させるような発言は控えていただけますかしら?この鳥頭が」
おっといかん。頭に血がのぼりすぎててサラッと本音がポロリしてしまった。誰が誰の嫁だって?私はディルクの嫁だっつーの。
ど派手な鳥に迷いなく告げた。結婚式以来大人しくしていたと思ったらこのタイミングで襲撃をかけてきやがった。
たしーん。たしーん。
ほらほら。ディルク様も不機嫌じゃないか!尻尾で馬車にヒビが……。もはや不機嫌というか攻撃手段なのでは……?しかしあの鳥頭、二人きりの旅行を邪魔したあげくにつがいの本能を刺激するなんて、自殺志願者なの!?
「ふふ……心配するな、我が花嫁よ!バーディアならば重婚可能だ!」
話が通じませんね!!!
クリスティアでは重婚不可なんて、ていのいい断り文句だっつーの!そもそも重婚なんて可能でもしたくないっつーの!
「申し訳ないのですが、わたくしは今の夫以外の方と婚姻するつもりなんてありませんの。だって、心から夫を愛していて、全力で愛でるのに忙しいのですもの。他の男なんて目に入りませんわ。わたくしの夫は世界一!そう、世界一素敵なのですもの!!」
そもそも、バーディアが重婚可能なのは女性がほぼ生まれないため、嫁を攫ってくるしかないからだ。希少な女性なので共有し、少しでも出産確率を上げるために複数の夫をあてがい重婚させるわけだ。
おまけに、根城が浮遊しているだけでなく移動もするので救助するのはほぼ不可能。飛んで行けはするが、侵入者がどうなるかなんて目に見えている。数の暴力に負ける。あ、でも飛空艇とかヴァルキリーならいけるかもしれない。鳥獣人ばっかりの国だから、夜は鳥目で見えないし……まあ侵入だけなら難しくない。こっそり素材取りに侵入したことはある。
それはさておき、あの浮遊島にある薬草や鉱物は希少品のオンパレード。ゆえにバーディアは超迷惑で好き放題しまくるわりに無視できないウルトラ面倒くさい国なのである。揉めると外交担当様が禿げるに違いない。
なので、私は全力で夫にメロメロだと訴えることにした。実際問題、ディルクを愛でるのに忙しいから他の男なんていらんのです。
「ろ、ロザリンド!?それは言い過ぎじゃない!?」
「いえいえ旦那様!その素敵な琥珀の瞳、しっとりさらさらの黒い毛並みは魔性の魅力を放ち、わたくしを捕えて離さない……!さらには柔軟な感性によりわたくしがしたいことを後押ししてくださいますのよ?考えられます?比較的保守派が多いクリスティアで、女性の事業を応援してくれる夫!!」「いやそんな大層なことしてない……」
「この控えめな態度!!でもでもぉ!ものすごく戦いの場では頼りになって『ロザリンド、下がってて(イケボ)』とか言ってくれちゃうんですのよ!きゃー!キャー!!ああんもう、ディルクったら最高!!」
あ、やべ。いかにディルクが素敵かを熱く語りすぎたようだ。周囲がドン引きしておる……。ちょっとエキサイトしすぎたね。ディルクは真っ赤になってる。かわゆす。さりげなく尻尾を揉んだらペシッとされた。ご褒美ですね。ありがとうございます。おかわりはよろしいですか?あ、だめ?残念。
「そ、そんなに夫を愛していると?」
「はい(即答)」
ノータイムで返答しました。ラブラブなんです。邪魔すんな。私は今、素敵な尻尾捕獲に忙しいのです。
「と、とにかくロザリンドは正式に婚姻した私の妻です。たとえ他国の王族であろうとも覆すことはできませんし、彼女を攫うと言うなら……」
ディルクから殺気が噴出している。いやこれやばい。気の弱い人なら失神するレベル。ガチの殺気って皮膚がピリピリする。
「潰します」
なぜだろう、私の夫、ラスボス感が凄まじい件。潰しちゃうのかー。セインティアに続き、バーディア滅亡の危機ですね?わかります。
「いやーん、旦那様素敵☆」
このままではマイダーリンが暗黒化待ったナシ!!あえて空気を読まず道化になりましょうとも!!マイダーリン魔王化阻止計画ですよ!!
どこかの眼鏡女子みたいなことを言いつつ、続きます。
新婚旅行なのに予定外の道行きばかり。それがロザリンドクオリティです。
大変空きましたが、ここんとこ本業が忙しくサボっていて申し訳ないです。




