ようやく観光できます……よね?
とりあえずセインティア滅亡を阻止した私達……というか、主に私と月が頑張った。変な夢を延々と見せ続けるのは、我々のメンタルもゴリゴリ削ったんだよ……!
そんなわけでSAN値が低値になった私はディルクに連れられセインティア観光を再開したのである。
歴史ある博物館や美術館は変なものが置いていないので普通に楽しめた。しいて言うならついついあれっていくらくらいかなとか思っちゃうぐらいで。
普通にほしいなと思うような美術品もあった。最初から、そういうところを選べばよかったんだなとちょっと後悔した。逆にディルクはあまり楽しくないらしく眠たそうだ。
「ディルク、別のところに行こうか」
「え!?いや、ロザリンドは楽しいんでしょ?俺なら気にしないで!楽しそうなロザリンドのそばにいるだけで楽しめるし、今あくびしてたのは気が抜けてただけだし!」
「いいの。ディルクと楽しめるところに行きたい」
「ロザリンド……」
まあ、こういうのはポッチとか兄とか、興味がある人と行くか一人で行くかだよ。ミス・バタフライあたりとだと、お金の話になっちゃうけどまあ、それはそれで楽しみ方ってことで。
そんなわけで、地元民おすすめのデートスポットである礼拝堂に来てみたわけだが……。
「んん?」
「古いけど綺麗な礼拝堂だね。どうしたの?ロザリンド」
「いや、この像……見たことない」
セインティアに来てインパクトある像だけでなく、色々なパターンの神像を見ていたが、これは明らかに4柱の神とは違うものだ。多分だけど、ラヴィでもない。
「え?そうなの?まあ、筋肉でもメガネでもひょろくも女神でもないけど……」
「ぶふっ!!」
ちょ、ディルクの覚え方!!そうかー、シヴァはヒョロいのか(笑)
「え?何??」
ディルクにしてみれば、なぜ私が笑ったのかわからないらしい。
「いや、神様の覚え方が面白すぎて……」
今度夢に来たら全力でいじってやろう。彼方さんにも教えておこう。我々悪ノリタッグにかかれば神様だっていじりまくれる!
「なるほどね?いやその……実を言うと獣人って匂いで覚えることが多いから、顔とかはあんまり……。個人差はあると思うし、流石に仲良くしてる人の顔は覚えていると思うけどね」
「そうなんだ?」
ここに来て新たな種族ギャップ……いや、人間でも顔と名前を覚えるのが苦手な人もいるから純粋な個人差なのではないだろうか。ケドまあ、獣人はアバウトな人が多いから、人間より顔を重視しないのかもね。
思考を切り替えて、謎の神像をもう一度観察してみる。
「あれ?ここに文字……かな?」
「ほんとだ。なになに?」
ええと……あれ?これ日本語じゃないか……?とはいえ、だいぶ昔のものらしく、ほとんど擦り切れていて読めない。かろうじて読めるのは……。
『時の□れ□□□し□の名をここに□む』
その下は風化して擦り切れているというより、何者かが削り取ったように見える。罰当たりなやつがいたものだ。時□□れに……時の流れに?□□□し……はわからん。□の名をは、これ神像だろうから、神の名を……かな?□むは刻む??
その下は多分名前だったのだろう。
ぱっと見朽ちているように見えるが、この礼拝堂は誰かが丁寧に掃除して手入れしているようだ。光に透けるステンドグラスも美しく、まるで時が止まったかのような……。
「おや、珍しい。旅の方ですかな?」
「はい、新婚旅行で」
油断していたとはいえ、気配に気が付かなかったので驚いた。話しかけてきたのは司祭服を着たおじいさん。
「おやおや、そうでしたか」
なんでだろう。なんだか……この人、嫌だ。
「ディルク、行こう。どうも、急いでいるので失礼します」
「ロザリンド?わかった、行こうか。失礼します」
「ロザリンド、どうしたの?」
「ごめん、よくわからない。なんだかとても嫌な感じがしたんだよね」
この時、もっと自分の勘を信じればよかったと後悔するのだがこのときの私はまだ知らない。
「ふうん……確かに変な人だったね。気配が薄かった。関わらないほうがいいかも」
「予定通り次の国へ行こうか」
互いに感じていた違和感に気が付かなかったふりをして、私達はセインティアを去ったのだった。




