セインティア滅亡の予感
ディルクが私を置いて旅に出てしまった。新婚旅行でまさかの旅先でオンリーロンリーロザリンドである。いやいやいや!鬼神の如き形相で走り去った夫を全速力で追わねばなるまいて!
「ディルクストップ!ストップううう!」
必死で呼びかけるが、ディルクはまったく止まりません。えええええ、ポッポちゃんたら、ナニを囁いたんだようおうおう。これは普通に呼ぶだけでは駄目ということだ。ええと、うーんと……あ!これならどうだ!!
「ええと、新婚旅行で私以外を優先したら駄目だと思います!!これはあれです、成田離婚案件!!」
なんだかんだで私の声は聞こえていたらしく、走りながら叫んだらディルクが止まった。走りながら叫ぶのは地味にきつい。呼吸を整えようとしたらタックルされた。
「ろ、ロザリンド」
ん?なぜそんなに悲壮な顔なの??
「え?はい」
「り、離婚するの……?」
「しません」
なるほど、そのワードに反応したわけね。いや、走りながら叫んでたからそんなに深くは考えていませんでしたよ。そもそも成田はこっちに存在しないし。
「よ、よかった……」
想像以上のダメージをディルクに与えたようである。すまぬ……しかし、あの勢いで突っ走るディルクには不安しかない。何が何でもいったん止まってもらわなければいけなかった。
「ディルク、今回の件は神様達に任せましょう。セインティアは神様に仕える国です。私達が動くより効果的でしょう。責任持ってなんとかしてくれますよね?ポッポちゃん」
「くるっぽー。ハイヨロコンデー」
「というか、裏土産ってなんだったわけ?」
「ロザリンドは知らなくていい!ダメ!ロザリンドが他の人と恋人になってあんなことやそんなこととか!過激な衣装の抱きまくらとか!」
ハイハイ、把握ー。だいたいどんなもんか把握しましたよ。つうか、聖職者の国でその土産……だから『裏』なわけね。ハイハイハイハイわかりましたよっと。
「そもそも、裏土産は神殿が取り締まっているご禁制のものなんですよね」
あ、やっぱり国は非公認か。そりゃそうでしょうね。いかがわしすぎる土産だもの。
「ポッポちゃんだけじゃ甘いね。父と兄にチクりましょ」
外交問題待ったなし案件にしてやろう。国際手配だぞ、バカ者共め。大魔神父と兄の恐ろしさを見るがよい。どんだけ仕事を抱えていても、ぶっ潰してくれるに違いないよ。アルフィージ様(外交担当)には後で謝ろう。
遠い祖国の友人に合掌した。
いやまあ、転移すれば一瞬なんだけどね。ついてだからウルファネアからもつついてもらっとこうかな。貸しまくってるわけだし、たまには私のために働いていただこう。
そんな軽い気持ちだったんです。
軽い気持ちで父と兄にお願いしました。そういえば父母はリフレッシュ休暇中だったからやっぱり今のナシと言おうとした。
「任せておけ」
「ええ。お母さんも本気出しちゃうぞー」
父は多分怒っていたが、母の方がヤバい反応だった。
母、目が笑ってない。こわい。
思わずディルクにしがみつくほど怖い。
「よ、よろしくお願いします……」
「ええ……草の根分けてでも最愛の娘を辱めた愚か者を探し出して、八つ裂きにしちゃうわ」
「ノンノンノン!ノー八つ裂き!平和的に投獄くらいで!ノースプラッタ!!」
「ロザリンドちゃん」
「はい」
「これは大問題なのよ?貴族の子女にとって、最悪の侮辱なの。ロザリンドちゃんはほら、だいぶこうアレだから平気だけど、普通のご令嬢だったら自死の危険もあることなの」
「思ったより深刻なのはわかりましたが、それでも流血沙汰はやめましょうよ……」
エロいアイテム作って処刑とか切ない。それから、だいぶこうアレってなんぞ。私だってやだなぁとは思ってますよ!?
「ロザリンドは優しいね。じゃあ、縦に二分割横三分割で我慢するよ」
「裂く回数を減らせって意味じゃないからね!?そもそも流血沙汰をやめろって話なんですよ!!」
なんでそんな仕方ないから妥協したみたいな言い方なのさ!
「ロザリンドちゃん、よく考えて。ディルクちゃんのそんなお土産が「ディルクの素敵な身体は私の物!許すまじ模倣犯!!」
一気に私の殺る気ゲージとテンションが上がりました。そんなわけで、身内の殺り過ぎ防止のためにも働かない決心を一時休眠させて犯人を捕獲することにしました。
大遅刻して申し訳ないです。
怠けの虫に取り憑かれた挙げ句コロナに感染しておりました。コロナマジヤバイです。
幸い今はそこそこ元気になりました。皆様もたいちょうにきをつけてくださーい。




