素敵な新婚旅行
公爵様おすすめというカップル(というかつがい)向けプランのお宿は、控えめに言っても最高だった。
富裕層向けだからもあるだろうけど、ムーディーなのだ。
「うわぁ……素敵……」
シンプルでありながら高級感がある部屋。これは万人受けするだろう。照明もあえて抑えてムーディーにするか明るくするかが選べるうえ、高層階で景観がよく、この世界では珍しい露天風呂!しかも温泉!24時間使い放題!
さらに、アメニティも充実。この世界でここまで日本並みのサービスできる宿ってそうない。そもそもこっちじゃ貴族の旅行ってお付きありきだもん。化粧水や石鹸は持参が当たり前なのだ。え?試して気に入れば下の売店で買える?商魂たくましいな!だが、気に入った!お土産に買っていこうじゃないか!!旅の醍醐味だよね!!
「お気に召しましたか?当宿の売りはこれだけではございません。当宿には、なんと男女混合で楽しめる温泉が多数ございます。こちらの温泉用服を着用していただき、共用エリアで遊べるのです」
「なんと!!」
「特別大規模混浴温泉!名付けて温泉の楽園略してユデン!!もちろん美肌効果の湯はもちろん、花の湯、回る温泉、温泉滑り台などなど!各種を取り揃えております!!カップル限定の湯もございますよ!カップルで来てよし、家族連れでも来たくなる!!我が宿自慢のお風呂でございますよおおおお!!」
「ディルク、行きたい!!」
「うんうん。行こうね」
そんなわけで、やってきましたユデン!!
「うわあ……」
すげえ。思ったよりもすげえ。これは風呂というか、お風呂のテーマパークだな……!!
「ふわ……すごいね!」
「お客様、獣人のお客様ー!獣人のお客様は抜け毛が多いので、恐れ入りますが入浴前にブラッシングとノミ検査のご協力をお願いいたしまーす!」
「「え」」
もちろんディルクは大丈夫でしたとも!猫獣人はお風呂嫌いも多いので、わりとノミがいるんだとか。ノミがいる場合は、まず薬草湯で駆除してからの入浴になるんだそうです。
「こんな素晴らしい毛並みは初めてだって言うから、妻が毎日毎晩ブラッシングとケアをしているって言ったらいい奥様ですねって言われちゃった……嬉しいなぁ」
「ディルク、好き!ディルクこそ最高の旦那様ですよ!!新婚旅行、今度こそ目一杯楽しもうね!!」
「そうだね!」
お風呂にはカップル向けとファミリー向け、上級者向けの3コースがあった。上級者とはなんぞ。案内のお姉さんに聞いてみた。
「カップル向けは、カップルでのスタンプラリーになります。途中お互いについてのクイズなんかもありまして、全制覇で粗品をお渡ししておりまーす。ファミリー向けは、やんちゃなお子さんでもご満足いただけるコースです。上級者向けは、プロの冒険者様達や、普通の温泉でご満足いただけない方向けでございます」
何故かピンポイントで、全裸で石鹸スケートをかます英雄という名の迷惑なおっさんが頭をよぎった。他所様に迷惑をかけてはいけない。ジェンドとか、迷惑をかけない良識ある冒険者に紹介しつつ、また来よう。今回は新婚旅行だからカップル向けにしたいなー。
「ちょっと上級者向けも気になるね」
「でも、今回はカップル向けがいいかな?せっかく二人きりなんだし」
「好きです」
「!?いきなり何!?」
「ディルクがスパダリすぎる……!!」
「すぱだり??」
私の旦那様は世界一いいいい!!!めっちゃ首をかしげるディルクにも悶つつ、カップル向けコースに行くことにした。
「うわぁ……」
薄暗い中にイルミネーション!これはいいというか、チラホラうふんあはんといちゃついてる人達もいる。
「綺麗だねぇ。ロザリンドはこういうの、好き?」
「うん!」
ディルクは興味がないようだが、私が楽しんでいるので一緒に見て回ってくれている。イルミネーションは光苔と光るキノコでできている。赤く光るキノコの近くにスタンプがあるらしい。順路に温泉があって歩くだけでも楽しい。
あ、人が集まってるから向こうかな?あっさりスタンプを見つけることができた。
「まず1つ目だね!」
「そうだね」
しかし、ぬらしてもにじまないインクと、ビニールのように水を弾く紙……他にも用途がありそうだなぁ。
「次のスタンプは……ラブラブ温泉滑り台を一緒に滑る?」
プールとかによくある二人乗りの小さめビーチボートに乗って長いスライダーを降りるアレだった。滑ると係の方にスタンプを押してもらえるらしい。
「ちょっ……だいぶ近いねこれ」
「ディルク、私が落ちないよう捕まえといて!」
さり気なくいちゃつけるとかサイコー!そして滑り出した。
「きゃーーーーーーーーー!!!」
ジェットコースターとスライダーは叫ぶのが礼儀じゃないかと思うの!!思ったより長いし速くてスリルがある………そして盛大に着水!!
「ぶはっ!」
「ロザリンド、大丈夫?」
いや、流石はスパダリディルク様。着水した瞬間私を抱き上げてボートから飛び降りましたよ。係の方が固まっているよ!
「す、素敵な旦那様ですね!クリアおめでとうございまーす!」
しかし、即座に復活してスタンプを押してくれた。
「そうなんですよぉ。ありがとうございます」
ディルクが褒められたのが嬉しくて、ついのろけてしまった。ディルクが何やら悶えている。事実ですが何か?
「ディルクディルク、スライダーもっかいやろ!今度は避けないで落ちよう!それも楽しいよ、きっと!!」
「そうなの?そうしようか」
二回目はわざと落ちました。濡れ髪をかきあげるディルクに、よだれが出そうになりました。控えめに申し上げて、最高です。
ようやく旅行を楽しめそうな感じになってきました。良かったね、ロザリンド……。




