安全って難しい
異世界初のハイジャック事件。これはもう、起こるべくして起きたとしか言いようがない。
「模倣するバカがいたらシャレにならないから黙っていましたが、実は凛の世界だと飛行機で立てこもり事件とかあったのですよ」
飛行機は移動できる密室だ。暗殺なんかにもってこいだろう。離陸時にシートベルトをしていれば動けないしね。
「………なるほど」
「凛の世界では、そのため機内に武器の持ち込みを禁止していました」
「なんでそれを言わなかった!?」
「正直、武器禁止は難しいでしょうし……これに対して私は製作のみの関わりでしたから。それも手伝いレベルの」
流石にその程度の関わりで意見はできない。一応エルンストには言ったのだが、雑談のついでだったしなぁ。それだけではなく、護衛に武器を持たせないのもリスクがあるだろう。降りたところを襲撃されたら、ひとたまりもない。
「申し訳ございません。ですので、害意や殺意あるものをはじく魔法陣で対策をしていたのですが……」
「恐らくですが、搭乗の際には無意識下にいたのでしょうね」
魔が表層に出ていなければ、陣は反応しないのだろう。つまり、催眠系には効果なしということだ。
「改善の余地ありということか……」
「まあ、アルフィージ様が居る時じゃなくてよかったわ」
どれだけ対策をしようとも、網の目をかいくぐるバカはいるわけで。ため息を吐くと、カーティスがにやりと笑った。
「俺がそんなヘマ、すると思うわけ?」
「納得」
仮に暗殺者がいたとしても、カーティス=ブラン……元ウルファネア最強の暗殺者に敵うわけがない。カーティスがいる時点で完全に詰みだ。
「頼もしい限りだが、皆が皆カーティスレベルの護衛付きではない。エルンスト、対策を考えて提出するように。飛空艇は我が国の一大事業。失敗は許されない」
「……かしこまりました」
とはいえ、あまり時間がない。それまでに新しい陣が作れるとは思えない。なんかいい案ないかなぁ。
「……あ」
とりあえず一つだけ思いついた。
「なにかあるか!?」
エルンストがめっちゃ期待した目でこっちを見ている。いや、そんなに名案というわけではないのよ?
「チャーター機、または専用機ってのはどうですかね?」
「ちゃーたー?」
「専用……」
チャーターって概念がなかったか。とりあえず説明することにした。
「カーティス、護衛する側の人間として聞くよ」
「おう」
「護衛時にたくさん人がいるのと、少人数ならどっちが護衛しやすい?」
「そりゃ、少ないほうだな」
何当たり前のこと聞いてるんだ?という表情のカーティス。アルフィージ様は理解したらしく、いい笑顔をしている。
「では、小型で貸し切りできる飛空艇を提案します。または、とても高価な防犯機能付きのハイクラスな飛空艇を売るのです」
「……それはいいな。むしろ、初号機は我が王家の所有とするのはどうだ?」
「………予算に制限がないなら、そりゃ……作れますよね!いいですね、ハイエンド!!」
エルンストに火がついたようだ。まあ、造り手としては予算気にせず造れるってご褒美よね。
「エルンスト、もっと本気で安全性については話しておくべきでした。お詫びも兼ねて私がスポンサーになりましょう!そして、二号機はウチが買います!欲しい素材があれば譲りますよ」
「マジか!よし、最高の飛空艇を作ってみせる!!」
そして、エルンストはどこかへ行ってしまった。
そして、残された私達は真面目な会話をするしかなかった。
「……そんなわけで、国賓なんかはチャーター機または自家用機。一般については武器の持ち込み禁止と今まで使ってた陣の使用でどうですか?」
「現実的な手段はそんなものだろうね。手配しておくよ。それにしても、魔法院の天才が本気で作る飛空艇、か。すごいことになりそうだね」
「…………なんとなく、ですが……こう……迎撃ミサイルとか、レーザービーム砲とか出てきそうな気がします」
「それの何が悪いんだ?」
てっきり父の天然かと思いきや、そもそも、ミサイルとレーザービーム砲が伝わらなかったらしい。
「高出力の広範囲無差別殲滅魔法を放つ飛空艇が生まれそうだなと」
「よし私が監修する」
アルフィージ様の決断は早かった。ラビーシャちゃんも頷く。
「それがよさそうですね。あ、それから内装とかも見てください。魔法院のセンスだと、アルフィージ様たちから見たら微妙かもしれません」
シンプルイズベスト的な内装を好む傾向にあるからね。高級品ならそれに見合った物でなくてはなるまい。
「私も監修するとしよう」
「ありがとうございます」
父が穏やかに微笑んだ。しかし、私はこの後、この人選が間違いであったと痛感する羽目になるのであった……。
大遅刻しました、お久しぶりです生きてます。
久々の更新となります!




