ユーフォリアの秘宝
歓迎会も終わり、お風呂から出た私は驚愕していた。
「こ、これは……!」
出されていた着替えを着用してまた驚愕する。
「こ、これは……!?」
そして、お風呂上がりのジュースを飲みながら侍女のお姉さんに聞いた。
「これ、売っていただけませんか!?」
「めぇ?もちろんですめぇ。我が国を救ってくださった姫勇者様でしたら、陛下もたくさんくれると思いますめぇ」
とても穏やかに返されたが、それじゃあダメだと思うの!この、素敵すぎるモフ心地タオルと下着と寝間着!!絶対売れる!私が買い占めたいぐらいにイイ!!
「確かにものすごーく着心地がいいね」
「我が国では普通の品なのですが……他国に羊獣人は少ないので、姫勇者様達には珍しいかもしれませんめぇ」
夜中に大騒ぎするわけにもいかず、翌朝ご飯を食べたら即真琴を呼んだ。
ちなみにミス・バタフライも召喚済みである。あまり負担をかけたく無かったが、素敵な布素材見つけちゃったと言ったら即座に来てくれた。ミス・バタフライの義息子である狐獣人のフーク君が代理で予定をこなしてくれるらしい。
「うちの義息子、ホントにイイ子なのよね。でも、アタシの事は気にせず、やりたいことをして欲しいのよね……」
「フーク君がやりたいのは、ミス・バタフライへの恩返しです。昔からそう言ってましたから、素直に受け取ったらいかがですか?そもそも彼が進学したのは、私がミス・バタフライの力になりたいなら知識を身に付けるといいですよって経営学に強い学校を勧めたからです」
ミス・バタフライの義息子であるフーク君。孤児だったがミス・バタフライに拾われ、息子として育てられた。彼はとてもしっかりした青年に育ち、私のよき友人でもある。夢は商人としての事業を継いで、ミス・バタフライがやりたい服飾の仕事をさせてあげること。
「はぁ……。あの子はそれで幸せなのかしら。アタシは跡取りが欲しくてあの子を育てたわけじゃないのに」
ミス・バタフライは商人として働くために昔はきちんと男性の格好をしていたのだが、無理がたたってカミングアウトしたらしい。そして、人が離れていき孤独感に苛まれていたときにフーク君に出会ったそうな。
「フーク君は、自分で望んで進路を決めたんです。応援してあげてくださいよ。働くうちにやりたいことを見つけるかもしれませんし、彼は非常に要領がいいので、孤児院の計算が得意な子を引き抜いたりしてますよ。変に心配するより、誉めてあげては?きっと喜びますよ」
フーク君は仕事を自分一人で抱え込まず、うまく人を使っている。正直、見習わなきゃと思うレベルなんだよね。ついつい私は自分で済ませちゃうからなぁ。
「………そうね。久しぶりにフークが好きな焼き肉でも作るわ!」
空気がほんわかしたところで、真琴が来た。
「待たせてごめ………ん?」
ミス・バタフライを見て固まる真琴。そう言えば、関わったことないっけか。
「彼女はミス・バタフライ。クリスティアの商人です」
「は、はぁ。真琴=野上=ユーフォリアです」
挙動不審になりつつもちゃんと挨拶する真琴。
「実は、お願いがありまして」
「はいはい。何かな?」
「これ売っていただけませんか?」
タオルと肌着を見せる。真琴が首をかしげた。
「有り余ってるぐらいだからおみやげにしたら?」
やはり『売る』ではなく『くれる』らしい。
「それはダメよ」
そこに、ミス・バタフライが商人としてダメ出しをした。ですよね。だから呼んだんだもん。
「はい?でも、余ってるものですよ?」
真琴によれば、ユーフォリアの羊獣人は春と秋に換毛期があり、毬のようにモフモフになってから毛が抜ける。さらに、魔力をこめれば伸ばし放題だから、ユーフォリアでは価値がないらしい。なので、交易品ですらない。
「マコトちゃん、これは、売れるのよ!ユーフォリアでは価値がないかもだけど、これは!本気で!売れるわよ!いいえ、アタシが売るわ!ユーフォリアの毛製品を、全世界に広めてみせる!!」
「えええ!?」
ミス・バタフライが燃えている。確実にこの毛製品は売れる。モフモフな肌ざわりはもちろん、魔力伝導率もバカ高い。私が買い占めたいぐらいだ。ユーフォリアの発展を考えたら悪手だからしないけど。
「真琴、他の国にはあまり羊獣人っていないんだよね。いても、毛を伸ばしたりはできない。自由自在に毛が伸ばせるのは冬が厳しいこの国ならではなのかな?」
「そうなの!?」
「間違いなく、ユーフォリアの主力商品になるよ。加工した方が高く売れるし、相場がわからないから彼女に来てもらったわけ。彼女はとても公正な取引をしてくれる信頼できる商人だし、加工についても助言してくれぐはっ」
「ああん!!嬉しいわ、お嬢様!!いえ、奥様ね!!」
立派な大胸筋で息ができません。助けを求めたら、ディルクが救助してくれました。筋肉で窒息死するところでした。そんな死因、嫌すぎる。
「げほっ、そんなわけでこの件について陛下とも話がしたいです」
「わかった。任せてくれ」
これでユーフォリアの問題はほぼ解決……あれ?私ここに何しに来たんだっけぇ??
ついつい働いちゃうロザリンドさんでした。
ミス・バタフライとフーク君はとても仲良し。ミス・バタフライをバカにする子供はフーク君に殴られます。
フーク君はツンデレなので、ミス・バタフライには常にツンツンしてますが、ロザリンドにはミス・バタフライへの感謝なんかを話しています。ロザリンドとは対等な協力者関係を築いており、ロザリンドの経営している孤児院の子供に商人としての実習をさせたり計算を教えたりしています。




