この嫁にしてこの旦那あり
妻や子供を守るため、戦わなきゃとついてきたが、早々に後悔していた。いや、無理。この数は無理でしょ。
木々の隙間をぬって、魔物の大群が押し寄せてくる。そんな絶望的な状況にあっても彼女はいつも通りだ。
「とりあえず、しばらく食い止めるよ!」
「こ、この人数で!?」
「問題ないない」
あくまでも軽い調子のロザリンドちゃんは、剣を手にして走り出した。その後をディルクさんが走る。
二人は…………………信じられないことにこの絶望的な状況下で笑っていた。
なんとなく、ロザリンドちゃんが強いのは理解していたけどこれほどまでとは思わなかった。いや、ロザリンドちゃんだけじゃなく旦那さんのディルクさんもだ。
すでに死体の山ができている。ロザリンドちゃんは剣と魔法で。ディルクさんは槍で……あれだ。ゲームの無双するアクションゲームみたい。美しささえ感じる、洗練された動きだった。持っている武器も体格も違うのに、対のようだった。
とにかく必死で撃ちまくるしかできない俺と違い、二人はあくまでも冷静だ。二人の強さに、魔物の勢いが弱まった。
「真琴、魔力切れに注意して。ヤバそうなら後ろに下がって。この中の魔力回復薬は好きに使っていいからね」
「ロザリンド、真琴さんは俺がフォローするから、存分に暴れておいで」
「はーい!」
さきほどまでとは比べ物にならないほど、大挙して押し寄せてくる魔物達。それを前にしても平然と、彼女は精霊達を呼び出し、指示を出した。
「皆、出番だよ!人命救助優先で、国を守って!大元は私が一掃するから!」
なんか、精霊の中にドラゴンがいたような?精霊達は頷くと散開していく。なんか、スゲーでかい魔物みたいなのもいたよ!?
「さて、皆が避難を完了したらド派手に行くよ!」
「いや、今までも充分派手だったよね!?」
「ロッザリンドォォ!!」
「ジムヘンスォォン!?」
ロザリンドちゃんの剣がロボになった!?知ってはいたが、生でこの状況でとなると呆然とする俺を庇い、ディルクさんが前に出てくれた。刃物に羽がついた魔物が突進してきたのだ。あっぶね!庇ってくんなかったら当たるとこだった。心臓が一気に早鐘を打つ。恐怖で冷や汗が止まらない。
「マコトさん、今回は俺がついているから問題ないけど、討伐の時に大声は狙われるからダメだよ」
ディルクさん、マジで優しいわ!ロザリンドちゃんが惚れるのわかるわ!マジかっこいい!!
「アニキって呼んでいいですか?」
「は!?にゃんで!?」
にゃんて。この人、無駄にカッコかわいいわ。とりあえず拝もう。俺の生死はディルクさんにかかっている。
「………いや、年上だし尊敬できるカッコいい同性だからっす」
「えええええ!?そ、そんなことないよ!と、とにかくやめて!ほら、敵来たよ!倒さないと!!」
確かに余裕こいてる場合ではないのできりかえてひたすら敵を撃つ。そんな時、ロザリンドちゃんが叫んだ。
「避難完了を確認!ディルク、殲滅のためにチャージするからフォローよろしく!!ヴァルキリー、アーチャーモード!!」
「ロッザリンドォォォ!!」
ロザリンドちゃんのロボが、さらにでかくなっていく。今余計なこと考える余裕なんてなかったが、シュールだよな。ファンタジーにメカって、違和感しかない。
「魔力充填……フルチャージ!!ブリザードアロー!!シュート!!」
「ロッザリンドォォォ!!」
巨大ロボから放たれた青銀の矢は、上空へ飛んだ。え?失敗??
「ブレイク!!」
ロザリンドちゃんが指を鳴らすと、青銀の矢は爆発して小さな矢になり、地面に降りそそぐ。そして、急激に気温が低下しだした。
「さっむ!!」
いきなり吹雪がおこったので、咄嗟に目を閉じた。なんとか目を開けると……そこには無数の氷像が並んでいた。周囲は凍りついており、動いているのは俺達だけ……いや、普通の動物とか虫とかは動いてる!
「さて、回収回収!」
ロザリンドちゃんは氷像を軽く溶かしてどんどん袋につめていく。ディルクさんもしていたので、慌てて俺も参加した。普通の人間サイズに縮んだロボは萌え系アンドロイドにかわり、お手伝いしている。なんかもう、頭がついていかないよ?
「ロザリンドちゃん、何したの?」
「え?さっきまでこの一帯の索敵してー、周囲の避難が完了したから凍らせた」
しれっと言うロザリンドちゃん。言葉で言うのは簡単だが、俺には無理。どんな頭をしてるんだ??
「……敵だけ選んで凍らせるとか無理ゲーじゃないかと思う」
「あー………まあ、天啓の未来予測と並列思考とヴァルキリーの演算能力がないと無理かなぁ」
「天啓のチート感もツッコみたいけど、ロボはマジでロボだったの!?作ったの!?ロザリンドちゃんはいつから御茶ノ湯博士になったの!?見た目だけそれっぽくしたファンタジー兵器じゃなかったの!?」
ロボに対して全力でツッコミをいれた。ロボは困った顔で笑っている。無駄に可愛い。
「私は元々戦乙女の指輪として作られ、主……ロザリンド様の強力な魔力と魂による焼き付け現象で自我を得ました。さらに主の婚約指輪により魔力を増し、神の力を得て付喪神となり、パソコンも取り込みました!」
「ナニそのチート」
ロボはメカではなかった。ファンタジーな生き物だった。しかし、聞くからにスペックやばい。
「……な、なりゆきで……」
「俺の銃も萌え系美少女になるの?」
「ならんわ!!!」
ちなみにディルクさんの武器は萌え系少年だった。羨ましいなと現実逃避したよ。
「なんか、静かだね」
「ほぼ殲滅したからねー。後はうちの子たちに任せて、ダンジョンコアを脅せば仕事終了かな」
「そうだね」
「………………へー」
あんな大群を一撃で殲滅しちゃうロザリンドちゃんもロザリンドちゃんだけど、それをしれっと受け止めちゃうディルクさんの器のデカさもおかしいと思った。




