それも安定のロザリンドです
ウルリア公爵視点になります
たまたま戻ってきた異常な令嬢達に出くわした。令嬢は変わりなかったが、一人の変化は凄まじかった。狩りとやらから戻ってきたマコト=ノガミ=ユーフォリアは、別人になっていたのだ。どこか怯えたような気配は消え失せ、自信に溢れている。
「こんにちは、ウルリア公爵」
「あ、ああ……」
この男が真っ直ぐに私を見たのはこれが初めてではなかろうか。戸惑っていると、顔面蒼白の兵士が駆け込んできた。
「こ……ゲホッ!す、スタンピードです!!!」
「すぐに迎えうつ準備を!!」
この城の近くには、一つダンジョンがある。私が怪我をする前は定期的に討伐していたが……ここ最近は騎士団に任せていた。
「あのー」
この一大事に、呑気なご令嬢は話しかけてきた。スタンピードを知らないのか!?私ではなく息を整えている兵士に語りかけている。
「え?」
「ですから、これは『普通の』スタンピードでしたか?こう……粘土細工の出来損ないみたいなやつはいませんでした?」
「は、はい……私が見た限りではいませんでした」
スタンピードに『普通じゃない』ものなどあるのか?異常な令嬢は頷くと、取り出した石を光らせた。これは……魔法!?窓の外に、巨大な結界が構築されていた。
「とりあえず、城と城下町全体をカバーする結界を張りました。これ、出られるけど入れないタイプなので注意してください。内部の人がこの呪文を唱えるか、内蔵魔力を使い切ると解除されます。まだ試作段階ですが、十分実用できると思われます。クリスタルドラゴン二十体が同時ブレスをかましても耐えるシロモノですから」
「………は?」
理解が追いつかない。呆けているうちに、異常な令嬢は私に石……ではなく魔具なのだろう……と紙切れを渡してきた。クリスタルドラゴンが二十??とんでもない結界じゃないか!?
「し、しかしこれに対する対価が……わが国では支払えない……」
どう贔屓目に見ても国宝級のシロモノだ。仮に試作の段階であっても、これはありえない。
「じゃあ、使用レポートお願いします」
「………は?」
「私の意見ばかりでは、偏りますからねー。使いにくい部分とかあればお願いします。あと……もふもふ接待してもらう予定なんで、それでチャラってことで」
「も、もふ??」
「ここ以外にもスタンピードの被害に合いそうな村とかはありますか?」
「いや……ここだけだろう。あるにはあるが、今までも被害が他に出た話は聞いていない」
地形の関係上とスタンピードの特性……一番近い人里に魔物がなだれ込むことから、以前にもスタンピードはあったが他の集落や村を襲ったことはない。そうならないために私が管理していたが、怪我のせいで他の者に任せていた。間引き忘れか、内部でなにか起きたか。どちらにせよ、今は原因究明よりも対処が先決だ。
「わかりました!じゃあ、スタンピードはなんとかします。倒しこぼしの処理をお願いしますね」
異常な令嬢は、ものすごく気軽にそう言った。いやいや、無理だろう!いくら強いとはいえ、スタンピードだぞ!??慌てて止めようとした私に、異常な令嬢の夫が話しかけてきた。
「私の妻はこう見えて、冒険者ギルドの新ランク保持者です。あのウルファネアの英雄をも超える逸材ですし、ウルファネアの大海嘯もほぼ一人でなんとかした子ですから問題ないです。私もいますしね」
「は??」
「いや、それはたまったま!まぐれ!偶然!!」
「はいはい。結界があるとはいえ緊急事態なんだから行くよー」
緊急事態……その言葉にハッとする。前人未到の新ランクやらはとても気になったが、今成すべきは聞き返すことではない。
「騎士団に伝令を!私も出る!!」
そうだ。国を守らねばならない。妻は……ああだが、それでも愛している。愛する者達を、守らねばならないのだ。異常な令嬢達は先に出撃したらしい。私は騎士団を率いて結界の外に出た。最悪、女子供を逃がす時間を稼がねば。あのヒコウセンなら、かなりの人数を運べるはずだ。
そして、結界から出た私達は唖然とした。
死体、死体死体死体死体死体死体死体死体。死体の山だ。スタンピードで溢れた魔物は、短時間で殲滅されてしまったらしい。
「血抜きめんどくせ!」
「そうだねぇ……ちょーっとぉ、多すぎるよねぇ」
「まあ、シヴェリハス辺りに寄付するとかロザリンドなら言うでしょ。血抜きも向こうでするよ……多分。とりあえず袋に詰めちゃお」
モグラの獣人とエルフと真珠色の精霊様が死体の山を作ったらしい。
「ご、ご助力感謝いたします」
「は?違うから。今、ロザリンドの頼みでやってるだけだから。間違ってもアンタらのためじゃない。僕らのロザリンドに嫌がらせをするバカがいる国なんて滅べばいいのに」
エルフの少年から悪意……いや、これはもはや殺意だろう。殺意に肌がビリビリした。
「まーまー、ロザリンドは気にしてないしいいじゃん!」
「そうだよぉ、ロザリンドちゃん、モフモフ接待が中止になったら泣いちゃうよぉ。そうならないためにもぉ、がんばらなきゃねぇ」
真珠色の精霊様とモグラ獣人がエルフの少年をなだめた。
「我々のためでないとしても、感謝はするべきだ。まともに戦えばどれほどの死傷者が出たかわからない。助力、感謝する」
そう、死者は戻らない。それが我々のためでないとしても感謝すべきだ。頭を下げた私に、エルフの少年が驚いた。
「感謝するならロザリンドにしてよね。僕らはロザリンドから、倒しこぼしがあんたらを傷つけないようにとか、たまたま森に運悪く来ちゃってた人がいたら保護してとかお願いされたから仕方なく手伝ってるんだよ」
「承知した」
私の言葉に満足したのか、エルフの少年は頷いた。国の危機を救ってくれたのだから、あの令嬢……ロザリンド様に感謝するのは至極当然だ。
「ロッザリンドォォ!!」
「派手にやってるねー、ロザリンド」
いや、派手というか……アレはなんだ??巨人が大暴れしているのが見えた。異常な令嬢は、巨人にもなれるらしい。気が遠くなったが、まだ気を抜ける状況ではないので根性で踏みとどまった。
ウルリア公爵は、ヴァルキリーがロザリンドと勘違いしたようです。スイは意地悪なので訂正してくれないでしょう。
ロボに変身する疑惑の悪役令嬢……本当にこのロザリンドさんはどこへ向かっているのでしょうか……?
あ、本人が風評被害だとかなんとか行ってますのでこのへんで(笑)




