それは安定のロザリンドです
引き続き公爵視点になります
審査員が満点をつけ、バトル・カウ勝負は娘の圧勝に終わった。勝者である娘に望みを聞いたところ、娘は意外な物を欲しがった。
「この牛さんをください!!」
「…………………………まあ、かまわんが」
娘により闘争心をバッキバキに折られた魔物は、もうバトル・カウには使えないだろう。食用にするぐらいしか用途がない。
「ありがとうございます。遠慮なくいただきますね。真琴ー、テイムして!」
「え?」
怯えながら魔物に近寄るマコト=ノガミ=ユーフォリア。お前はまともだ。あの娘はおかしい。魔物が威嚇しようとした瞬間、娘が魔物を殴った。魔物はあわれな声を出し、マコト=ノガミ=ユーフォリアにテイムされた。
「じゃあ、狩りに行こうか」
「は?」
この娘は、何を言っているのだ??まるで買い物に誘うかのような自然体で、娘は頭がおかしいとしか思えない発言をした。マコト=ノガミ=ユーフォリア。お前はまともだ。娘がおかしい。
「上位種の方がおいしいよ!手伝うから、狩りに行こう!」
「え?」
「ディルク、競争しよう!どっちがたくさん捕まえられるか!」
娘は無邪気に笑う。存在感が無かった娘の夫は、苦笑しながら頷いた。こいつも非常識人だ。
「そうだね。でもちゃんとロザリンド対俺にしてよ?精霊さんと魔獣はなし」
「うっ………ま、まぁいいでしょう。勝負です!」
「え………ええええ……」
そして、マコト=ノガミ=ユーフォリアは非常識人夫婦に連れ去られた。顛末が気になったので影をつけたが見事にまかれた。非常識人夫婦め!!仕方がないから影には城に来るルートを見張らせていたが、いらなかった。
金属でできた巨人が走り回っている。非常識人夫婦どちらかだろう。私はようやく理解した。クリスティアは、ユーフォリアへ完全降伏しろと言っているのだ。
※残念ながら違います。
つまり、クリスティアにはあんな娘がゴロゴロいるというのか!?なんと恐ろしい……。
※残念ながら違います。ロザリンドさんが特殊なだけです。
私はため息をつき、現実逃避をかねて仕事を始めた。そういえば、あの主はどうなっただろうかと思い出す。若い頃は皆を守るために駆け回った。どうしても倒せず……弱者として私を殺さなかった魔物の主。強く、賢かった。あれに会わなければ、私は今でも走り回っていただろうか。足の古傷が軋んだ気がした。
あれに会ったおかげで、私は自分の身の程を知った。足は、高い勉強料だ。命が助かっただけ、ありがたい。何度も何度もそう考えて、仕事に集中した。
城門から叫び声がここまで響いていた。悲鳴の先には、どでかい猪の魔物を担ぐ金属でできた巨人。そして、たくさんの猪、ミノタウロスと…………大量のコカトリス!??そりゃ、悲鳴があがるわ!!!
武装して城門へと駆けつける。足が痛むが、仕方ない。クリスティアは、内部から我が国を破壊するつもりか!??あの娘、工作員だったのか!!
※あくまで『普通』の侯爵夫人です。
「何をしている!??」
「あ、お騒がせしてすいません。ちゃんと全部テイムしたんですが、驚かせてしまったようで」
決死の覚悟であったが、娘はあくまでも軽く、世間話をしているかのようだ。娘によれば、魔物は上位であるほどに美味。とはいえ、気候が合わねばせっかくテイムしても繁殖が難しいかもしれない。だから、この辺りで強そうな魔物を狩ってきたそうだ。
「ほんげええええええええ!??」
私が変な悲鳴をあげたのも、仕方ないと思う。かつての圧倒的強者が、産まれたての子羊みたいにガクガクブルブルしていたのだから。 金属でできた巨人が担いでいるのは、かつて私が仲間達と死力を尽くしても倒せなかった主だ。いまや、かつての面影などなく巨人の肩で震えている。うおおおい!??
「え?どうしました?」
「どうしたもこうしたも、あるかああああああああ!!そいつ、この森の主だろ!なんで簡単に捕獲しとるんじゃああああああ!!」
「…………確かに、一番強かったけど………相手が悪かったね」
森の主は頷いた。もはや、その瞳は絶望しきっていて痛々しい。目の前にいる娘は、もはや人型兵器なのではあるまいか。
※あくまで自称『普通』の侯爵夫人です。
「あれ?意思疎通できるタイプ?」
「ぶも」
森の主は頷いた。
「…………リリースする?流石に意思疎通できる魔物は食べにくいなぁ」
娘はマコト=ノガミ=ユーフォリアに話しかけた。こっちも何があったか知らないが、遠い目をしている。
「なら、食用じゃなく護衛になってもらおう。たまに狼とかも襲いに来るし。寝床と世話は保証する。どうだ」
「………ぶも」
主は頷き、マコト=ノガミ=ユーフォリアについていった。私は、ただ去り行く彼らを見送るしかなかった。しかし、これもまだ、序の口なのであった。




