とある青年とその周囲
第三者視点になります。
その日、シヴェリハス国は大騒ぎだった。上空にドラゴンの大群が現れたからだ。
隣国からの度重なる襲撃で疲弊した国が、こんな大災害に耐えられるはずもなく…人々は絶望した。本来ならば住人を守るべきはずの騎士達も来ない。住民達は死を覚悟した。
しかし、ドラゴン達は広場に舞い降りるだけで暴れない。住民達は怯えながらもドラゴン達を観察した。すると、ドラゴン達に混ざって鉄の…鳥のようなものがいた。そこから現れた青年に、住民達は驚いた。
凛々しく、逞しい青年は、現国王に瓜二つだったからだ。
「おにいちゃん」
「ん?」
「ポーラ!?」
怖いもの知らずな子供がドラゴンを従えた青年に話しかけてしまった。子供の母親は気絶しそうになりながらも、いざとなれば子供を守ろうと身構える。
「なぁに?」
しかし強面な青年は穏やかに子供に目線を合わせようと屈んで話しかけた。
「おにいちゃん、ドラゴンのお友だち?」
「ああ、うん。僕のお姉ちゃんの方が仲良しだけど、ドラゴンのお友だちはいるよ」
「そうなの?どうやったらなかよくなれる?」
「…餌づ…じゃなく、お菓子をあげたら仲良くなれるよ。ただ、ドラゴンにも色々いるからむやみに仲良くなろうとしないようにね。これ、僕のお姉ちゃんが作ったお菓子だよ。ドラゴンさんとはんぶんこしてごらん」
「うん!」
ドラゴンにお菓子をあげた子供を見て、他の子供達も出てきた。
「ぼっちゃま、城に向かいませんと」
話しかけた犬獣人は、有名人だった。
「バーナード将軍!?」
「皆のもの、道をあけよ!このお方は現王の御子、ポートフォリオ殿下である!」
「殿下!?」
住民達がざわめく。消えた王子さま。それが、この優しい青年?
現王は賢君だ。しかし、次代になる予定である王弟の子供達には不安しかない。権力を使って、町で好き放題しているのだ。今だってドラゴンが来ても平民を見捨てたのか騎士も来ない。
それに比べ、この優しげな青年ならばどうか。それも、あの賢君たる現王の実の子だ。
「ポートフォリオ殿下、万歳!」
住人の声がひとつ、またひとつ増え、ついには大歓声となり、ポートフォリオ殿下をお通しするため住人が道を開ける。
ポートフォリオ殿下は穏やかに微笑みながら、巨大な台車にのって堂々とドラゴンを伴い王城へ向かった。その姿は王たる威厳と自信に満ち溢れ、堂々としていた。
皆、ポートフォリオ殿下の帰還を喜び、力の限り叫んだ。
『ポートフォリオ殿下、万歳!』
傍らには女神のような麗しい女性。どこかで見たような気がするが、あんなに美しい女性を見たら忘れることはないだろう。住人達は気のせいだろうと判断した。女神のごとく美しい女性は艶やかに微笑みながら手を振った。
住民達は王城への道を開け、さながらパレードのようだった。
そして、一行は王城へ入っていった。
一方その頃、城はもはやパニックだった。唯一冷静だった王はため息を吐いた。
度重なる隣国からの襲撃で国が疲弊しボロボロになってしまったのに、今度はドラゴンの襲撃だ。ため息どころか叫びたいぐらいだ。だが、何らかの対策を考えねばなるまい。城下を火の海にするわけにもいかない。どれほどの犠牲が出るかわからない。最悪王都を放棄して住民を逃がさねばなるまい。
しかし、何故誰も状況報告をしてこないのだ。まさか偵察も出してないとか言わないよな!?職務怠慢もいいとこじゃないのか?
王は痛む頭を撫でた。
「た、大変です!ご子息を名乗る青年がドラゴンを引き連れて城に…!」
なんでそうなった。
国王は、もういっそ病気になって寝てしまいたいと思った。しかし、これは始まりに過ぎなかったのである。




