ディルク先生と黒歴史
たくさんあったお弁当もなくなり、リリアーナの絶品紅茶を飲んでまったりタイムとなりました。
「そういえば、ディルクすごかったね。男子をあんなにあっさり制圧するなんて」
「制圧って…」
ディルクさんが顔をひきつらせた。
「まあ、確かに私達の助力も要らなかったようだし、大した手腕だったな」
「いいえ。とても助かりましたよ、アルフィージ様」
ディルクは穏やかに笑った。
「そうか?ならよかった」
「本当に助かりましたよ。あれ以上彼らが騒いでたら、ロザリンドがしばき倒しに来ちゃったでしょうし」
「は?」
「……見てたの、バレてた?」
「方法までは解らなかったけど、ロザリンドの気配がしてた」
おうふ、ディルクってばスゴい。野生の勘?
「そうか、私は彼らを救ったのだな」
「どういう意味ですか!?」
「そのままの意味だ。ディルクを侮辱した馬鹿を血祭り…いや、生きててすいませんと泣き叫ぶまで追い詰めただろう?」
「アルフィージ様の中で、私はどんだけ鬼畜なんですか!?2度とディルクにたてつかないように後悔させる程度しかしませんよ!」
『充分すぎるだろう』
レティシア嬢以外からツッコミされました。ちくしょう。
「でも、妙にああいう輩の対応になれてる感じはしたね」
「ああ、騎士団に居た頃、新人の教育係をしていたからね。騎士は獣人部隊と協力して任務にあたることも多いから、俺が適任だって言われたんだよ」
「へー」
知らなかった。しかし、ディルクは確かに適任だろう。獣人の中でも温厚な部類だし、誘導の仕方も上手かった。
「まあ、貴族の子息なんて基本いいとこの坊ちゃんだから、最初にバッキリ心を折っとけば可愛いもんだよ」
『………………』
全員が顔をひきつらせた。爽やかな笑顔で、言動が黒い。なんというギャップ萌え!ディルクにアルフィージ様の持病(腹黒)がうつった!?ブラックディルク様が降臨した!!いや、ディルクはもとから黒い(混乱)
なんとも言えない空気の中、ランチタイムは終了した。
「ディルク先生、こちらにいらしたんですか?」
「どうやったらディルク先生みたいに強くなれますか?」
数人の男子生徒がディルクに話しかけていた。私は昔、これと同じ表情をした騎士達を見たことがある。キラキラした憧れの視線。
「流石はナイト・ヴァルキリー様…」
男子生徒達に聞こえないようポソッと呟いたが、ディルクの高性能なお耳には聞こえてしまったらしい。
「違うから!サラッと黒歴史を掘り返さないで!!」
ナイト・ヴァルキリー様…それはディルクの黒歴史である。ディルクが嫌がったので、ナイト・ヴァルキリー様はお蔵入りする予定だった。
しかし、ナイト・ヴァルキリー様はその後も活躍していたのである。ディルクは素性が知れない方が片付けやすい案件…つまり高位貴族の汚職で立ち入り許可が出なかったりなんかの時に便利に使っていた。
ゆえに、騎士団ではいまだにナイト・ヴァルキリー様信者がいる。
「ナイト・ヴァルキリー様をご存知なんですか?」
「は?」
「へ?」
どうやら男子生徒にも聞こえていたらしい。
「ぼ、僕の家族、兄も父も騎士なんです!それで、前の団長さんの結婚式で初めてナイト・ヴァルキリー様にお会いして…」
少年の瞳は輝き、ディルクの瞳はどんよりした。
「ナイト・ヴァルキリー様、素敵ですよね。わたしもあの結婚式にいたんです」
「そうですよね!」
ディルク=ナイト・ヴァルキリー様だとバレてはまずいので、私は男子生徒に…ミハイル君に合わせてひたすらにナイト・ヴァルキリー様を褒め称えた。
ディルクの瞳がどんどん濁っていったが、仕方ないと思うの。
「ロザリンド…ひどい」
「いや、バレるよりはいいでしょ?」
「そうだけど…」
男の子っていくつになってもヒーローに憧れるものなんですね…それからディルクは大変男子生徒に慕われました。たまに私が蹴散らしたくなるぐらい人気です。人が…ゴミのようだ…いや、玉転がしてくっつけて綺麗にしてやりたい。これがゲーム脳?それとも中二病??末期ですか??
「ロザリィ、大丈夫ですの?」
「……ディルクが慕われるのは嬉しいけど、近寄れないのが辛い…大丈夫じゃない、ディルクにかまわれたいぃ~!」
「ロザリィ…」
「ロザリンド嬢…」
泣いたらミルフィとレティシア嬢からダブルナデナデをいただきました。最近レティシア嬢も私に甘いのです。友情パワーにより、私は男子生徒を蹴散らさずにすみました。
そして、この嫉妬ぶりをラビーシャちゃんに細部まで暴露され、超ご機嫌なディルク様に帰宅後いろんな意味で可愛がられて悶える羽目になりました。
酷いや、ラビーシャちゃん!アルフィージ様に氷王子をばらした報復に違いないです。とんだ羞恥プレイでしたよ!




