魔の中で見たもの
ただひたすらに落ちるような感覚。気がつけば、自分はあのデートで来た場所…『ラヴィ君の場所』に来ていたッス。
「ジューダス様!」
辺りを見回すと、倒れているジューダス様を発見した。
「リンカか…」
ジューダス様に怪我はないようッス。でも、ロザリンドちゃんがいないッス。
「ジューダス様、ロザリンドちゃん知らないッスか?」
「いや、はぐれた……のか?」
あの人、なんでこんなに迷子になるんスかね。いや、もしかしたら拒否られた?ここには『ラヴィ君が許可したもの』しか入れないはず。
ロザリンドちゃんが危ないかもしれない!
「ジューダス様、ラヴィ君を探すッス!ラヴィ君がいればなんとかなるはずッス!」
「ああ」
相変わらずラヴィ君の場所は静かで、生き物の気配がしない。
ラヴィ君はすぐに見つかったが、丸まって怯えていた。
「ロザリンド怖いロザリンド怖いロザリンド怖い」
「「…………………」」
そういえば、邪神はキラキラロザリンドによる集団暴行を受けていたッス。しかも、ロザリンドちゃんはカバディでラヴィ君にトラウマを植え付けたッス。
なんてこった。
このラヴィ君にロザリンドちゃんを探せと頼むなんて、嫌がらせ以外の何者でもない。
「ラヴィ君…」
触れたとたんに、映像が流れてきた。
それは、少年達のお話だった。
独りぼっちの神様だった少年は、気まぐれで地上に降り立った。
「君、誰?一緒に遊ぼう」
そこで神様は、少年と友人になった。駄目だと知りながらも、神様は少年に会いに行く。
少年はいつの間にか青年になり、徴兵された。
当時は戦乱の時代であり、青年が徴兵されたことも、敵地で捕らえられ、無惨に殺されたことも、けして珍しいことではなかった。
敵国にとって不幸だったのは、青年が神様にとって特別で大切な存在であったこと。それを知らずに殺してしまったことだ。
青年の亡骸を見つけた神様は、泣いた。初めてできた大切な友人を無くして、泣いて泣いて…憎悪した。
青年は争いを好まない男だった。青年を戦争にまきこんだ国が憎い。
青年を捕らえて殺した人間が憎い。
こんな酷いことを許した国が憎い。
憎い、憎い、憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
そもそも『愛』と『憎悪』は表裏一体であり、神様はとても不安定な存在だった。大切なものの喪失でそのバランスは一気に傾き、神様は邪神となって世界に災いをふりまいた。
正気にかえった時には、青年がいた国も敵国も滅んでいた。
「ラヴィアス、君は神として、してはならない事をした。罰を受けなければならない」
他の神様達は罰を…魔王として殺され続ける役割を邪神になりはてた神様に与えた。そして、殺されることで神様は自分が穢した世界を浄化するのだ。また穢れがたまれば適当なものにとりついて魔王として産まれ、殺される。
逆に、気が楽だった。罰が欲しかった。自分の罪は到底償えるようなものではなかったから。
殺して…罰を与えて欲しかった。気が遠くなるぐらいの年月を過ごした。何回殺されたか…わからない。
「世界はそんなに残酷じゃない。お前も解放されたらいい。俺は、俺として生きる」
最後の魔王は、魔王として生きたくないと邪神を拒絶した。
「人の中で生きなさい」
救世の聖女は、自分の子孫のなかで生きろと邪神を封じ込めた。
封印のなかで、人の営みを見ていた。いいやつもいた。酷いやつもいた。優しいやつもいた。
大事だった青年を思い出した。
世界を、人を、愛していたことを思い出した。
救世の聖女は残酷だった。魔王として殺され続けるほうがよほど楽だった。思い出したくなんかなかった。自分がどれだけ酷いことをしたのか、思い知らされた。
そして、封印がゆるんできてしまった。たまに少年の代わりに外に出る。世界にたまった穢れを発散しなければならなくて、やりたくないけど他の人間に『種』を植え付けた。少年…ジューダスはそれに気がつき聖域に引きこもる。
婚約者のことも、噂では彼がフラれたことになっているが、実際は彼が婚約者への影響を恐れて身を引いた。
人の人生を狂わせることしかできない己を呪い続けて、神様は光に出会う。
「自分とお友だちになってくださいッス!!」
それは、とても綺麗な魂を持った女の子だった。
「汚くないッス。否定しないで。自分が変な奴なのは今さらッスけど…自分はまっさんを汚いとは思ってないッスよ。むしろまっさんは綺麗で優しいッス」
こんなにも穢れた自分に、優しい言葉をくれた。
「自分は…私は貴方を殺さない。貴方を救うための勇者だから。勇者召喚は『条件に合う者』を召喚するものなんだよ。確かに昔の勇者召喚は『魔を倒せる人間』を召喚していたから、勘違いしても仕方ないけど。ただ貴方を殺すだけなら、救世の聖女にもロザリンドちゃんにも可能だったんだよ。それは覚えておいて」
勇者として召喚されながら、神様を…魔王を救う勇者になると言った。
「渡瀬凛花は、貴方を救う勇者なんだよ。いつか必ずまっさんに『凛花と一緒に生きたい』と言わせてみせるッス!」
自分を救う勇者になると言ってくれた。生きたいと言わせてくれると笑った。
「出来るッスよ。ラヴィ君が心から望むなら、自分はラヴィ君の味方になるッス!」
味方になってくれるって、言ってくれた。
初めて、一緒に『生きたい』と思わせてくれた。優しい気持ちを、心がこもった贈り物を、愛をくれた。幸せだ、と思えた。
未来を、願った。
「リンカ?」
いつの間にか、またラヴィ君の場所に戻っていたッス。
「とんぬらああああ!!」
いや、もうね?自分がおかしいのはわかってるッスよ。でもなんつーか、愛しさと切なさと甘酸っぱさがもう……とんぬらああああ!!
いやもう、嬉し恥ずかし……とんぬらああああ!!
ひたすら草原を転がる自分に、ラヴィ君とジューダス様が戸惑っていたけど、仕方ないと思うッス。えらいもん見てもーたッス。あと、勘違いしてたのが恥ずかしかったッス!!
ロザリンドが不在だと、シリアス先輩がはりきる……不思議です。




