封印と解放と後悔
鍵子さんはダンジョンマスターとこのダンジョンを管理することにしたらしい。たまにジェラルディンさん達が修行したりするようになりました。
それよりこの便器…ではなく封印された魔の本体をどうしよう。
「あ、浄化はほぼ終わってるぜ。なんかわかんないけど、ここ最近急激に浄化が進んだみたいだ」
恐らくは本体と繋がっているからだろう。凛花と魔が交流した成果だ。
「…え?」
封印を解除して露になったその姿は……とても似ていた。
点が線になり、繋がっていく。私がやろうとしていたことの、足りない最後のひとかけらが埋まった。埋まってしまった。
感傷を振り切って、魔の…魔と呼ばれていたものの本体を再度封印した。もう浄化は不要みたいだから、とりあえず箱につめといた。こら凛花、花で飾るのはやめなさい。死んでるみたいだろ。とりあえず、便器よりは箱づめの方が遥かにマシだと思うの。
「凛花…覚悟はいいかな?」
「はいッス」
凛花も、皆も頷いた。これから何が起きるのか、私にも予測できない部分がある。
凛とロザリアが出会い、ロザリンドになった。ロザリアの死亡フラグを回避しようと決めた。
ディルクと出会い、ちゃんと恋をして結婚した。
たくさんの仲間ができた。失敗したりもした。でも、自分なりの最善を尽くしてきた。
ヒロインを召喚した。色々予想外だったけど…これが最後になるだろう。
真っ直ぐに前をみて、ダンジョンを後にした。
「ラヴィ君」
凛花がラヴィに話しかけた。ラヴィは仕事をしていて、不思議そうに首をかしげる。
「ロザリンドちゃんが話があるそうッス」
「…………わかった」
「我々にも聞かせて欲しい」
ジューダス様とジェスが決意をこめて私をみた。彼らは無関係ではない。私は頷いた。今ウルファネア城の応接間にはダンジョン攻略メンバー全員と、ジューダス様、ジェス、ラヴィが座っている。私は単刀直入にきりだした。
「魔…ラヴィの本体を確保しました。かつて神であったモノよ、貴方はどうしたいのですか?」
こればかりは、本人に聞かなければわからない。どんな未来を望むのか。凛花から聞いたラヴィは、破壊や滅亡は望まないと予測できる。だが、彼が何を選ぶかによって、こちらの動きは変わるのだ。
「僕は、幸せになったらいけない」
「あ、そうゆうのいらないから」
私に一刀両断されて、ラヴィの表情が明らかにひきつった。
「…………………」
「私に気を使うな。お前は悪いものではないと、今は理解している」
ジューダス様が優しく微笑んだ。
「出来れば、今後も仕事を手伝ってくれるとありがたいな」
わりとちゃっかりしてるんだね、ジューダス様。
「現在1番の被害者もこう言ってますし、願いを言いなさい。できる範囲でなら叶うよう努力します」
叶えてやるとは言えないが、ある程度ならきっとどうにかできるだろう。
「……と…………たい」
「ん?」
「凛花と、いたい」
「うん」
「凛花といたい。ジューダスの手伝いがしたい。神に戻りたくない。神の力なんかいらない。見守るよりも側にいたい。罪を償いたい…もう間違いたくない…!」
「…そっか」
凛花とジューダス様が泣きじゃくるラヴィの手を取った。この2人がいれば、なんとかなるかもしれない。
彼についての凛花から聞いた話はこうだ。シヴァが作ったゲームからヒントを得た凛花が推測した話。恐らく大筋は間違っていないだろう。
かつて、ラヴィは…ラヴィアスと呼ばれていたものは神だった。愛を司る神だった。
彼は、人を愛してしまった。距離が近すぎた。そして、悲劇は起きた。
ラヴィアスが愛した人間が、惨たらしく殺された。
当然ながら、ラヴィアスは怒り狂い邪神となってしまった。邪神となり、世界中に悪影響を及ぼしたために…生け贄に封じられた。
それこそが、勇者言葉が倒したとされる魔王の始まりだった。
ラヴィアスは穢れとして、魔王ごと何度も滅ぼされては復活して、世界を危機に陥れた。
勇者こと救世の聖女・言葉はそのループを断ち切り、ラヴィアスのみを浄化しながら封印したわけだ。
言葉は全てを封じきれず、本体と魂を分断していた。本体は洋式便……封印具に封じてウルファネア城の地下ダンジョンに隠した。魂を銀狼族…自らの夫と血族へと封じ、金獅子族や闇豹族をその護りとした。そして現在に至るわけだ。
今救世の聖女が施した封印は解かれ、ついにラヴィアスはラヴィは解放された。
兄さん、ごめんなさい。報告、連絡、相談は大事だよね。
言い訳をさせていただくとね、決心が鈍りそうだったんだ。でもね、私もこんなことになるなんて、思わなかったの。
私は後悔しながら空を見上げた。
これは説教案件である。間違いない。
今日はキリがいいのでここまで。本編はここから最終章に突入します。
もう少しだけお付き合いくださいませ。




