ダンジョン攻略・英雄の本領と息子の変化
ジェンド視点になります。
ロザリンドが言った。
「ちょうどいいから採取しましょうか。ジェラルディン、周囲の敵を蹴散らせ。ジェンド、ついて行きなさい。貴方は自衛に専念するのよ」
「え?わかった」
自衛するだけ?と疑問に思ったものの、とりあえず頷いた。
「では行くぞ!」
「待って…って、速い!待ってよぉぉ!!」
お父さんは速かった。なんでこんな木がたくさんはえてる場所で走れるんだよ!確かについていくだけで精一杯で、この調子では自衛がやっとだろう。
「!??」
叫ばなかった自分を誉めてやりたい。今度は木に駆け登り、飛び降りた時に魔物を仕留めたらしい。魔物はお父さんに気がつく間もなく殺られていた。
僕はどこかでお父さんに失望していた。お父さんをバカにしていた。実際、あの人はあまり頭がよくない。
僕が小さい頃、周囲の獣人達はよく『英雄ジェラルディン』の話をしてくれた。獣人ならば大概は知っている英雄譚だ。だから、僕は昔お父さんに憧れていた。お母さんに口止めされていたから言わなかったけど、僕は英雄の子供なんだと誇りに思っていた。
実際は…お父さんは強いけど迷惑なオッサンだった。正直、現実なんてそんなもんだと思ったりもした。
だけど、
「わははははははは!!」
それは、ただひたすらに圧倒的な暴力だった。僕は近付くことすらできずに、この嵐が収まるのを待つだけだ。
お姉ちゃんの武器を使いこなし、敵をひたすらに殺している。僕もやはり獣人だから、胸が熱くなる。圧倒的すぎるこの強者に、どうしようもなく憧れてしまった。
僕は、一流の冒険者になった。皆に比べたら、ランクアップも早かった。だが、それになんの意味がある?この圧倒的すぎる力の前に、あまりにも僕は無力だった。皆が憧れた『狂乱の英雄・ジェラルディン』は確かに、この眼前に存在していた。
「お父さん」
「む?」
「お父さんは、どうしてロザリンドお姉ちゃんを主にしたの?」
「うむ…恩があったのはもちろんだが…初めて俺を負かした相手だからだ」
「…多対1だったのに?」
「ジェンド、お前は多対1で俺に勝てるか?」
「…………」
今の自分では、無理だ。いや、待て。
「ロザリンドとディルクがいれば…」
確実に勝てる。お父さんは頷いた。
「……………そうだな。その二人はなしで頼む」
「じゃあ母さんがいれば…」
「待て」
「なに?」
「何故ルーミアなんだ?」
「お父さんはお母さんに叱られたら固まるから、その隙に……」
「はっはっは!確かにな!…ジェンドは主に育てられたようなものだからか、発想が面白いな!」
頭をぐしゃぐしゃにされた。僕はロザリンドなんかに比べたら、ごく普通だと思うけどなぁ?
「そういえばさぁ」
「ん?」
「僕、獣人仲間からよく『英雄ジェラルディン』の話を聞いた。冒険者仲間からも」
「ふむ」
「昔は強さに憧れた。いつか、僕もお父さんみたく強くなりたいって」
「そうか」
お父さんは嬉しそうだった。失望させちゃうかな?
「でも、今は…今の僕ならもっと英雄を上手く使ってさっさと戦争なんか終わらせたのになって思う。いや、そもそも戦争なんか起こさせない」
「…ほう?」
「英雄という切札があるんだ。相手に降参させるよう立ち回るべきだったよね」
「…例えば?」
僕は英雄の話からいくつかを例にとってどうすべきだったか、策を話した。お父さんは楽しそうに相づちをうち、たまにそれは現実的じゃないと否定したりした。
「ジェンドは軍師向きだな」
「軍師?嫌だよ。そんなのになるぐらいなら外交官にでもなって、戦争なんかできないように工作するよ」
「………うむ。なるほど。確かにジェンドが居たなら、俺は英雄ではなくただの腕っぷしの強いオッサンだったかもしれんな。同胞もあれほど死なずにすんだかもしれん。お前のほうがよほど英雄と称されるに相応しいかもしれんな」
こんなにお父さんと話したのは、多分初めてだった。ロザリンドとの、さっきの会話を思い出す。
「ジェンド」
「何?」
「この階層ではしばらく採取をします。その間、ジェンドはジェラルディンさんについていてください」
「…なんで?」
「冒険者として、学ぶべき部分がたくさんあるでしょう?できるかぎりたくさん、盗んどいてください」
「……頑張ってみる」
苦笑しかできなかった。だって、参考になるかなぁ?僕はこれでも一流の冒険者だ。でも今回で、超一流と一流の差があまりにも大きいことを知った。
いや、いいんだ。僕は英雄になれなくたって、僕として強くなればいい。
そして、開き直って色々やってみた。お父さんからは超直感を使うコツを教わった。結果………
バテた。
しかも、超直感て乱発すると頭痛がするって初めて知った。
いや、うん。失敗することだってあるよね!でも、お父さんの本気を見ることができたおかげで、僕はもっと強くなれそうです。




