ウサメガネの幸せと苦悩
ラビーシャ視点になります。
小説による羞恥プレイでヘロヘロの私は、ヒルダがうまくいったか確認しに行き…匂いで作戦成功を悟りました。
幸せそうな兄を見て、よかったと思いました。ヒルダのお祖父様は反対するかもしれないけれど、兄さんの真面目さと忍耐力があれば大丈夫でしょう。
それよりも、目下の問題は『氷王子と白兎』ですよ!ネタはあるんです。うちのつがいはそれはもうカッコいいのでネタはたくさんあるんです。しかし、その存在を知られてしまった今…本気でどうしようと思っています。
「ウサメガネ先生、何かお悩みッスか?」
ローゼンベルク邸でボンヤリしていたら、リンカちゃんに話しかけられました。
「実は…」
私が悩みを打ち明けると、リンカちゃんは泣きそうな表情になりました。
「ウサメガネ先生の作品が読めなくなるなんて世界の損失ッスよ!アルフィージ様に直談判してくるッス!」
「しなくていいから!」
リンカちゃんではアルフィージ様におちょくられて終了だろう。リンカちゃんを慌てて止めた。
「自分、本当にあの話が…『氷王子と白兎』が好きなんスよ。なんていうか…愛に溢れてて、読むと幸せになるんス。だからファンのためにもやめないでほしいッス!」
嬉しかった。自分の書いたもので誰かが幸せになれると言ってくれることが。昨日はビックリしたけど、たくさんの女性達が私のファンだと言ってくれた。
「……うん。書く」
書きたいことは山ほどある。
「新作、お待ちしてるッスよ!」
こうして、決意を新たに『氷王子と白兎』は継続することになった。しかし、私はこの時相談する人を間違えたことを後で知ることになる。
「ラビーシャ、何を書いているんだい?」
「ぴゅいっ!?」
「…ああ、すまない。邪魔はしないよ」
あれ?いつもなら…
「また私との話を書いているの?見せてごらん」とか「妬けてしまうな…物語より本物にかまってくれないかい」とか……物足りないと少しだけ思いつつ、続きを書き上げたのですが……
「あ、邪魔だったかい?」
「…また後でくるよ」
「どのくらいしたら終わりそうかな?」
おかしい。
アルフィージ様が執筆中にちょっかいをかけなくなった。いつから?調べようかとも思ったが、別に避けられたりはしていない。普段はいつも通りイチャイチャしている。ちょっかいを出さないのは執筆中だけ。そういや小説をネタにからかったりも、あれからされていない。しかし、アルフィージ様に行動を改めさせるなんて…お嬢様ぐらいしか思いつかない。
「アルフィージ様、最近執筆中にちょっかいをかけなくなりましたよね?」
「…されたいの?」
「…………………ちょっとなら」
照れながらも正直に告げたら、アルフィージ様がため息をついた。
「可愛いなぁ、もう」
「ぴゅいっ」
「可愛い、可愛い、可愛い」
「ぴゅいいいいい、耳だめぇぇ」
もがくがホールドされたうえに弱点である耳をはむはむされて力が抜け、密着したためフェロモン酔いしてしまう。しかし、息も絶え絶えになりながらもう一度アルフィージ様に聞いた。今度は仕方ないと教えてくれた。
「いや、本当に君の作品が愛されていてね…リンカ嬢が君のファンを連れて執務室に乗り込んで来たんだ」
「……………はい?」
頭が空回り…いや、理解を拒否したが、聞こえた。
「それで、君の作品製作を阻害するなら、次は大貴族の奥方と手を組んで奇襲をかけると脅してきた」
「えええええええ!?」
「私の知る限りだけど、君のファンは反国王派にも多数いてね…下手するとクーデターとかに発展しかねないから……我慢してた」
「アルフィージ様…」
「もうすぐ留学先に戻るから、また離れる前にできるだけ君と居たいとか…自分がこんなに女々しいとか思わなかったよ」
萌えた。苦笑するアルフィージ様が愛しくてたまらない。
こっそり耳元なら…いいよね?耳元でそっと囁いた。
「…好きよ、アルフィージ」
「!?」
アルフィージ様が耳をおさえて真っ赤になる。珍しいなぁ。フェロモン酔いしても、彼は私を素面に戻して恥ずかしがらせたいらしい。だから、私は素面だ。
「ラビーシャ!!」
大変盛り上がりました。
そして、ローゼンベルク邸。仁王立ちのお嬢様と正座したリンカちゃん。
お嬢様に報告したらこうなりました。罪人みたいです。
「我が腐女子人生に悔いなしッス!自分が死すとも自由は死せずッスよ!」
反省していないのはなんかわかりました。
「凛花…下手したら不敬罪で全員処刑されてた可能性があります」
「………え?」
「お前が巻き込んだせいで、人死にが出た可能性がある。それでも悔いはないか?」
お嬢様は子供に言い聞かせるように、貴族制度や身分差による理不尽な現実を説明した。凛花ちゃんも理解したようで今度はしょんぼりしていた。
「で、発端は?」
「実は…」
アルフィージ様をモデルにした小説がバレて羞恥プレイをされたことを話した。お嬢様、顔がひきつってますよ?
「すいませんでしたぁぁ!」
そして土下座されました。小説をばらしたのはお嬢様でした。なかなか私がアルフィージ様を好いていることを信じてもらえず読ませたとのこと。つまり、アルフィージ様は……あの頃から、小説をしってた?
「お嬢様の、ばかああああ!!」
私はしばらく拗ねました。たっぷりフルーツタルトとクリームのせプリンと焼き菓子一ヶ月ぶん(当然お嬢様作)で手を打ちました。
うち、お嬢様が居なかったら父も兄も処刑されて私は孤児になるとこだったのに、そこを恩に着せたりしない辺りがお嬢様ですよね。
本当はたいして怒ってませんよ、お嬢様。お嬢様がかまってくれたのが嬉しかったんです。
このぐらいは、許されますよね?




