ファンとウサメガネ
ラビーシャ視点になります。
アルフィージ様は無駄がなかった。私との婚約報告ついでにお義母様にお願いして兄を罠へ強制参加させてしまった。
現在は私とアルフィージ様でお茶をしている。そして、私は何故かアルフィージ様の膝に乗せられ首を甘噛みされたり舐められたりしている。室内に人はいないが、廊下には人がいるのでとてつもなく落ち着かない。
「ちょ…結局予定通りな…ぁんですか?」
「ああ。それから母上が義兄上のファンを多数招待して煽ると言っていたな」
「………ふぁん?」
「義兄上は貴族のご令嬢にかなり人気があるんだよ。それもしとやかな大人しいご令嬢にね。なんでも具合が悪いときに軽々と運んで優しく手当てをしてくれたり、不安がったら家の人間が来るまでついていてくれた…子供に笑いかける表情に釘付けになった…怖そうな見かけに反して目が優しい…だったかな」
「ぴゅいっ…見る人は見てるんですねぇ」
あの誤解されがちな兄さんが正当に評価されていたのが嬉しくてへらりと笑ったら、首に痛みがあった。
「…今、君は誰といる?他の男の話はやめようか」
「ちょ…今痕つけましたよね!?」
「ああ…綺麗についたな。後で消すのが惜しいな」
イヤアアア!エロい!エロいよ、アルフィージ様!やばい!これはまずい!
「あとはつけたらだめです…」
「そうだな。目立つ場所だし…治そう。だが惜しいな。君が私のものだというしるしみたいで…できれば残したかった」
苦笑しつつ、首に治癒魔法を使ってくれたのがわかる。私は無言でアルフィージ様の胸元をくつろげた。
「…ラビーシャ?」
ちょうどアルフィージ様の心臓辺りにキスマークをつけた。そして、自分のドレスの胸元を少し下げる。
「…普段見えないとこになら、ちょっとだけつけてもいいです」
アルフィージ様につけたキスマークを撫でた。確かに彼が私のものだというしるしだと思うと…嬉しいし、自分につけられるのも悪くない。
「……ラビーシャ…」
「あれ?」
あの……私はなにゆえ押し倒されているの?胸なら押し倒す必要は……
「やっ!?」
ちょっと!まさかそんなとこ!?
「ん…」
「ぴゅいいいいい!」
私の悲しい叫びがこだましました。エロ王子はいっこ許すといっぱいやらかします。見えないとこにたくさんつけられました。
どこにって?黙秘権を行使します!しかもすっかり気に入ってしまったらしく……定期的につけられるようになってしまいました。うう…恥ずかしい。
そして、アルフィージ様が嬉しそうだとつい甘くなる自分をどうにかしたいです。
あっという間にパーティ当日。アルフィージ様が兄のファンを集めた理由がわかりました。
「うああああ…ゲータお兄ちゃんがモテている…!」
うちひしがれてるヒルダ。そうか、彼女の背中を…押してないな。蹴り飛ばすために令嬢を集めたんですね。アルフィージ様、流石です。ヒルダはアルフィージ様の思惑通り、作戦に参加することになりました。
さて、本日表のメインイベントであるアルフィージ様との婚約発表の時間になりました。
「では、皆に報告がある。我が第一王子アルフィージと…「お待ちください!!」」
王様の話をさえぎるのはハポムーク伯爵だ。アルフィージ様に対していつも嫌みを言ったりしているので、さりげなく事業をいくつか失敗させたので覚えていた。
「あれは…確かハポムーク伯爵だな」
「…ポークハム?」
兄の天然が舞台そでで炸裂した。アルフィージ様達よりも兎獣人である私は耳がいい。聞こえてしまった。笑わないよう腹筋に力をいれた。確かにこう…全体的にムチムチしている。豚っぽ……ダメだ!考えたら笑う!
「ブフッ」
「…いや、ハポムーク伯爵だ」
アルディン様の侍従とアルディン様も微妙に声が震えているので笑っているようだ。いっそ私も笑いたい!
「あー、なんかスマン」
本当だよ!我慢するの辛い!と兄に念を飛ばしたが、届きませんでした。
「平民と婚約など…アルフィージ様は本気ですか!?」
「いたって本気だが?」
アルフィージ様はしれっと言ってのける。私のつがい、超イケメンだわ。そして、照明が消えた。
まあ、想定内だから驚きはない。殺気が…2、3…ふむ。思ったよりは少ないか。お嬢様達が動いているから全く問題ない。あらかじめお嬢様達には兄のことも含めて事情を話してあった。ちなみに腹芸ができない兄と父、アルディン様には教えてない。
予想外だったのは、兄さんだけだった。
兄さんは私達…私とアルフィージ様の二人を抱き締め盾になったのだ。私たちは防御の魔具があるから平気だったのに!
「ぐっ」
兄の辛そうな声が聞こえた。
「ゲータ!!」
眩しい。こんな場合ではないとわかっているけど、暗闇のアルディン様って、まばゆいです。シュールだわ。
「ラート!」
「お任せ!」
アルディン様の精霊の魔法であっという間に室内が明るくなる。矢を放った者達は、すでにお嬢様達が制圧している。
予想外だったのは、私のソウル腐レンドでした。
「我らが宝、ウサメガネ大先生をいじめる奴は許さないッス!!皆、自分に続くッスよ!!」
いや、続く人なんて…と内心つっこんだが、その声に年若い貴族令嬢を中心に女性達が奮起した。
え?
女性達は完全に暴徒と化している。集団の女性ほど恐ろしいものはない。伴侶やパートナーの貴族男性達は唖然呆然…私も唖然である。アルフィージ様は笑っている。その図太さが羨ましい。
「ウサメガネ大先生を狙うなんて許せませんわ!」
「わたくし唯一の癒しなんですのよ!」
「この豚が!ウサメガネ大先生に非礼な言葉を吐くなんて!ハムにしてやるわよ!!」
いやいや、ハムは一応常識を言っただけですよ。でもむかつくからもっとやってください。
騎士もご令嬢またはご婦人を捕縛するわけにはいかず右往左往するばかり。流石のお嬢様も顔をひきつらせ、ボコボコにされる刺客達を見ているしかないよね…いや、しばらく呆然としていたけど、ちゃんとリンカちゃんに説教してた。よく絞っといてください。リンカちゃんのしつけはお嬢様に任せました。
とりあえず、兄は矢が刺さっているが大丈夫みたいだ。自分で矢を抜いているが、あまり痛そうでもない。皮膚の硬化が可能だから、傷は浅いのだろう。それでも心配だったから声をかけた。
「兄さん、大丈夫なの?」
「おお。血も出てないし、毒も問題ない」
「なら遠慮なく」
全力で足払いして、ぶん殴った。
「ぐっ!?」
「兄さんのばか!!死んだらどうするの!?無茶しないでよ!!」
「ああ………悪い」
涙がにじんだ。アルフィージ様が慰めるように私を抱き寄せる。
「そうですよ、義兄上。貴方に何かあれば、ラビーシャも…もちろん私も悲しみます。貴方の優しさは尊いですが…貴方の捨て身は………貴方が傷つくことを、貴方自身を犠牲にすることを悲しむ人間がいることを忘れないでください」
「…ああ」
お嬢様にも散々叱られた兄さんの悪癖。つがいであるヒルダが救ってくれないだろうかと祈ってしまう。私ではダメだ。兄から見て被害者のヒルダだからこそ兄を救えるのではないかと思う。
「さて…ご婦人方、我が妻のためにお怒りいただき、本当にありがとうございます。私はこのラビーシャと国を支え、更なる発展を目指していきたいと考えています」
アルフィージ様の発言に、女性達が大人しくなった。あ、暴徒化してた女性達を忘れてた。私も慌ててフォローした。
「皆様が私の拙い小説を気に入ってくださり、とてもありがたく思っています。公務はもちろん、小説もまだまだ続けます!」
『きゃああああああ!!』
「ウサメガネ大先生!!」
「愛してます!!」
「応援してまぁぁす!!」
異常な盛り上がりにドン引きしつつ、私はアルフィージ様と婚約した。
「ハポムーク伯爵」
「ぐ……」
「平民だろうと、これだけ貴族女性の支持を得ている有能な女性なんだ。私の妻に相応しい…いや勿体ないぐらいの女性なんだよ」
アルフィージ様にときめいたのは言うまでもない。そして、私の試練はこの後でした。
「これに見おぼえは?」
「ぴゅいっ!?」
赤くなり、青くなり、冷や汗がだらだらと流れた。
麗しのつがいの手には………『氷王子と白兎』が……これ、なんてホラー!?
「見おぼえは?」
「わ、私が書きました」
「この小説のモデルは?」
「ぴゅいいいいい…かんべんしてくださいぃぃ」
しかし、アルフィージ様の言葉攻めは容赦なく続き…アルフィージ様は終始ご機嫌でしたが、私は恥ずか死にたい気持ちでした。
現実にあった話を私の内面を足して書いてあるってわかった上で確認しながら朗読するとか鬼畜すぎますよ!アルフィージ様の鬼畜な所業でぶっ飛んでましたが、兄は作戦通りヒルダと結婚することになりました。




